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レポート | 夏のいとちツアー | 現場を生きる人の生き様から「喰らう」もの

みなさんこんにちは。いとちプロジェクトメンバーで地域活動家の小松理虔です。9月。上半期の最後の月ということで、今年の前半をいろいろ振り返るわけですけれども、今年は特に夏の時期はツアーばかりやっていたなあ、ガイドばかりしていたなあと思い返します。

いとち関係のツアーだけでなく、福島県浜通り地区で開催された「常磐線舞台芸術祭」のプログラムでもツアーを行ったり、いとちプロジェクトの「地域医療実習ワーク」で毎週のように鹿島地区を歩いたり。長いのも、短いのいも、地元で旅を続けた半年でした。地元でも、旅はできるんですよね。

さて、今回は、8月21日と22日に行われた、いとちツアーの模様を振り返りたいと思います。ツアーに参加したのは、杏林大学統合医療研究部の学生5名と東北医科薬科大の医学生1名、合計6名。かしま病院で医療の現場を視察するだけでなく、いわき市の各地を巡ったり、ワークショップで考えを言語化したり、みんなで料理を作ったり、地域医療を体感する包括的なプログラム全体を「いとちツアー」として組み立てました。

いとちの現場を喰らいやがれ

初日の午前は、特別養護老人ホームかしま荘での見学・実習です。かしま病院は、病院の脇に「特養」がありまして、そこで、介護・福祉・医療の最前線を体験的に学ぶことができます。

現場でガシガシ実践してもらいます

若い時って、自分の周りに同世代しかいないものですよね。頭の中では「介護」とか「高齢者」とか「老人ホーム」をイメージできるけれど、実際の現場に何度も足を運んだことがあるという人は、そう多くはないし、実際に利用者さんの紙おむつを交換したり、寝たきりの方の姿勢を変える介助をしたり、という支援そのものを経験したことがある人は、さらに少ないはず。

いとちツアーでは、とにかく現場に放り込まれます。これは、いとちツアーのプログラムに関わる中山文枝医師、渡邉聡子医師の深慮遠謀でもあるのですが、とにかく「やってみよう」スタイルなんです。百聞は一見に如かず、百見は一触に如かずとよく言われます(後半は私の造語だけど笑)、とにかくまずはやってみること。そして、やってみたことを起点に言葉にしていくことが大事なんじゃないでしょうか。

その人、だけでなく、その人の人生に思い馳せる、そんな瞬間

え? これをやっちゃうんですか? まじですか? うわ、やってみます!

この連続。

でも、これができるのは、介護・福祉・医療、それぞれの現場の連携が取れているからであり、「学生たちに体験してもらいたい」「学びの場として現場を開きたい」という思いが現場に通底しているからこそ。もちろん、施設がなければそれを近くで見てもらうこともできないわけで、そう簡単に開催できるものではないのだと、病院の部外者のぼくなどは思います。

この日の実習を担当した、文枝ママこと中山文枝先生から、こんなレポートが届いたので、こちらに転載します。

統医研の皆さんには、入所者さんとの対話、バイタル測定実習、胃ろうの方に水を注入してもらったり、褥瘡の処置もしてもらいました。皆さん、初めての経験でかなり刺激を受けたようです。血圧測定などでリラックスしてもらうには、医療者側も入所者さんから信頼してもらうことがカギ。声の大きさ、距離感だけでなく、あなたのことを知りたいという想いが大切です。

人生の物語を聞きながら、測定した値を見ながらホッとしている学生さんたち。お互いに練習する機会はあっても、リアルな測定の機会はなかったそうです。入所者さんからは施設に入所するまでの生活、家族のこと、身体の調子、未来の医療人に期待すること、人生の教訓など、予定時間を過ぎてもお話は続きました。

技術獲得の前に大切なのは、寄り添って聞くこと、その人の人生の物語に想いを馳せ、対話することです。学生たちは、現場での体験で、その大事さを学んだようです。この日の指導医の私には、入所者さんの表情がいつもより明るく、楽しそうに見えました。学生からは「こんなに褒められたのは久しぶり」「あなたが医者になるまで元気でいるから診てくださいねと言われました」などの反響が。自己肯定感アