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OOUI本こと「オブジェクト指向UIデザイン」輪読会

こんにちは、スペースマーケット デザイン部の伊東と申します。この記事を書くにあたって「オブジェクト指向UIデザイン」本のAmazonリンクを貼ると「Amazon.co.jpで購入する」というタスクがラベリングされたボタンが前面に出た埋め込み形式となってしまい、オブジェクト指向がテーマなのにこれでは…とモヤモヤしているのが最近の悩みです。そのままURLだけ貼ればいいのでしょうか。

本題に戻ると、社内でここ2,3ヶ月ほど取り組んでいる試みとして記事タイトルの通り「オブジェクト指向UIデザイン」を題材とした輪読会を開催していまして、今回はこちらを紹介します。


背景

そもそもの輪読会開催の動機ですが、日々の自社プロダクト開発の中では「継ぎ足しで機能追加を行う」場面が多く、その中で自然とタスク指向な方向への力学が働いている現状を打破したいという個人的な懸念がきっかけでした。

例えば「○○できるボタンを追加しよう」といった施策がサービス開発の中で立ち上がる場面は多いのではないでしょうか。GUIデザインの観点ではこういった無邪気な案こそがタスク指向なUIへ吸い寄せられる近道となっていて、情報設計の段階でオブジェクトとタスクの存在に意識的でなければ避けにくいと感じています。

輪読会の題材として取り上げた書籍「オブジェクト指向UIデザイン」が出版されるまでは、オブジェクト・タスクの存在を意識した上でユーザの直接操作を促進するようなUI設計を扱った体系的な文章は共有されていませんでした。当然、UIデザイナーを名乗っている人の中にもこの辺りの知識に対して自覚的でないままデザインをしている人は多く、自然とオブジェクトに直接触れることができないタスク指向のUIが量産される背景となっていました。

私自身も同様で、我流での情報設計を手探り的に行っていた中でこの書籍(および筆者の方の情報発信)に出会えたことは、GUIソフトウェアのデザイナーとしての人生の中でとても大きな転回だったように感じています。

それが今日では誰もが出版物として入手し読みやすくなったこともあり、30年近くも昔から提唱されていたGUI本来の特性「オブジェクト指向デザイン」がこの出版を機に注目を浴びています。この情勢に便乗する形ではありますが、私が所属するデザイン部ないしプロダクト開発の部門にオブジェクト指向の考え方をインストールすることで、目当てのオブジェクトからあるべき形を見出す本来のGUIデザインのあり方を共有したいと考え、社内での輪読会を発足させる運びとなりました。

実際の取り組み

以前から弊社ではフロントエンドエンジニアのチームを中心に技術書籍の輪読会が行われていたこともあり、過去のフォーマットに乗っかる形で

・業務時間との兼ね合いを考慮して隔週開催・任意参加
・題材の書籍から回ごとに範囲を決め、当日までに各自で読み進める
・各自の感想や疑問点を記入したドキュメントを参照し、会の中で話し合う

といった進め方をひとまず採用しています。

輪読会には書籍を皆で読み進めながら内容について議論を行う形式もあるとは思いますが(むしろこっちが本来の輪読会な気もしますが)、オブジェクト指向UIデザインという題材の性質上、事前にある程度は内容を頭に入れた状態を前提に議論を深める形の方がふさわしいように思えたので、輪読というよりはディスカッションに大きく比重を割いた形にしてみました。

扱う情報量を考慮するとオフラインでの開催が望ましいのですが、残念ながら2021年というタームにおいて気軽にできる感じではなく、リモートワーク中心な弊社の現状にあってはビデオチャットサービスを利用してオンラインにて開催しています。とはいうものの、オンライン開催だからこそ各自が事前にしっかりと感想や疑問点を言語化していたような感触もあり、副産物的な効果ではありますが輪読会におけるディスカッションもスムーズに進んだような気がしています。

取り組みの形式についての紹介もひと段落したところで、せっかくなので実際に議論した話題を少し抜粋してみます。

話題の一例: OOUIはあらゆる場面で有効か

OOUIが話題に出ると必ずといってよいほど槍玉に挙がる「オブジェクト指向のUIはあらゆる場面で有効か」「タスク指向の方が良い場面もあるのでは」といった疑問に関しても、この書籍「オブジェクト指向UIデザイン」やその筆者の上野氏の発信を読んでいくと誤解しがちな点に気づけることと思います。

そもそものCUIからGUIへの転回に際して、コンピュータへの命令による操作からオブジェクトの直接操作を目指していた経緯を踏まえると、OOUIは単なる設計手法の一つなどではなく、GUI設計の出発地点であり、根幹を成す概念であることが分かります。

GUIの初期段階における直接操作感の追求に関して、こちらが取っ掛かりにおすすめです。漫画としてのケレン味がたっぷりで、誰にとっても読み進めやすい作風だと思います。

また、タスク指向のUIが有効な場面としてよく挙げられる「ATMのようなオブジェクトが自明かつタスクを選択するだけのもの」に関しても、ATMのGUIを操作する以前にATM(≒金庫)というオブジェクトを選択してその前に立って操作を開始するわけで、根本的な操作体系はオブジェクト指向のUIと通底していることが見てとれます。実際のATM上のGUIはタスクを選択するビューから開始されるとしても、人間を中心に行動の流れを抽象化して観察すると、タスク指向のUIを推進する合理的な理由や必然性よりはオブジェクトを率直に見せることの必然性に気づけるはずです。

こういった設計論やデザイン手法を扱う文脈においては「これも様々な手法の中の一つでしかなく、場面に合わせてメリット・デメリットを考慮した上で選択するべきだ」といったようにバランスを意識した意見を持つことが正しい、といった風潮が存在するように感じているのですが、オブジェクト指向のUIに関してはそもそもGUIの根幹であることから、単なる手法の一つとして矮小化するのではなく、常に立ち返って意識するべきものです。この意識を輪読会を通じて発信する中で、ある程度納得感を伴って共有してもらえたことに関しては少なからず「開催してよかった」という感触が得られました。

プロダクト開発の中で「UIのエントロピー増大に悩まされている」「行き当たりばったり的にデザイン変更・追加をした結果少しずつ使いにくいUIに寄ってしまっている」などの課題に直面しているデザイナー・デザインチームにおかれましては、このような輪読会の場を設けることで組織の中にオブジェクト指向のUI設計を意識する土壌を育んでみるのも良いのではないでしょうか。おすすめです。

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Paul McCartneyが「あるがままに」とオブジェクト指向を綴った(誇張です)言わずと知れた楽曲。Phil Spectorのオーバープロデュースが特徴的なオリジナルverもオツなものですが、ここでは当初のPaulの構想に近い、まさに「あるがまま」な剥き出しの楽曲とアレンジを楽しめるNakedの方で。

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