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中華屋でパンクロックを見た

昼時の中華屋などに行くと、大抵はお得なセットメニューが用意されていて、これが結構悩みます。

例えば餃子セット860円と一言で言っても、そこには小ラーメン・餃子10個・から揚げ2個・ライス・漬物などがついてくるのであり、えーと、この場合ラーメンと餃子を単品で頼むと830円。しかしラーメンは小ではなく大になるし、漬物とか全然いらんから単品で頼むほうが得か? いや待て!単品の餃子は6個だけど餃子セットの餃子は10個じゃん。あぶねえ…こんなとこに落とし穴が…と、心が乱れに乱れ、永久にオーダーができずに途方に暮れることもしばしば。

ところが、長年の中華屋に通ううちに、そんなセットメニューの呪縛から軽々と解放されている人種がいることに気付きました。すなわち労務者風の一人客で、かならず昼間から瓶ビールを頼む中高年男性たちです。

彼らは店に入ってくるなり、チラッとメニューを一瞥しただけで「エビチリとビール」っと、いきなり本丸を攻め込んできます。

エビチリ単品!? 昼間から!? お誕生日なのか?っと思わず顔を上げると、どうもお誕生日のような華やかな気配は漂っていない。タオルを首からかけて少年ジャンプを読みふけっている。あわててエビチリ単品の値段を確かめると980円。おおう、この店の全てのランチセットより高い。

ドキドキして観察していると、エビチリ(980円)とビールを運んできたお姉さんに追い討ちをかけるようにさらりと一言。「から揚げ」。

エビチリ単品に続いてから揚げ単品! ビールと合わせてすでにお会計は2000円を超えていますが大丈夫ですか?
それにほら、から揚げは餃子セットを頼めば2つついてきて、お試しができるのですよ。わー知らないのかな? 
気付いて!セットの存在に。頼むからちゃんとメニュー見て!ランチ時はいろいろお得になっているから。

なんて、こちらがヤキモキしている間にも、男性はエビチリを平らげ、ビールを追加し、驚くことなかれ、最後に単品でラーメンを頼み(!)、から揚げを残し(!)、ポケットからクシャクシャの千円札3枚を出して、悠々と帰っていったのでした。

セットでひとまとめになっているラーメン・から揚げ・エビチリを、わざわざ単品にばらして注文する……。この手法、どこかで見たことがある。一度構築されたものをすべて解体し、自らの解釈で再構築して新しい価値観をつくりあげる……。そう、まさにパンクロックのそれだ。

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