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もしも「100%ムリ!」が無理じゃなかったら?

「もし、もしも、ですよ。見るだけで腰痛が治ると評判のテレビドラマがあったとしたら、視聴率がとれると思いませんか?」
私は、営業用スマイルでニコリと笑った。内心はヒヤヒヤだ。さて、4人目となるこの方はどんな反応をするのだろう?
「うんまあ、それはそうだけど」
「でしょ? そうですよね。話題になりますよね」
「まあね、それが本当ならね」

1997年、オーストラリアのヴィクトリア州で、腰痛のマスメディアキャンペーンというのが行われた。
有名スポーツ選手や、コメディアン、女優、整形外科医やスポーツトレーナーなどが協力し、「腰痛に屈するな」というメッセージを込めた36種類のテレビCMが作成された。そして、このCMはゴールデンタイムを中心に1年半にわたって繰り返し放送されたという。
その結果、腰痛関連医療費は20%も減少し、経済効果は約70億円にものぼると推計されている。

テレビCMを流すことで、腰痛患者さんが減った。
これは一体どういうことだろう?

「ぎっくり腰は痛いですよね。でも動かさないともっと悪化します。腰痛になった時はできるだけ動かしましょう。腰痛に屈しないでください」
というメッセージが込められたこのCMを見た人は、腰痛は痛いけれども動いた方がいいということを学ぶ。

つまり、CMを見ることで、腰痛に関する「考え方」が変わったのだ。
こんな風に腰に指1本触れなくても、腰痛に対する「考え方」を変えるだけで腰痛は改善する。これが現在、最新かつ最高レベルの科学的根拠が認められている「認知行動療法」という治療法なのだ。

オーストラリアで行われたこのマスメディアキャンペーンを、もし日本で行ったとしたら?
2800万人とも言われる腰痛患者さんの2割、540万人。慢性の痛み関連社会的損失1兆8000億円のうち、仮に1割だとしても1800億円。これだけの効果が期待できるのではないだろうか?

だったら、やればいいのに。
日本でもやればいいのに。

私だけではなく誰もがそう思うだろう。だけど、国が特定の疾患のために、お金を出すとはとても思えない。それに、日本の医療制度は、検査をすればするほど、患者さんが増えれば増えるほど病院が儲かるシステムで、患者さんが減ることを喜ばない人が多いのも事実だ。

そこで私は、考えた。だったら私に何ができる?
テレビCMは作れないけど……。
そうだ、テレビドラマの原作なら書ける、かも?

オーストラリアのキャンペーンのように1年半とはいかないけれど、連続テレビドラマなら3か月は放送されるし、再放送もある。テレビCMのように頻繁ではないだろうが、短い予告編は何度も流れる。それがメディアキャンペーンのかわりになるのではないだろうか?

そういうわけで、私は連続テレビドラマの原作となるような、腰痛に対する「考え方」を変える「小説」を書くことにしたのだ。そのままシナリオとして使いやすいように、登場人物を増やし、会話文を増やし、実現可能な場面設定にした。ワンクール10回をイメージして、8章プラス、プロローグとエピローグ、全10回になるように設計した。

その小説『人生を変える幸せの腰痛学校』(プレジデント社)は、2016年11月に無事に出版された。そして私は、「ドラマ化したい。誰か知り合いいませんか?」と言いつづけ、紹介してもらったテレビ関係者に会い、こうして説明をしているというわけだ。

今のところ、私が書いた「腰痛改善小説」がドラマ化される気配はまったくない。というより鼻から相手にもされていない。
「ふ~ん、おもしろいね」
「まあ、本を読んでみますよ」
今までに会った3名のテレビ関係者との話は全部そこで終わっている。

その中の一人には、はっきりと「可能性は限りなくゼロに近い」と言われた。
そんなことはわかっている。私だって、そのくらいのことはわかっている。
だけど、「限りなくゼロに近い」は「ゼロ」ではない。その「限りなくゼロに近い」ことが、もし実現すれば最高に面白いじゃないか、とも思う。

私の書いた本の中で、主人公はこんなセリフを話している。
「100%無理だと思い込んでいたことが、実際には無理じゃなかった。ありえないって思っていたことが、やってみたらありえたんです。これってすごいことですよね」
これはそのまま私の本心だ。

健康番組は視聴率がとれる。健康は多くの人にとって最大の関心ごとだからだ。
この「腰痛改善ドラマ」の効果が期待できることは、オーストラリアの例からみても明らかだ。「見るだけで腰痛が治るドラマ」だなんて、日本初の試みで新奇性もばっちりだ。2800万人以上の潜在視聴者がいることもわかっている。これだけの条件がそろっているのだ。きっと、私の話を真に受けてくれる人はいるだろう。

1年後、いや5年後、10年後かもしれない。
私の書いた「腰痛改善小説」は連続テレビドラマになり、そのドラマを見た多くの人が腰痛から解放されるはず。誰がなんといおうと私はそれを信じている。
そのテレビドラマのエンドロールを見ながら、私は心からの笑顔でニコリと笑うのだ。
「ほらね、無理じゃなかったでしょ?」と。
(了)


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