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伊藤礼先生は、自分で、お金を出してまでほしくはないといった

 〇月〇日

 私の大学時代の英文学の先生に、伊藤礼先生がいる。在学中に自宅に遊びに行き、その後もゆるやかな交流がつづいている。
 ゆるやかな、というのは、たまに(数年に一度)会うくらいという意味である。
 高名作家、伊藤整さんの次男で、父親に関する著作も出している。

 池袋八勝堂が閉店するので、毎日のように通っている。正確には、ようにではなく、実際に毎日、仕事が終わってから通っているのである。
 八勝堂は、草稿類、書簡・葉書類なども売っている。
 その伊藤礼先生の父親、伊藤整さんの書簡が出ていた。値段は、3万円だった。

 久しぶりに、伊藤礼先生に電話してみた。
 ひととおり挨拶をし終えてから、
「今度、池袋の八勝堂が閉店するのです」といってみた。
「あ、そこ、知っている。数字のハチと書く八勝堂ね。文学の古本屋」
 先生の大学は、江古田にあった。池袋から数駅である。
「あと、レコードも売っています」
「ふうん」
「伊藤整先生の書簡が売りに出ているのですが、興味ありますか?」
「興味はもちろんあるけれど、どういう手紙なの?」
 私はネットに書かれていた書簡の相手先の情報を伝えた。
「そのひとは、知っています。エッセイに書いたこともあるんだ。今度、見せます」
「値段が3万円で」
「あ~。興味はあるけれど、お金を出してまでほしくはないなあ」
 
 私は、今度出す「アラフォー女子の厄災」のあとがきに、伊藤礼先生の名前を出すことを伝えた。
「ぼくの名前を出したって、しょうがないよ」
 と恥ずかしそうに伊藤先生はいった。

 八勝堂は、現在、閉店セール中である。全品、50パーセントオフ。
 伊藤礼先生は、自分で、お金を出してまでほしくはないといった。それならば、ヒトが買ったものをプレゼントするのなら、いいのだろう、と私は思い、その書簡を買った。
 「アラフォー女子の厄災」が出たら、本といっしょに伊藤礼先生の自宅に届けたい、と思っている。

〇月〇日

 連日、平昌オリンピックが報道されている。繰り返しニュースが流れる。
 日本中が熱狂しているフィギュアスケートだが、私には、宇野昌磨さん、「あまちゃん」の前髪クネ男にしか見えない。
「ぜったい前髪クネ男だよな~。勝地涼だ」
 だが、日本中を敵にまわしそうなので、こわくていえない。
(ここに書いちゃいましたけれど)。

〇月〇日

 また、池袋八勝堂のことを書く。
 少し詳しく。
 以前にも書いたかもしれないが、2月いっぱいで閉店になる。それに伴い、全商品、割引をしている。最初は、20パーセント割引でスタートしたが、段階的に高くなって、2月13日からは、50パーセント引きである。
 八勝堂は、神保町にあってもおかしくないような品揃いの古書店である。
 1階はミステリ、文学、音楽、美術、映画の専門書と、レコード、カセットなどが置いてある。
 2階は、いわゆる専門書(研究書)である。有名作家の書簡なども扱っている。レアな画集や限定本なども置いてある。

 私は、13日から毎日通って、買いあさっている。
 3日目になると、店員さんも顔を覚えたらしく、私を見ると、「またきた」的なあいさつをされるようになった。
「こういうのもありますが、どうですか?」と私が買っている本の内容から連想して、積極的にたくさんの本を持ってきてくれたりもする。
 全部ほしいかというと、そうでもない。だが、50パーセント引きなのである。その割引率が頭のなかをちらちらよぎる。
 そのときは、もう、なんというか、断れない。
「全部いただきます」といっている私がいる。

 店内も激混みである。
 店員さんと客との話し声が聞こえてくる。
「これだと、閉店日がくる前に、在庫がなくなっちゃうかもしれませんね」

 毎回、手で持てるくらいの分量の本を目安にして買う。まだまだめぼしい本がある。明日も、行くつもりだ。


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