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いとちインタビュー vol.6 | 鈴木歩未さん | 食を通じて生活を「つなぐ」
みなさんこんにちは!いとちプロジェクトの池本次朗です。
医療と地域、「い」と「ち」の担い手によるコミュニティデザインプロジェクト「いとち」では、いわき市鹿島町にある「かしま病院」のスタッフや医師、地元住民やまちづくりのプレーヤーと一緒に、医療と地域のよりよい関係を目指し、さまざまな取り組みを行なっています。
いとちのnoteでは、現場の先生たちへのインタビュー、地域医療・総合診療についてのさまざまな情報、イベントレポートなどを発信していきます。
今回紹介するのは、かしま病院で調理師として働く鈴木歩未さんです。
鈴木さんは、かしま病院の栄養課で日々入院患者さんの給食を作っています。生まれ育ったいわきで食に関わり続ける鈴木さんは、どのような思いを持っているのでしょうか。
調理師の仕事や、病院給食に関わり始めたきっかけ、今後やっていきたいことなどを、いとちプロジェクトの池本と前野がインタビューしました。
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【プロフィール】鈴木 歩未(すずき・あゆみ)
2001年生まれ、福島県いわき出身。いわき市内の高校から山手調理製菓専門学校Wライセンス学科に入学。製菓衛生師・調理師免許を取得した後卒業。2021年から新卒でかしま病院栄養課で働く。
調理師の仕事について
池本:今日はよろしくお願いします。自分も栄養課でバイトをしているので、鈴木さんは仕事の先輩、ということになりますね。鈴木さんは栄養課で調理師として働いていますが、調理師の仕事はどのようなことをされているのでしょうか?
鈴木:はい、よろしくお願いします。栄養課では入院患者さんの給食を作ることがメインの仕事になります。栄養課のスタッフは、管理栄養士・栄養士・調理師・調理員に分かれていますが、その中でも調理師は調理を中心に行うことになります。
管理栄養士は、入院患者さんの栄養指導など、栄養面で患者さんのサポートを行います。一方、調理師は実際の給食の調理をメインに担当します。加熱調理など、調理師免許を持っていないと行うことのできない作業もあります。
池本:現場ではどのようなことをされているんですか?
鈴木:普段は、ご飯を作る調理作業のほかに、翌日の料理に使う食材を仕込んだり、食べ終わって病棟から下げられた皿を洗ったりしています。100人近い入院患者さんのご飯を同時に作っているので、一度で使う食材の量もとても多いです。
1つの野菜を数キロ単位で使うことはよくありますね。皿洗いは、ベルトコンベア式の食器洗浄機にかけて洗っていきます。お皿の量もやはり多くて、業務用の食洗機でもかなり時間がかかりますね。
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他にも、入院患者さんのもとへ伺って、病院給食についてアンケートを行う「喫食者調査」という仕事もあります。「給食の味付けに問題はないか」「盛り付けはきれいにされているか」といったことを入院している患者さんから直接伺います。
女性の患者さんで、給食の写真を撮って「退院後にこんな食事を作れるように頑張ります」と言ってくれる方がいます。調理師が患者さんと直接やりとりをする機会はあまりないので、嬉しいなと思いますね。
池本:自分は先日、「お家で作る味噌汁より美味しいわ」と言われました。自分が作ったわけではないけど、とても嬉しい気持ちになりましたね。病院の給食ならではの工夫はあるんでしょうか?
鈴木:入院患者さんに提供する給食は、摂取するカロリー量や食事の形態などまで一人ひとり細かく決められています。病気などで食べ物を飲み込む力が落ちた方には、誤嚥を防ぐために食事にとろみをつけたり、食材を細かくした「きざみ食」を提供したりします。
出す相手が患者さんということもあって、食中毒にならないのはもちろん、野菜の硬さなども食べやすいようにすることは意識しています。
また、季節の行事があるタイミングで「行事食」という特別メニューを提供しています。私自身、製菓の専門学校に通っていたこともあり、入社してすぐに行事食のデザートを担当することになりました。
例えば、春には桜のようかん、夏の水羊羹に、父の日にはりんご味のゼリーの上に泡を乗せた「ビールゼリー」も作りました。この中でも、水羊羹は、入院されている方の年齢層が高いというのもあって好評でしたね。
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鈴木さんのこれまで
池本:鈴木さんはどういった経緯でかしま病院で働くことになったんでしょうか?
鈴木:高校まではずっといわきに住んでいました。進路をどうしようかなと考えたときに、小さい頃からお菓子作りが好きだったので、製菓と調理を学べる東京の専門学校に進学することにしました。
お菓子作りは、作っているときに集中できる感じが好きだったんですね。専門学校では、調理や製菓のほかに栄養や衛生についても学びました。
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池本:専門学校を卒業して、かしま病院へ就職したということですが、かしま病院を選んだのはどういった経緯があったんですか?
