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待望の新刊発売!

『すぐ読める。すぐ変になる』

伊藤円によるヘンテコショートショート集『のうぢる』下巻。シュールでナンセンスな不思議なショートショートをたっぷり54本収録。
次の駅で降りるまでの、頼んだ料理がくるまでの、あとちょっとで家を出るまでの、じっくり本を読むつもりではないけれどなんとなく活字を読みたい時の、何だか退屈な毎日を手軽に変えたい時の、そんな隙間にぴったりな変で不思議なショートショート集。ぜひご堪能ください。





NEWSなるもの神出鬼没として我々にHAPPYやUNLUCKYをおみまいするわけですが、その水面下には営々たる社会活動が存在するのだなあと無職のボクは思ったワケ。

ゆうべね、マイスウィートマミーがボクの部屋のドア蹴破ってこのやうに仰りました。「穀潰しが。今すぐ死ね。でなけりゃ働け。労働の汗も、悪くないよ? きゅん」。この叱咤だか奨励だか判然としない物言いはマイスウィートマミーの癖で、その根底にはボクを傷つけたくないという心が働いているというわけではなく、マイスウィートマミーは最も訴えたいものを先に言う米式スタイルでありますから、つまりマイスウィートマミーはボクに死ねと願っているのですね。いやはやウチのマイスウィートマミーがわかりにくくてすみません。

で、ボクはその言葉を受けてこのように返答しました。「じきに日本は社会主義になる。預金が封鎖され資産の再分配が行われる。だから働こうが働かまいが関係がないんだ。AIの台頭により人間とは?という問いの重要性が高まっている。そこに社会生活を維持するための貨幣制度はもはやナンセンスな旧体制だよね。けれども大事なのは今だよね。タウンワークもらいにいくよ」。このいい加減な口ぶりはひとえに煙に巻きたいからであります。マイスウィートマミーと違いボクは明朗会系スタイルでやらせてもらっているのですよ。しかし! やはり親子ということでしょう、マイスウィートマミーと逆に、ボクは本当に伝えたいことは最後に言います。

こんな時、ボクは血というものへ愛おしさを感じますね。ええ。

ところが血縁にも絶対はありません。それがよくわかるのが晴夫です。晴夫はボクの父ですが、ボクは一度もお父さんやパパ、またはダディー、あるいはゴッドファーザーなどという世間一般の呼び方をしませんでした。嫌っているというわけでは決してありません。むしろボクは晴夫のような立派なMANになりたいと所望しておりますさかいに、時々実家に帰省した時の晴夫の真似をしてKANSAI弁を使用しているやんか、知らんけど。それ程に晴夫は偉大で、何故かと申しますに、ボクのような穀潰しを家庭に置き続けているその広い海のようなmothers heartにおみそれくらわされているという次第であります。

もしも逆の立場なら、とボクは考えたことがあります。もしもボクのような穀潰しがボクの家庭に居座りメシを食ったり排泄したり競馬に行ってウィンカーネリアンに小遣い全額ぶち込んで魂抜かれたみたいな顔しながら人間五十年を力なく舞っていたとしたら、ボクは即座にボクを抱きしめ左手に隠し持ったknifeで腎臓に損傷を与えます。それほどにボクというBOYは穀を潰しに潰しどころかそれを樹木に塗りつけカブトムシを集めこれを飼育、いやになるほど増やしたものを碁盤に並べ、一局どうだい、などと気さくにのたまうpuzzle boyに相違ありませんから、本当に本当に晴夫のmothers heartには頭が下がります。

その晴夫がですよ? ボクたちファミリーをよそに何をしてるか。ボクたちファミリーがいるにも関わらず、晴夫は実家から受け継いだ仏壇の中に隠れて、そこで生活をしているというのだから、まことに血の愛とは曖昧なものだなあと思わずにはいられないのです。無論、晴夫は巨額のmoneyをput my house、おかげでボクたちrich for life、実際なーんにも困っちゃありませんが、晴夫は仏壇の中でボクたちとは別のファミリー、すなわち、another familyを拵え、そっちでよろしくやっているとのことです。マイスウィートマミーはそのことについてこのように意見しております。「これが妾の口惜しさよ、BOY。世間知らずのあなたに私の心など慰められるものですか。その赤ちんぽ剥いて娼婦の一人でも破滅させてきなさい。明日はあたたかなるおうどんでも食べましょう」。

