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講師が紹介する “合格後おすすめの1冊” ~蛭町浩講師~

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フレーム・コントロールの原点 登記制度の視かた考えかた
伊藤塾(編)/弘文堂

この本は,「一人子相続」における登記実務の取扱の常識を,いとも簡単に覆した裁判例(平26.3.13東京地判,平26.9.30東京高判)に衝撃を受け,従来の登記の常識を疑い,何が本当の意味での登記の常識なのかを,司法書士自身の手で問い直すことを指向するものです。

例えば,現在の法制度は,「実体法優位」となっています。民法を実体法とすれば,不動産登記法は手続法であり,実体法の価値を実現する手段という図式で,これらの法を学ぶことが常識となっています。この常識によれば,登記制度に問題が生じた場合,その問題は手段である手続法の問題として解決を図れば足りることになります。
しかし,手続法である登記制度が先行し,その効果的な運用のためにこそ実体法が整備されるという関係こそが真の常識であれば,登記制度の問題を,単に手続の問題ではなく,実体法の解釈や改正で解決を図るのが1つの選択肢となります。

また,我が国の登記制度は,ドイツやフランスの制度を法継受したものと考えるのが常識です。この常識が正しければ,登記制度の問題解決は,母法国の制度を調査が解決の端緒となるはずです。
しかし,この常識が誤っていれば,我が国の登記制度の歴史を知り,登記制度の問題が,どのような歴史的経緯に由来するものなのかを検討する方が,より効果的な改善策につながることになります。

この本は,相続登記の長期の放置が,所有者不明土地問題,空き家問題,被災地の用地の取得困難という社会問題を顕在化させつつあった時期に作成されたものであり,現在,検討されている所有者不明土地問題を解決するための民法,不動産登記法の改正を考える場合に,基礎的な前提を提供する本となっています。

自ら作成した本を紹介する,手前味噌の推薦ですが,分量,内容ともにこれに相当する類書がないため,あしからず御了承を頂きと思います。

最後に,これは,自慢なのですが,国土交通政策研究所報第 67 号 2018 年冬季 総括主任研究官 福田充孝氏の「我が国の不動産登記制度の沿革について -所有者不明土地問題資料-」の注49に本書が参考文献として引用されています。当該論文はネットで検索して読めるので,興味がある方は是非ご覧下さい。

「我が国の不動産登記制度の沿革について -所有者不明土地問題資料-」の注49
旧不登法制定時、登記の調査資料としての機能を保障する登記連続の原則が議論されなかった訳ではない。「登記の連続性原則は、1896(明治 29)年 3 月 6 日の第 8 回会議で審議されています。登記の連続性原則とは、すでになされている登記簿の記載を前提として、それに論理的に連続しない登記を排除し、間断なく登記がなされなければならないという原則をいいます。……登記の連続性原則は、制度の根幹をなす大原則であるため、共同申請の原則(審議条は 30 条、旧不登 26 条)に先だつ29 条に配置されていました。しかし、審議の結果、条文として規定することが断念されました。その理由は、未登記不動産について、あたかも登記が不能となるかのごとき文章表現が問題とされたためです。 内容の点で、ほぼ全員の賛成を得ながら、文章表現という立法技術の問題により立法化が断念された、まれなケースとなっています(伊藤塾編「フレーム・コントロールの原点 登記制度の視かた考えかた」弘文堂(2016)p122)」。登記連続の原則の重要性を考えると、極めて遺憾なことであると言わざるを得ない(この原則については、教科書でもあまり触れられていないことについて、小粥p104 参照)。

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