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「もっとよくなる。よくなるはずだ」

 〇月〇日

 相変わらず新作「アラフォー女子の厄災」を読み返している。
 読めば読むほど、推敲したくなる。

「もっとよくなる。よくなるはずだ」そう思ってしまうのだ。

 決定稿とはなんだろう。
 これで完成。終了、と自分のなかで、ドラが鳴るのは、どうなったときなのだろう。
 いや、はたしてそういうドラが鳴ることがあるのだろうか?

 ドラとは、つまるところ、締切なのか? それだけなのか?

 ふと、巨大な不安に襲われる。

 〇月〇日

 相変わらず池袋の古書店、八勝堂にいっている。
 二階にいる白髪の中尾彬似の店員さんと、たまに話をする。
「ネットで、調べてからきているんですか?」と店員さん。
「そうですね。二階の本は、専門書が多いので、あらかじめ調べてきています」と私。
「いま、まさに売れた本のデータを消しているんですよ」
 店員さんの後ろに、PCの画面がある。
 多くの古本屋は、バーコードで本を管理していない。
 売れたとき、本のうしろについている店名が書いた小さな紙を切り取るだけだ。
「えっ? それは、手動で行っているということですか?」私。
「そうですね」
「記憶で?」
「そうです」
「ときどき自分が買ったはずの本のデータが、在庫ありになっていることがありますよ」と私。
 店員さんは大笑いをしていた。

〇月〇日

 また八勝堂である。
 私がホームページからプリントアウトしたリストを見せる。
「この本、まだ残っていますか?」
「あ~、どうだろう。どこにあるかわからないなあ」と店員さん。
 この店員さんは、膨大な書棚のなかから、さっと見つけてくれる中尾彬似の店員さんである。
 書棚から見つけたので、私は、レジに持っていく。
「ありましたよ」と私。
「そりゃ、よかった」中尾彬似の店員さん。

〇月〇日

 またまた別の日。
 八勝堂の二階の階段を上がり、ドアを開く。
「こんにちは」おなじみの中尾彬似の白髪の店員さんである。
「こんにちは」と私。
「お客さん、毎日きていますよね。私より、書棚、詳しくなっちゃったんじゃないですか?」と中尾彬似の店員さん。

 おそろしいことに、冗談ではなく、本当に、毎日いっているのである。

〇月〇日

 またまた別の日。
 八勝堂は、中古レコードも扱っている。
 中年の店員さんと常連さんらしいお客さんの会話。
「こういうレコード、売れるの? ねえ、売れないでしょう? 時代は変わったよ」

 時代は変わる。でも、変らないものもある。と私は思う。

 そんなこんなで、閉店間近な古書店の一日はすぎていくのだ。


 

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