Oh What a day! そのNEWSを初めて聞いた時はびっくりして少しクソを漏らしました。まあ、洗うのはマイスウィートマミーなのでどうでもよかったですけどね。ボクはズボン濡らしたままShake my head、MC5聴きながら家中を駆け回っていかにボクの内心が乱れているかを肉体的に表現いたしました。それを見たマイスウィートマミーは「クズの乱痴気騒ぎほど見苦しいものはないね。そのbad move、あるいはワンちゃんみたいだわ。ワンワン!」と非常にリラックスしたムードで呟きましたが、なんかこの家庭やばいよな、とボクはふと我に返りましたね。無法地帯だな、こりゃ。確かにマイスウィートマミーはご飯をMAKEしてくれたり衣服をWASHしてくれたりくれますが、そのプロセスに於いて先のやうな気狂い騒ぎが内在されていると考えると、まあボクが悪いんですけど、見守るマイスウィートマミーもマイスウィートマミーで、晴夫なんか仏壇の中でanother familyと慎ましく暮らしているとか意味不明だし、なんか、しっかりしなきゃなぁって。

で、ボクはお掃除係に立候補しました。

言葉だけ見るといやに陳腐な感じがしますが、このお掃除とははっきり言って隠語です。お掃除とは清掃という意味ではなくdestroyに近いもので、この家庭にはびこる負の因子を破壊殲滅することで、この家庭の秩序を守り腐敗を防ぎ新たなるStageへアウフヘーベンしようじゃないかという大望を示しております。マイスウィートマミーもこの案には諸手を挙げて賛成してくれましたがしかし、マイスウィートマミーは妾さんなだけあって本妻足り得ぬ抜けたところがあり、ボクのこの野心を本質的に理解していなかった、大喜びで部屋をoutしたマイスウィートマミーは、ボクがまだ天才と呼ばれていた幼少期に制作を強制されたドラゴンボールのエプロンと一昨年同級生と行った熱海旅行の新幹線から拝借してきたゲロ袋を渡し、「ゲボ息子にしては良い考えだな。せいぜい家のクリンネスに励み、ユアスウィートマミーの負担を減らすがよい。本当に母さん、嬉しいわ」といった具合。ボクは呆れ果ててしまいましたがBUT! これこそがdestroyのまたとない標的じゃありませんか。ボクはそれら清掃用具を受け取るなりマイスウィートマミーの股ぐらにdive! 肩車の要領でマイスウィートマミーを持ち上げると、「もうボクが肩車してあげられるようになったんだね。年をとったね。マイスウィートマミー、年をとったんだね。頑張ってね。頑張ってね。あとこれ意味あるかな?」と言ったところマイスウィートマミーは号泣、その日はとてもおいしいボクの大好物のおうどんを食べましたよ。一緒に。文句あるのか。

と、このようにボクはことあるごとに家庭に蔓延るミステリアスをdestroyし続け今日に至るわけですが、そんな生活を続けるうちにボク自身にも変化が起きました。すなわち、マジでやったろうかなって。仕方なくお掃除係に立候補したとはいえ、そうして業務をこなしていくうちボクは労働の尊さに気がついてしまったのです。それはひとえにマイスウィートマミーのおかげで、たとえばマイスウィートマミーが同級生とくすねてきた商店街のペットショップの発注書にセキセイインコ500羽と書いてenter the FAX buttonしようとするのを制止、「それは犯罪になるのでやめましょう。線引きはキチリ。いくらボクにdestroyされたいからって、それはいけない」と、マジで諭した時がありましたが、マイスウィートマミーは「何マジになってんの? それされたらさすがに冷めるわ。せっかくあんたツッコミになって会話にテンポ感やドライヴ感が生まれ私たち母子ならではの形が見えてきたのに。でもありがとね。言われなかったら送ってたわ。あの店長むかつくし」と仰りまして、前半はあまり聞いていませんでしたが、その「ありがとう」という言葉にボクちゃんbe knockout。感謝という概念がボクの魂に芽吹き、もしもこれを世界中の人々から受けることができたらどんなに幸せだろうかと、そうか、それが人生なのかと、WIN-WINなのかと、感謝と成長と夢と希望と世界平和をこの胸に邁進していきてえなって。

