うたかたの日々
ディスクユニオン神保町店は昔からよく知っている。
ここでいうディスクユニオン神保町店とは、現在の場所に移転する前の神保町店である。
20年以上、前の話だ。
神保町交差点(岩波ホールがある交差点)のそばにあった。
当時、職場が近くにあり、昼食の帰りに、必ず立ち寄っていたのだった。
当時、2階にテクノのコーナーがあった。
アナログレコードがわんさと置いてあり、CDの棚も充実していた。
あまりに多く通っていたせいか、店員さんに顔を覚えられたくらいである。いや。顔を覚えられただけじゃない。
話しかけられた。
ネットを見ることを、ネットサーフィンなどと呼んでいた時代、当時は、ネットで、個人の掲示板(BBS)が流行っていて、私は、購入したテクノのレコード・レビューなどをガシガシと書き込んでいたのだ。
それを読んでいます、とその店員さんはいった。
レビューには、購入したレコード店名も書いていた。
その頃は、私にとって、テクノとの蜜月だった。
渋谷にもよく行っていて、テクノ・シスコ店、テクニーク、ディスクユニオンDP1(すぐに移転した)などでもレコードを購入していた。
その店員さんは、私の好きなテクノのレコードの趣味を知っていて、私好みのアナログの新譜が出たときは、声をかけてくれた。
雑談をしているうちに、その店員さんは、DJをやっている、と聞いた。
私も自宅でDJをやっていたので、自分で録音したミックスMD(当時はMDだった)を渡した。
次に来店すると、
「きれいにつなぎまよすね~。ぼくのミックスは、もっとぼこぼこしています」
などといっていた。
一度、渋谷で偶然、出会ったことがある。
やっぱりディスクユニオン(現在のクラブミュージック・ショップ)の売り場だった。
客としてきていた。
神保町店の2階にいくたびに、レジでその店員さんの顔が見えた。にっこりした。
知人ともいえない。
でも、レコードが2人を結びつけていた。
ある日、来店すると、レジに、その店員さんの顔がなかった。
アルバイトだといっていたし、毎日きているわけじゃない、と思いながら、テクノのレコードやCDの棚を漁る日々がつづいた。
ある日、ふいに気がついた。
もう、一か月以上、顔を見ていないな、と。
そして、結局、その後、二度と顔を合わせることはなかった。
辞めたのである。
私たちは、そんな小さな出合いと別れを積み重ねながら生きている。
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