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特別講義編「抵当証券に関する登記」

みなさん,こんにちは。伊藤塾講師の髙橋智宏です。

今回は特別講義編として,「不動産登記法:抵当証券に関する登記」を取り扱います。

【1】 意 義

抵当証券とは,不動産金融の円滑化を目的とし,抵当権とその被担保債権を証券化して,その譲渡方法を簡便にし,権利の流通を図るものである。これにより,抵当権付債権の譲渡について,第三者に対抗するための繁雑な手続(確定日付による通知・承諾,抵当権移転登記)を経ることなく,単なる抵当証券の裏書譲渡により,債権とこれを担保する抵当権の双方の移転につき対抗要件を具備させることができる。

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【2】 抵当証券の交付の登記

 ⑴ 交付申請手続

土地,建物又は地上権を目的とする抵当権を有する者は,抵当権設定者との抵当証券発行の特約に基づいて,管轄登記所に対し,抵当権が被担保債権全部の弁済を担保するに足りることを証する情報(担保の十分性を証する情報)を提供して,抵当証券の交付申請をすることができる(抵証1条1項)。

〔趣旨〕担保の十分性を証する情報の提供を要するのは,担保不十分な物件の抵当証券が発行され,それが流通することで抵当証券の譲受人が不利益を受けるのを防止するためである。

 ⑵ 抵当証券の交付の登記

抵当証券交付の申請を受け,抵当証券を交付した場合には,登記官は職権で,抵当権設定の登記に付記して,抵当証券交付の登記をしなければならない≪確認問題①≫(規3条8号,94条1項)。

 ⑶ 抵当証券発行の定めがある場合の抵当権設定登記における登記事項

 抵当権設定の登記において,抵当権の設定契約に,抵当証券発行の定めがある場合,その定めは登記事項となる。また,抵当証券発行の定めがあり,元本又は利息の弁済期又は支払場所が定められている場合には,その定めも登記する≪確認問題②≫(88条1項6号)。

〔趣旨〕これらの事項は,通常の抵当権については,第三者対抗要件として登記させる意味はないため登記事項とならないが,抵当証券は転々流通することが予定されているところ,転得者に弁済期・支払場所を知らせるために抵当証券に記載する。そこで,抵当証券発行の定めがある場合においては,抵当証券作成時にこれらを記載することができるように登記事項とされている。

【3】 抵当証券発行後の登記の注意点

 ⑴ 抵当証券発行後の抵当権移転の登記

抵当証券が発行されている抵当権の移転登記をするときは,登記原因証明情報として,発行されている抵当証券を提供しなければならない。

 ⑵ 抵当証券発行後の抵当権変更・更正の登記

  ⒜  債務者の氏名住所変更・更正の登記の特則

抵当権の債務者変更の登記は,抵当権者と設定者との共同申請によることが原則であるが,抵当証券が発行されている場合において,登記された債務者の氏名若しくは名称又は住所に変更・更正が生じたときは,その変更・更正の登記は,債務者が単独で申請することができる≪確認問題③≫(64条2項)。

〔補足〕抵当証券は裏書譲渡によって転々譲渡されることが想定されているところ,債務者が,抵当証券の所持人は誰なのか分からない事が多いことから,債務者による単独申請が認められている。よって,抵当証券の提供は不要である。また,この場合には,債務者の氏名若しくは名称又は住所について変更又は錯誤若しくは遺漏があったことを証する市区町村長,登記官その他の公務員が職務上作成した情報を提供しなければならない(令別表24添)。

  ⒝  ⒜以外の変更・更正の登記

上記⒜の場合を除き,抵当証券が発行されている抵当権の変更又は更正の登記を申請するときは,発行されている抵当証券を提供しなければならない(令別表25添ニ,抵証16条参照)。

〔趣旨〕抵当証券の発行があった場合の抵当権変更は,抵当権変更登記をした上で抵当証券の記載を変更しなければ第三者に対抗することができないからである。

 ⑶ 抵当証券発行後の抵当権の登記の抹消

抵当証券が発行されている抵当権の登記を抹消するときは,発行されている抵当証券を提供しなければならない≪確認問題④≫(令別表26添チ)。抵当権が消滅すると抵当証券も効力を失うため,抵当証券を回収する必要があるからである。

〔補足〕抵当証券交付の付記登記を抹消するときは,発行されている抵当証券又は抵当証券を無効とする旨を宣言する除権決定があったことを証する情報のいずれかを提出しなければならない(令別表26添リ)。必ずしも抵当証券を提出しなければならないわけではないことに注意しよう。

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【4】 担保の十分性を証する書面の提供の要否

前述のように,抵当証券の交付を申請する場合,担保不十分な物件について抵当証券が発行されることを防止するため,登記所に対し,担保の十分性を証する情報を提供しなければならないが,同様の趣旨から,抵当証券が発行されている抵当権について,「順位が繰り下がる順位変更の登記」「共同担保物件の一部について抵当権抹消登記」を申請するときは,担保の十分性が危ぶまれるため,担保の十分性を証する情報の提供を要する≪確認問題⑤≫(平元.10.16民三4200号通達)。

〔補足〕抵当証券が発行されている抵当権のために抵当権の順位譲渡があった場合にする変更の登記においては(抵当証券を有する者が順位譲渡を受ける場面),抵当証券を提供しなければならないが,担保の十分性を証する情報を提供することを要しない(平7.11.7民三4167号通知)。上記のような,担保の十分性が危ぶまれる場面ではないからである。

今回の内容は以上です。最後に次の確認問題に取り組んでみてください!この記事がみなさんの学習のお役に立てば幸いです。

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