ですからボクはタウンワークをもらいにいこうかなとマイスウィートマミーに宣言したわけですが実のところ、既にPCで閲覧していたのです。残念ながらボクのお眼鏡にかなう仕事、世界中の感謝を享受しつつ月手取りで30万くらいもらえる残業10時間以内で福利厚生完備、有給30日以上で在宅ワークという仕事はなかなか見つからずノー・ブックマークの理と相成っておりますが、ボクの内にburning nowする社会復帰と福祉の心は留まるところを知らず、マイスウィートマミーのマイスウィートマミーHeartを撃ち抜くのみならず我が家の仏壇も貫いた! その穴からにゅるりと晴夫が顔を出してきて、三ヶ月ぶりに顔を出してきて、ボクたち、久しぶりにFamilyみたい。で、晴夫はこのように叫びました。

「ヘンテコショートショート集『のうぢる』待望の下巻発売やで!」

Oh What a mutter! ボクは失神しそうになりましたが実際には失神していないので案外平然としていたように感じます。その証拠にボクは久々の夫婦の時間を邪魔しないためにも晴夫にskinを2個(2回戦というわけではなく破れや不良品である可能性を加味した予備としてです。まあ2回戦しても良いと思いますが、年齢的にそれは厳しいでしょう。ともあれ、それがある種のギャグになる場合もあり、実際に、春生は「体力持たんわ」と薄笑いしていたので、2個渡したのは懸命な判断と言えるでしょう)渡し、お2階の自室へenterしました。そしてボクはPCに向かいタウンワークのページを消し、のうぢるを検索にかけました。すると晴夫の言う通り下巻が出ているじゃありませんか。ボクはなんだか涙が出てきました。ボクは待っていたのです。下巻が出るのを誰よりも待っていたのです。こんなに面白い本はありません。のうぢる下巻を読み終えた暁には、就職して立派な大人になろう。そんな決意を胸にボクは購入ボタンを押しました。NEWSはいつも突然に。それか転機になるのか、いえ、それを転機とするのです。嗚呼、さっき、少しだけ行ってもいいかなという仕事がありました。それに、とりあえず、応募してみて、ダメでも、応募してみて、それで、ボクは、晴夫をこちらに引き戻そうと思います。マイスウィートマミーのあんな嬉しそうな顔、初めて見たんや。こりゃあんさん、2回戦どころじゃない、3回4回8、12。んでもって18人子供こさえ一列に並べて東京芝1600、家族記念の出走や! 



『すぐ読める。すぐ変になる』

伊藤円によるヘンテコショートショート集『のうぢる』下巻。シュールでナンセンスな不思議なショートショートをたっぷり54本収録。
次の駅で降りるまでの、頼んだ料理がくるまでの、あとちょっとで家を出るまでの、じっくり本を読むつもりではないけれどなんとなく活字を読みたい時の、何だか退屈な毎日を手軽に変えたい時の、そんな隙間にぴったりな変で不思議なショートショート集。ぜひご堪能ください。

収録作品
旧約・三匹の子豚 / 終わらない三連休 / 歩暗苦 / リサイタルアット忘年会 / 太腿まにあ / イン・マイ・ボディ / アマチュアドゥ・ワップ選手権 / いずこへ? / レモングラスフィナンシャルセンター / 吉田くんの証言 / リッポンス・ベルチェの花 / クワガタムシと僕 / 囚われし者 / 反省文 / 仔猫のねごと / コル・カロリ / 秘密クラブ / ジェフ・ベック漂流記 / 記念すべき言葉 / バカが来たる / アングリー・フィスト / 或る哲学者の日記 / 第十九回ソシラヌ・名古屋カップ / 川谷の挑戦 / クロス・ロード / ウナンサナン / ショートピースとゴールデンバット / なつめ児童合唱団定期発表会 / 或る朝の殺伐 / サラリーマンはつらいよ / インザスーサイド / アルバイター坊主 / 眠れる主婦 / 第151回たかおといさむのネーミング道(みち) / テネシーロイヤルワシントンクラブ3 / 嘘の話 / 寺尾のこと / はじめてのおつかい / ギフトカードのいやらしさ / 義足を失くした三毛猫と / 名探偵タダシ / 里芋小僧 / マジカルパワー / ご近所トラブル / カリスマロードは誰しもに / なぞなぞ仙人 / 日常オン当たり / おやおやもうそんな季節かい / 注文の多いえろおやじ / ぽんこつさん / お見合い / またはハルシオン / みんなのうた / 真夏の昼の夢

是非一度読んでください! kindle unlimitedなら無料で読めますよ!











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