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根抵当権と債務者変更

「根抵当権では、元本確定前のみ債務者の変更が可能」と覚えている受験生も多いと思います。

記述式の問題でよく受ける質問が、「元本確定後の根抵当権なのに,債務者の変更登記をしているが、確定前にしかできないのではないか?」というものです。

これを理解できているかどうかは、根抵当権の本質に関わる非常に重要な問題です。

「元本確定前にしかできない債務者の変更」は、根抵当権者と設定者の契約による、民法398条の4に基づく債務者の変更です。
これは債務引受による債務者変更ではなく、担保される債権が完全に入れ替わるというものです。

元本確定前の根抵当権の根抵当権者をA・債務者をB・債権の範囲を売買取引とします。

債務者をBからCに変更すると、今後はBの債務ではなくCの債務が担保されるようになります。

A⇒B 甲債権100万円  ←根抵当権はこの100万を担保していた
A⇒C 乙債権100万円  ←これは無担保債権

この後、債務者をBからCに変更した(398条の4)

A⇒B 甲債権100万円  ←これは無担保債権になる
A⇒C 乙債権100万円  ←根抵当権はこの100万円を担保するようになる
※甲債権・乙債権はいずれも売買取引で生じた債権とします

このように、債務者をBからCに変更すると、担保される債権が全く別のものになります。このような変更ができるのは元本確定前だけです。

一方、「債務引受による根抵当権の変更登記」は元本確定後においてのみ可能です。
元本確定後は抵当権と同じように付従性・随伴性が生じるので、抵当権と同じように、被担保債権について免責的債務引受がされれば、根抵当権の債務者も変更されます。

元本確定後に免責債務引受がされるということは、

A⇒B 甲債権100万円  ←根抵当権はこの甲債権を担保するものと確定している。

甲債権につきBからCに免責債務引受がされると

A⇒C 甲債権100万円  ←根抵当権はこの甲債権を担保する。甲債権の債務者がBからCに変わるので、根抵当権の債務者もBからCに変わる。

というものです。元本確定前のみ可能な債務者変更とは別の話になります。

以下、やや強引な例え話ですが、

「パンダのぬいぐるみ」と「コグマのぬいぐるみ」が売っていました。パンダは売り場A、コグマは売り場Bに売っています。
子供に「どっちが欲しい?」と聞いたところ、最初は「パンダ!」と売り場Aに行きましたが、「やっぱりコグマがいい!」と売り場Bに行きました。
これは、元本確定前の債務者変更(A→B)と同じです。「やっぱりパンダはやめて、コグマにする」というものです。

一方、子供が「パンダ!パンダに決めた!」と売り場Aに行きましたが、パンダの売り場がBに移動してしまったので、子供はパンダを追いかけて売り場Bに行きました。これは、元本確定後の債務者変更(A→B)と同じです。「パンダに決めたから、パンダを追いかける」というものです。

「売り場Aから売り場Bに行った」のは同じでも、「パンダをやめてコグマにした」のか、「パンダを追いかけて行った」のかでは全く別の話になります。
「元本確定=パンダに確定」というイメージです。


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