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【記述式】申請の個数の判断-名変省略②(蛭町講師)

今回は以下の記事の続きとして,原因関係の個数例外のうち「申請省略の例外」であり,その中で,受験生がよく知っていると思われる抹消登記における名変省略を取り上げる。

抹消登記における名変省略

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【1】名変登記の原因関係の判断 

 名変登記の原因関係の判断の基本を確認する。名変登記は,住所移転や氏名の変更が登記名義人について生じた場合に問題となる登記である。多くの受験生は,Aの住所移転の事実が示されると名変登記を「思い込み」やすいが,これがクセ者で,Aが登記名義人であって初めて名変登記の原因関係が検討対象となり,Aが抵当権等の債務者であれば抵当権等の変更登記の原因関係が検討対象となるに過ぎず,最初の思い込みで検討が必要な登記を見逃してしまっている受験生も少なくない。

 Aの住所移転を名変登記の原因関係だと判断したとしても,本当に原因関係として申請ができるか否かは,名変登記の可否判断と要否の判断を経なければ結論を出すことができないのである。 

【2】抹消登記における名変登記の省略

 択一で学習しているとおり,①所有権以外の権利の抹消登記,②登記義務者に名変原因の発生,③変更更正証明情報を添付すれば,抹消登記の前提となる名変登記の申請を省略できる(昭31.9.20民甲2202通等)。この例外は,意外にも平成21年に1回しか出題されていない。

 むしろ,過去問の手口として注意すべきは,平成20年,平成26年に出題されている元本未確定根抵当権の弁済による抹消登記の取扱である。

 弁済という抹消原因は,元本確定後しか申請できない原因であるため,弁済で根抵当権を抹消するには,実体上,元本が確定していなければならない。例外的に元本の確定が登記簿上明らかであれば,先例により元本確定の登記を要しない(昭46.12.27民三960依命通知)が,この例外に該当しなければ,原則どおり元本確定の登記を抹消登記の前提として申請しなければならない。

 この場合,根抵当権者に本店移転などの名変事由が生じていれば,前提として元本確定登記の申請する場合,その登記義務者となる根抵当権者の名変登記の申請は省略できず,元本確定登記を要しない場合には,抹消登記の登記義務者となる根抵当権者の名変登記を上記の先例により省略できることになる。これは,元本確定登記の要否が,名変登記の要否の判断に密接・不可分に関連付けられ,論点の難易度が高められていることを意味する。

 また,平成20年の出題は,名変事由が本店移転で,元本確定事由が根抵当権者からの元本確定請求であった。

92・平20 本店移転による2番共同根抵当権登記名義人住所変更登記
93・平20 根抵当権者の元本確定請求による2番根抵当権元本確定登記
※消滅の登記は答案作成から除かれており,この指示が0点時点の要因の1つ

 これに対して,再出題となっている平成26は,名変事由が商号変更,本店移転,元本確定事由が根抵当権者のする物上代位による差押(債権差押)であり,意図的に難易度が高めていることが分かる。

120・平26 本店移転,商号変更による1番根抵当権登記名義人住所,名称変更
121・平26 根抵当権の物上代位の差押による1番根抵当権元本確定
122・平26 弁済による1番根抵当権抹消

 これが,過去問の焼き直しプラスアルファの実態なのであり,決して単純な繰り返しとして出題となっていない点が,記述式試験の嫌らしいところなのである。

 とはいえ,出題の手口を把握していれば,元本確定の登記の要否こそが上記の出題の核心であるとして問題が検討できるため,出題の手口を知らない場合よりも,正解に達する可能性は高まる。

出題の手口を分析・把握しておく意味は,問題を解く際に有力な視点(チェックポイント)として機能する点にあるといえるであろう。

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