最後の最後の記述式~もったいない答案よ、さようなら~ 商業登記法
1 登記の事由について
T「今回は、商業登記法についてお話いたします。商業登記法は不動産登記法を比較して、ある程度記載に幅があるように思いますが、いかがだったでしょうか。まずは、登記の事由についてお聞きします。」
K「確かに、登記の事由は内容が登記官に伝わればよいという面も否めませんので、ある程度採点基準も緩くなります。ただ、自分では伝わっていると思っていても、本当にオリジナルな記載だと伝わらない可能性がありますので、雛形を押さえておくということの重要性は不動産登記法と変わらないと思います。」
T「私が採点した答案の中に、「監査役設置会社の定め」「会計参与設置会社の定め」とだけ書いて、「廃止」や「設定」の旨が書いてないものがありましたが、これでは登記官にどういう登記をするのか伝わっているとは言えず、試験でも得点にはならないと思います。」
K「そこまで書いていながら得点にならないのはもったいないですね。やはり、一言一句正確にというほどではなくても、なんとなく書けるという程度には雛形を押さえておいた方が得点のチャンスが増えますし、いちいち思い出しながら書いていくよりも時間短縮になると、私は思います。」
2 登記すべき事項について
T「次に、登記すべき事項について、どんなもったいない答案がありましたか。」
K「書き間違いは、不動産登記法より多かった印象です。「令和4年3月10日」を「令和4年 月10日」としたり、「株主総会議事録」を「株主総会議事 」などとするように、一部が書き漏れている事例や、「監査役」を「監査人」としたり、「A税理士法人」を「税理士法人A」としたりするような書き間違いをよく見かけました。」
T「私も受験生のころは、「会計監査人」を「会計監査役」とよく書き間違えていました。第2回で発行可能種類株式総数及び発行する各種類の株式の内容の変更が出題されたのですが、「甲種株式」「乙種株式」と書くべきところ、「甲種類株式」「乙種類株式」としているものを多く見かけました。これも書き間違いの一種ですね。」
K「伊藤塾の講師陣が言うところの「書くと決めたなら正確に書き写すべし」という写経の精神が必要な登記ですね。同じように写経の精神が必要なものとして、今回は発行できませんでしたが、新株予約権の発行が挙げられます。」
T「新株予約権の発行の場合は、決議された事項のうち登記事項が何かという判断も加わるので少し難しくなりますが、書くと決めた場所は正確に書き写すという点では共通しますね。同じく登記事項が何かというのを判断するという点では、第2回で出題された会計参与の就任登記で、書類等備置場所の記載が無かったものが多かったですね。」
K「確かに多かったです。第1回に出題された支配人の選任登記において、原因日付の記載があったものも多かったです。その他意外だったのは、代表取締役の退任登記において、住所の記載をしている方をかなり見かけたことです。今回の採点で、本当に基本的なことで得点に差がつくのだなということを感じた箇所です。」
T「伊藤塾の講師陣も言っていますが、普通の人ができることを普通にやることができるか否かが司法書士試験合格のカギというのを実感しますね。その他に、登記すべき事項について、何かもったいない答案はありましたか。」
K「一番もったいない答案を忘れていました。「同日」と記載している答案で、最初に書いた項目の日付の記載が誤っており、以降「同日」で続けた登記すべき事項が全部バツになる答案です。些細なミスなのに大量失点につながるので、本当にもったいないと思います。」
T「商業登記法の最も恐ろしいミスですね。私もそれが怖いので、同日が続き過ぎる場合は、途中でちゃんとした日付を挟むようにしていました。それだけで、全滅ということは防げます。」
3 添付書面欄について
T「添付書面欄で、もったいない答案はありましたか。」
K「添付書面の名称は書いてあるのに、通数が書いていないものを多く見かけました。特に「委任状」を先に書いておくと決めている方も多いと思いますが、その際に通数を書かないのはもったいないと思いました。先に書くなら「1通」まで先に書いておくべきかと思います。」
T「Kさんの言うように、商業登記法においては、ほとんど全ての年度で必要となる添付情報を先に書いておいて、あとで不要ならば消すという方針の方も多いと思います。委任状の他には定款がそれに当たるでしょうか。その際には、通数も先に書いておいた方がいいということですね。確かに、添付情報は通数とセットで得点になると思われますので、一理あります。」
K「不動産登記法とも共通する部分でもありますが、問題文の指示に沿っていない記載が見受けられたのは、この欄です。例えば、第2回で就任承諾書や同意書に資格を記載するよう指示があるのに記載していないものや、種類株主総会議事録はどの種類株式に関するものか特定するよう指示があるのに記載していないものを多く見かけました。」
T「似たものとして、就任承諾書の援用の有無が挙げられそうです。問題文の指示について例年と異なる箇所があった場合は、山村講師が言うように答案構成の際に目立たせておいた方がいいですね。」
4 最後に
T「その他、商業登記法でもったいない答案はありましたか。」
K「商業登記法は、最後に解く方が多いせいか、不動産登記法と比較して白紙の答案が多い印象です。白紙だと全く得点にならないので、時間配分の重要性を感じています。」
T「択一式と記述式それぞれに基準点が設定されている司法書士試験においては、本当にもったいない答案は白紙答案かもしれませんね。蛭町講師が提唱しているように、商業登記法においては、暫定答案が有効な場合があります。暫定答案とは、問題に含まれる登記の事由をすべて登記できるものと仮定し、暫定的に登記の事由、登記すべき事項、登録免許税という答案内容のうち3事項について判断して作成した答案のことですが、要するに書かなきゃ始まらないということです。なんとか白紙の答案は避けたいところです。」
T「以上、2022年合格目標全国公開模擬試験の採点を行った、伊藤塾スタッフのTとKが、もったいない答案について語ってきました。本番では、どんなに注意してもミスはしてしまうものですが、少しでもミスが減るように参考にしていただけますと幸いです。
TとK「皆様の本試験でのご健闘をお祈り申し上げます。」
【最後の記述式~“連想力”で記述式を完成させる!~(山村拓也講師)】
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