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全肢検討という選択肢~本試験戦術の考察~

みなさん、こんにちは。伊藤塾司法書士試験科講師の髙橋智宏です。

今回は、本試験の択一式(特に午後の部)における戦略として、みなさんに「全肢検討」という選択肢を示していきたいと思います。

先に申し上げておくと、この記事は、絶対的に全肢検討を勧めるものではなく、あくまで全肢検討を本試験戦略の選択肢の一つとして提示するものです。いわば軸肢検討と全肢検討は流派が異なり、人によって合う合わないがあるため、やはり軸肢検討の方が自分に合っているという場合ももちろんあるでしょう。

ですが、全肢検討も一度トライしてみる価値は必ずありますので、この記事がそのきっかけになれば幸いです。

【1】軸肢検討と全肢検討

択一式の問題における各肢への取り組み方としては,大きく分けて軸肢検討と全肢検討の2つがあります。

「軸肢検討」…軸となる肢を探し、それを軸に組合せとして判断が必要となる肢に限って検討して答えを出す方法。
「全肢検討」…すべての肢を検討したうえで、最終的に組合せを活用して答えを出す方法。

【2】受験生は一般的に軸肢検討だけど…

もちろん、時間に比較的余裕のある午前の部は別として、午後の部において多くの受験生が採用しているのは軸肢検討であり、こちらの解法がスタンダードといえるでしょう。その理由は、午後の部は時間の余裕がないことから、できるだけ少ない肢の検討で判断し、解答スピードを速めるためです。

ですが、全肢検討を採用する合格者も一定数はいるため、全肢検討をすること自体が無理なわけではありません。全肢検討を無理だと最初から決め込んでそもそも試す機会が少ないという現状もありますが、むしろ意外とやってみたら自分に合っていたということもよくあります(私自身、受験生の時は全肢検討を行っており、カウンセリングの際にその人の状況に合わせて、全肢検討を勧めることもあります)。

【3】全肢検討に関する誤解とノウハウ

「全肢検討は、軸肢検討と同程度に各肢の検討に時間を掛け、それを全肢行うもの」と思われがちですが、実はそうではありません(この誤解が全肢検討が敬遠される一番の理由です)。

全肢検討では、全肢の検討を行う分、各肢の判断を軸肢検討に比べてスピーディーに、言い換えれば雑に行います。

すなわち、全肢検討では、あまりじっくり問題文を読み込まず、読み流してすぐに○×の判断を行います。また、途中で見慣れない用語が出てきたりして、知らない知識だと思われる場合には、すぐに△を付けて飛ばしてしまいます。

これによって多少の読み飛ばしや勘違いがあったとしても、全肢検討ではすべての肢を検討したうえで組合せの検討を行うため、結果的に点数が安定しやすいのです。

【4】軸肢検討の難点

まず、軸肢検討の難点として挙げられるのが、「判断ミスに気付きづらいこと」です。すなわち、軸肢検討では、限られた肢しか判断せず、最低限の肢のみを検討して答えを出すため、仮に全肢を見ていたら組合せから気づけていたような判断ミスに気付きづらく、結果的に点数が安定しにくいのです(不安から念のため他の肢を検討するようにしても、結局5肢すべてを検討する羽目になったというのは、よくあることです)。

加えて、組合せを軸として判断していくため、いちいち組み合わせに照らして検討する肢を決めなければならない面倒さがあります。

【5】全肢検討のメリット・デメリット

その点、全肢検討であれば、すべての肢を検討したうえで組合せの検討を行うため、判断ミスに気づきやすく、結果的に点数が安定しやすいのです

また、すべての肢を判断することを前提としているため、どこまで肢を検討するかを悩むことはありませんし、いちいち組合せに照らしながら検討する肢を決めなければならない煩わしさがありません。これにより、むしろ軸肢検討よりもタイムが短縮できたというケースもあります。

さらに、普段の答練や模試の際でも全肢検討を実践すれば、演習時間の際にすべての肢の問題を解いているため、復習がやりやすくなり(軸肢検討だと、演習時間の際に飛ばした肢に関しても解いてから復習をしなければならない)、普段の学習効率のアップに繋がります。

ただし、もちろん全肢検討にもデメリットがあります。いくらスピーディーに各肢を判断するといっても、軸肢検討に比べて検討する肢の数が多いわけですから、一般的には軸肢検討に比べてやや時間が掛かりやすい傾向があります。

もちろん、「各肢をスピーディーに処理する」という判断スタンスに慣れていけば、全肢検討でもタイムを縮めることはできますが、求められる点数の必要性との兼ね合いによって、全肢検討にするか、軸肢検討にするかの戦略の選び方が変わってきます

※ 私の経験や合格者の体験談を踏まえると、全肢検討への転向により、点数は軸肢検討に比べて+1問~2問程度で、タイムは軸肢検討に比べてそのままか+5分~10分程度になることが多いです(その後、全肢検討の訓練を積めば軸肢検討と同じ時間か+5分程度で済む)。

【6】軸肢検討と全肢検討の折衷活用

全問を全肢検討にするのは不安がある、又は回答時間がどうしても足りなくなるという方には、点数が不安定となっている一部の科目に限定して全肢検討を導入するのがお勧めです

例えば、午後の部の中でも商業登記法が苦手で点数が安定しない方であれば、民事手続法と不動産登記法は軸肢検討で解き、商業登記法に限り全肢検討を行い、商業登記法の点数の安定を図るといったものです。

このように、軸肢検討と全肢検討を二者択一的に考えるのではなく、折衷活用も視野に入れると、本試験戦略のバリエーションが広がりますのでお勧めです。

【7】全肢検討派の合格者の声

合格者の中で全肢検討派の方からコメントをいただきましたので、参考になさってください。

 私は、午前部も午後部も全肢検討で合格をさせていただきました。午前中は比較的時間があるので、皆さんも全肢検討なさる方は多いと存じますが、「午後の部で35問すべてを全肢検討する」と言うと驚かれる方がたくさんいらっしゃいます。
 全肢検討をなさらない方は「記述式が控えているので時間がない」という理由が殆どだと思いますが、私の場合はそれを逆手に取って「急がば回れ!」をモットーに、「ア」から順に全肢検討していました。
 「短い文から解け」とか「自分の知っている知識から解け」と言った方式がよく言われると思いますが、私は「ウ」を読んでまた「ア」に戻ると言った方式より、迷わず「ア」から順に読んでいった方が、時間短縮になりました。また、知っている肢だけで検討すると、「知っている」と思っている先入観に邪魔されて、誤解答をしてしまったり、「次の肢を読んでいれば正解したのに」と言う経験があったので、途中で正解の組み合わせが分かったとしても5肢全部読んでいました。
 手法としては、全肢をだた読むだけではなく、一肢ごとにキーワードになりそうなところには、必ず丸を付けるか下線を引き、「何を問われているのか?」を予測しながら解答をしていました。そして、全肢検討して、その横に○×△を付けておくと、自信の持てなかった問題の飛ばした肢をもう一度読み直す必要がないので、これも時短にもなります。
 キーワードなものを見つける訓練としては、問題を何回か繰り返して、何故○になるのか、×になるのかを理解するようにしました。そうすると同じような問題で問われている箇所が違っても全体の流れから、正誤が判断できる様になりました。
 「急がば回れ!」正に二度手間を省き、時間内でより正確な解答をするために、この「全肢検討」も解法の「選択肢の一つ」として挙げさせて頂きます(Y.Oさん)。


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