鈴木:コロナ禍もあって、いわきに帰って就職したいなともともと思っていました。病院の給食という形を選んだのは、専門学校で会った年上の女性の話を聞いたのが大きいです。
その方は専門学校に通いながら保育園の調理をアルバイトでやっていて、その人の話を聞く中で、忙しそうだけれども大量調理もいいのかなと思ったんです。
(※病院や学校の給食など大人数に提供する形を「大量調理」、飲食店などの一人分ずつ作り提供する形を「個人調理」といいます。)
前野:忙しさに追われて何もできないよりも、楽しそうに働いている方が自分も働くことを考えるきっかけになる、みたいな。
鈴木:大量調理の中でも病院を選んだのは、入院中の祖母の姿をみたことも、大きなきっかけになっていると思います。祖母が入院しているところに、一度だけお母さんに連れてこられたことがあったんです。そのとき、普段のおばあちゃんと全然違うように見えて。
今思えば、体調も悪くて食事もしっかり取れてなかったんだろうなあと思います。かしま病院は行事食とか選択食とかをやられているのを見て、この病院なら患者さん一人ひとりの食事に対していろいろできるのかなと思いました。
池本:かしま病院に入った最初の頃はどうでしたか?
鈴木:最初の方は、調理員として基本の仕事、盛り付けや仕込みを教わりました。「切る」作業は1年は勉強しましたが、そんなに早くはできなかったので、周りの方のスピードについていくのは大変でした。
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調理員をしていて感じるモヤモヤ
前野:ここだったら「患者さんの食事に対応できるんじゃないか」という話が印象に残っています。約1年くらい、かしま病院のスタッフの方と関わる中で、かしま病院の理念である「地域医療と全人的医療の実践」を、みなさん日々の現場で大事にしていると感じました。
栄養士の視点でいえば、食事だけじゃなくて、その人自身を診る、みたいなことを大事にしているのかもしれません。鈴木さんにも、患者さんに対して何かしてあげたい、力になりたいという思いがあるのかなと思いましたが、どうですか?
鈴木:食事を残すと、必要な栄養がとれずに症状が悪化するという側面ももちろんあるんですけど、食べることは生きることなので、やっぱり食事って大切だと思います。それでも、病気の中で食べるつらさもあると思うので、できるだけ食べたいと思ってもらえるような食事作りを心がけています。
前野:おばあちゃんの様子を見ていたから余計に、みんなが食べやすいものを作りたいという思いが強いのかもしれないですね。
池本:学校給食と比べると、戻ってくるご飯や残飯の量って多いですよね。戻ってきた食事を皿ごとに分ける「たたき」という作業で、残飯をバケツに入れていくんですけど、相当な量が出るな、と衝撃でした。
鈴木:そうですね。病棟ごとに違いはありますが、全体的に残される方は多いですね。
池本:たたきの作業のなかで、たまに一切手をつけられていないままのご飯があって、そういう光景をみると、不安な気持ちになりますね…
前野:食事を全然食べられない人がいる、という現実に2人とも向き合っているんですね…
池本:日によってもどってくる量に変化があるのかなと個人的に思うんですけど、鈴木さんはどうですか?
鈴木:メニューによっては、残飯が少ないものもあります。行事食などがそうですね。行事食の中には作るのが大変なメニューとかも多いんですけど、残飯が少ないとやっててよかったと思いますね。
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入院時と普段の生活の「つなぎ」の場をつくりたい
前野:これから、新しくチャレンジしていきたいことはありますか?
鈴木:患者さんが退院してからも、栄養が管理されたごはんを、病院に食べに来る機会を作れたらいいなと思っています。
退院すると、私たちが患者さんの食事をケアすることが難しくなります。喫食者訪問でお話を聞く中で、ある女性の方が「退院してから家でもこんな食事をつくりたい」と話されていて。入院生活から普段の生活への移行期間を、「食」でサポートできたらいいなと思いました。
前野:院内の薬剤師の方からも、退院すると薬の飲み忘れが増えたりするという話を聞きました。食事に限らず、そういった入院時と普段の生活の「つなぎ」の場を提供する役割があってもいいのかもしれないですよね。地域の方と連携して行っていけるといいですね。
池本:最後に調理師としてのこれからの展望があればお聞きしたいです。
鈴木:いろんなことに挑戦していきたいです。あんまり喋ることは得意ではないので、このインタビューを受けたことも、私にとっては挑戦の一つでした。様々なことにチャレンジして、自分の可能性を広げられたらと思っています。
インタビューを終えて
鈴木さんのインタビューの中で、「食べることは生きること」という言葉が強く印象に残りました。この「食べること」という言葉の中には、ただ食物を口に入れること以上の意味が込められているのではないでしょうか。
誰かとおしゃべりをしながら食べたり、料理の見た目を愛しみながら食べたりすること。入院して食べる機能が弱まった人にも、そんな「食べること」の歓びを届けたいという意志を鈴木さんの言葉から感じました。
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また、病院給食の視点から見た、退院後の食事のケアの話はとても面白かったです。日常生活と入院時の生活をつなぐ場は、地域からも病院からも必要とされていると感じました。
病院のスタッフと地域の人が同じ食卓を囲む光景は、実は地域医療のひとつの理想的なあり方なのかもしれない、そんなことを考えるインタビューでした。ご協力いただいた鈴木さん、ありがとうございました!
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