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デジタル社会に向けた取り組みと司法書士実務

日本経済新聞は、令和6年2月17日付けの記事で、

「デジタル庁は企業が商号や住所を変える際に
商業登記を書き換えるだけで税や営業許可といった
各省庁が持つ登録内容を一括で変更できるようにする。
年間で少なくとも500万件超の手続きが省略される見通しだ。」

と報じました。

法人の商号や住所を変更する商業登記申請をきっかけに
登録内容が一括変更されるのだとすると、
司法書士としては今まで以上に登記申請に神経を尖らせる必要がありそうです。
司法書士のミスで商号や住所が誤って登記されてしまったら…。
もはやそれは、登記だけの問題に留まらず、あらゆる法人の登録に影響してしまうのです。

また、この流れからすると、将来的には法人が所有する不動産の登記については、
所有権登記名義人住所(商号)変更登記を申請することが
原則として無くなるのではないか
と思われます。

令和3年民法・不動産登記法改正の際に、
不動産登記法第76条の6が新設され、
登記官は職権で氏名等の変更の登記を申請する権限を持つに至りました。
この規定は、令和8年4月1日に施行されます。

【職権で法人の名称・住所を変更する流れ】
① 法人が所有権の登記名義人となっている不動産について、会社法人等番号を登記事項に追加する。
② 法人・商業登記システムから不動産登記システムに対し、名称や住所を変更した法人の情報を通知する。
③ 取得した情報に基づき、登記官が変更の登記をする。

ちなみに、これはあくまで法人の話で、
自然人の場合は、DV被害者、ストーカー被害者、児童虐待被害者といった
住所の秘匿性の高い方がいることに配慮して、
オートマチックに登記官が職権で名変登記を行うことはしません。
変更登記をして良いかの確認が取れた場合だけ、職権で名変登記を実行します。

ところで、今回の報道内容の背景には、
日本が世界一のデジタル社会を目指している、ということがあります。
電子政府・電子自治体元年と呼ばれる2000年には
「e-Japan戦略」が打ち出され、「IT基本法」が成立しました。
あれから早24年。
2007年にスティーブ・ジョブズがiPhoneを発表し、
IT技術、デジタル技術の進化は一気に加速し、そして普及しました。
ICT教育を導入した教育現場では、小学1年生からタブレットを持ち、
学習に活用しています。
今や子供から高齢者まで、手元で世界と繋がり、
そしてデジタル技術の恩恵を受けられる時代となったのです。

少子高齢化が進行し続ける日本では、
令和19年(2037年)には、国民の3人に1人が65歳以上の者となると予測されており、
生産年齢人口は総人口の6割にも満たない状況に突入します。

少ない生産年齢人口で、経済発展と社会的課題の解決を両立させるためには
どうしたらよい?

日本政府が選んだ選択はデジタル化です。
平成25年、日本政府は「世界最先端IT国家創造宣言」を閣議決定しました。

令和3年5月12日には、デジタル社会形成基本法が成立し、
同法を根拠に内閣にデジタル庁が設置され、
デジタル社会の形成に関する重点計画が作成されています。

令和元年5月に成立した通称デジタル手続法では、

①デジタルファースト
→原則として、個々の手続き、サービスが一貫してデジタルで完結する
②ワンスオンリー
→一度提出した情報は、二度提出することを不要とする
③コネクテッド・ワンストップ
→民間サービスを含め、複数の手続き・サービスをワンストップで実現する

を掲げ、様々な施策を実行しています。
冒頭の記事も、まさに「ワンスオンリー」の実現です。

今回の記事のように、行政手続のデジタル化に関するニュースが
この後も中期的に続くはずですが、その多くは、
「世界最先端のデジタル社会を目指して、
 デジタル庁がデジタル手続法に基づき打ち出した施策だな。」
と理解すれば良いのではないかと思います。

また、司法書士として無視できないのが、
1741の市区町村の基幹業務システムの標準化がおし進められているということです。

令和3年5月に地方公共団体情報システムの標準化に関する法律が成立し、
これまで市区町村が独自に基幹業務システムを調達・構築していた運用をやめ、
全国統一のものにするのです。

標準化の対象となっている基幹業務は20あり、
その中には、司法書士業務に関係の深い
住民基本台帳、戸籍、戸籍の附票、固定資産税、印鑑登録などが含まれています。 

住民票や印鑑証明書は、各自治体によってカスタマイズされ、
レイアウトなどが異なりましたが、
これが全国統一のものになる流れがあります。
住民票には、原則として「前住所」の記載をしないなど、
名変登記を行う司法書士に大きな影響があります。 

また、これまで「〇〇区」の印鑑証明書はA6サイズ横書きだったのに、
ある日突然、依頼人から受け取った印鑑証明書がA4縦書きに変わっていた。
という変化が起こることがあります。
これは偽造されたからではなく、標準化によりそうなったのだと理解すればOKです。 

デジタル化に伴う司法書士業務への影響は、
現時点でもそれなりにありますが、
今後、ますます増えていくことは確実です。
走り出した世界最先端のデジタル社会への挑戦は不可逆的で、
その動向は無視できないものになっています。 

司法書士 坂本龍治 


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