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「理解」するための学習方法

前回の記事では,年内の「実力養成期」では,暗記に偏らず,理解重視の学習による理解力のベースアップをすることが必要となるという話をしましたが,今回は「理解」するためにどのように学習すればよいかについて,お伝えしていきます。

当コラムにおいて,「理解」とは,制度趣旨(理由付け)を踏まえた学習を意味し,「暗記」とは,結論を押さえるだけの学習を指すものとします。

【1】「理解」するための学習方法

今回の記事では,「理解」を「制度趣旨(理由付け)を踏まえた学習」と位置付けていますが,まさに「理解」するためには,「なぜそうなるのか」という制度趣旨(理由付け)を把握することが極めて重要です

軸となる制度趣旨を踏まえて知識を押さえることで理解が深まり,その結果,その知識が記憶しやすくなるのはもちろん,他の知識と関連付けて押さえることができるので,全体的な学習効率を上げることができるのです。

【2】制度趣旨を習得するための手段

制度趣旨を踏まえた学習が重要だとはよく言われますが,受験生の皆さんが知りたいのは,「その制度趣旨をどうやって習得するか」という手段にあると思います。

制度趣旨を習得するための手段は主に次の3点です。
① 講義内での講師による説明
② テキスト・問題演習の解説等の教材内での記載
③ 自分で推測して考える

それでは,それぞれのポイントを説明していきます。

〔①〕講義内での講師による説明

講義内では,講師から制度趣旨を踏まえた説明をされることが多いと思いますが,そこでよくあるのが,その場で分かった気になって,時間が経った後に肝心の制度趣旨を忘れてしまったというパターンです。

そうならないために,講義内で制度趣旨の説明があったら,なるべく手持ちのテキストにメモをするようにしておきましょう

とはいえ,講師の説明をすべてメモをしようとすると,逐一講義を止めなければならなくなり,学習のペースが低下してしまうため,講義を受けている際の制度趣旨のメモはキーワードが拾えていればよいでしょう。

〔②〕テキスト・問題演習の解説等の教材内での記載

テキスト・問題演習の解説等の教材内で制度趣旨の記載がある場合は,そこから把握すればよい話なので,制度趣旨の習得が容易ではあります。ですが,(教材の体裁にもよりますが)すべての知識に対応して制度趣旨が記載されているわけではありません。

すなわち,テキストにおいて,基本的な知識に関しては制度趣旨の記載があっても,(ページ数等の都合もあって)細部の知識に関しては制度趣旨の記載がない場合もあります。

そこで,テキストに記載のない制度趣旨を習得するために有効なのが,「当たり前の規定(基本的な知識)の制度趣旨に立ち返る癖をつけること」です

それでは、次の本試験問題を例にとって説明していきましょう。

【平成29年第12問イ】
「Aを所有権の登記名義人とする建物について、Aが債権者Bとの間で抵当権を設定する契約を締結した場合には、利息の定めとして「年1.5%。ただし、将来の金融情勢に応じ債権者において利率を適宜変更できるものとする」旨を申請情報の内容とする抵当権の設定の登記を申請することができる。⇒×」

本問の問題の解答の根拠となる先例は次の通りです。
「『将来の金融情勢に応じ債権者において利率を適宜変更できるものとする』旨の不明確な定めを利息に関する定めとする抵当権設定の登記を申請することはできない(昭31.3.14民事甲506号通達)。」

この知識の土台として,まず,「『利息に関する定め』は抵当権の登記の登記事項となる(法88条1項1号)」という規定があります。ただ,当たり前の規定すぎて,なぜ抵当権の登記において「利息の定め」が登記事項となるのかという視点がスルーされてしまうことも多いです。

なぜ「利息の定め」が抵当権の登記の登記事項となるのか、それは、抵当権者は満期となった最後の2年分の利息についてのみ優先弁済権を第三者に主張できるとされているところ(民法375条1項)、後順位抵当権者等の第三者に抵当権の利息分についての優先弁済権の範囲を周知させる趣旨です。

そうなると、上記の先例のような第三者にとって計算不能なあいまいな定めを利息の定めとして登記することは、優先弁済権の範囲を周知させるという趣旨に反し、認められないことが分かります。

また、このように考えれば次の先例も簡単に覚えることができます。
抵当権設定の登記において、利息に関する定めを「利息は年○%とする。ただし,融資契約に違反するときは,年○%とする。」として登記することはできない(昭44.8.16民事三705号回答)。

このように、当たり前の規定の制度趣旨に立ち返る癖をつけることで、細部の知識の精度趣旨に推測が立ち,習得することが可能になるとともに,法律の考え方を把握することができます。当たり前の規定こそ、制度趣旨を大事にして,そこから繋げて考えるようにしましょう

〔③〕 自分で推測して考える

合格体験記などで見かける「なぜそうなるのかを考える習慣を付ける」という勉強法。これを実践したいと考えているけれども、自分の思いついた制度趣旨が正しいかどうか不安だからなかなか実践できない、という方も結構いらっしゃると思います。

ですがここでは,間違いを恐れず,積極的に自分で「なぜそうなるのか」(制度趣旨)を考える姿勢を身に付けることが大事です

というのも、司法書士試験において条文・判例等の制度趣旨を把握することがなぜ大事になるのか。それはもっぱら「結論を覚えやすくするため」です。知識を結論単体で押さえるよりも,その制度趣旨を併せて押さえたほうが記憶に残りやすい。この脳の仕組みを活用するために理由付けをしているわけです。

制度書士そのものが試験で聞かれることはほとんどありません。ですから,自分で思いついた理由付けが間違っていたとしても,結論を正しく押さえられていれば問題に正解することができます(合格者もすべての条文・判例等の制度趣旨を正確に把握できているわけではありません)。

もちろん,これに抵抗感を持つ方もいらっしゃると思います。しかし,制度趣旨を書籍で逐一調べようとしてもかなりの時間がかかってしまいますし,自分で理由付けを考えないとなるとかえって思考停止になってしまい、法的思考力を養うことができません。それは試験対策上も,実務上も好ましいことではありません。

むしろ,間違いを恐れずに積極的に自分で制度趣旨を考える姿勢を身に付けた方が、結論が覚えやすくなるのに加え,自分で考える癖がついて法的思考力を養うことができる結果,推論問題に強くなるというオマケまでついてきます。

そのため,テキストに書いていないような条文・判例等の制度趣旨はとりあえず自分で考えてみて,そこから勉強していくうちに修正していくのが効率的といえます。

これはあくまで試験対策上の姿勢の話なので,実務に出てからは書籍でじっくり調べた上で正しい根拠を理解しておく必要はあります。

ただ、もちろん理由付けを考えるのに時間をかけすぎると逆効果なので、「20~30秒考えて分からなかったら次へ進む」などの線引きは最初に決めておくようにしてください。


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