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【記述式】申請の個数の判断-債務者の変更登記の省略(蛭町講師)

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【1】設定者兼債務者の原因関係

 前回指摘したとおり,Aが住所を移転した事実が示されている場合,受験生が多くは,名変登記を思いこんでしまうことが多い。しかし,正確に原因関係の判断をするには,Aが登記名義人か抵当権等担保権の債務者かをチェックすることが肝要となる。

 Aが設定者兼債務者であれば,設定者であるAについて名変登記と債務者であるAについて変更登記の原因関係が考えられることになる。そのため,混同と同様,1つの法律関係を複数の原因関係と判断する申請個数が増加する「原因関係の個数例外」となる。

【2】抹消登記の前提である債務者の変更(更正)登記の省略

 抵当権等担保権を抹消するについて,債務者に変更(住所移転などの表示変更,相続などの人格変更を含む)がある場合,抹消登記の前提として債務者の変更登記を省略することができ,「原因関係の個数例外」となっている。債務者は,登記名義人ではないため登記の連続性の観点から抹消登記の申請情報と登記記録とが論理的に不整合とはならないからである(義務者=法25⑦,権利者=同④)。

 この論点の出題は,上記の表のとおり42回の出題うち5回(昭61,平2,平21,平25,平31)にのぼっており,頻度高く出題されているに拘わらず,受験生の認知度が低い論点として受験生を苦しめている。

 例えば,平成21年の出題では,設定者兼債務者AがBに商号を変更しBが,住所を移転した1番抵当権者Xに対して被担保債権の全額を弁済した事例が出題されている。

 この事例の原因関係として,設定者である所有権登記名義人Aについて商号変更による名変登記が,債務者であるAについて商号変更による債務者の変更登記が,1番抵当権の登記名義人であるXについて住所移転による名変登記が,1番抵当権については弁済による抹消登記が問題となる。

 抹消登記を軸にさらに原因関係を整理すれば,抹消登記の登記義務者となるXの本店移転は,①所有権以外の権利の抹消登記で,②登記義務者に名変事由がある場合であるため,変更証明情報を添付すればXの住所移転による名変登記の申請を省略できる(昭31.9.20民甲2202通等)。

 しかし,抹消登記の登記権利者となる設定者Aの商号変更による名変登記を省略できるとする先例,実例が存在しないため設定者の名変登記は原則どおり申請しなければならない。

 また,設定者兼債務者であるためAからBへの商号変更は,設定者については所有権登記名義人の名変登記の原因関係となり,債務者については商号変更による債務者変更登記の原因関係となる。しかし,実例によれば抹消登記の前提となる債務者の変更登記は申請を省略できるため,上記のとおり設定者の名変登記のみを申請すれば足りる。

 まとめると,先例による抹消登記の登記義務者の名変を省略し,実例により抹消登記の前提となる債務者の変更登記を省略し,申請すべきは設定者の名変登記と弁済による1番抵当権抹消登記となる。

 申請の順序は,先に名変登記を申請しなければ抹消登記の登記権利者が申請情報の記載(B)と登記記録(A)が合致せず,申請権限を有しない者の申請となるため,登記の連続性の観点から1件目で名変登記を,2件目で抹消登記を申請すべきことになる。

96・平21-区分建連件1 商号変更による1番所有権登記名義人名称変更登記
97・平21-区分建連件2 弁済による1番抵当権抹消登記

 この取扱いは,設定者兼債務者Aが死亡し,その相続人Bが,Xの1番抵当権の被担保債権の全額を弁済した場合にも妥当する。この場合の原因関係は,設定者の相続による所有権移転登記,債務者の相続による変更登記,弁済による1番抵当権抹消登記となる。

 しかし,抹消登記を軸に原因関係を整理すれば,抹消登記の前提となる債務者の変更登記の申請を省略し,相続による所有権移転と弁済による1番抵当権の抹消登記を申請すれば足りることになる(平成25)。

117・平25-乙土地の連件1 相続による所有権移転(清算型遺贈)
118・平25-乙土地の連件2 弁済による1番抵当権抹消

設定者兼債務者の相続の再出題となる平成31年は,相続が数次相続となっており難易度が高められている。決して単純な繰り返し出題とならない過去問の焼き直しプラスアルファの手口がよく表れている出題といえるであろう。

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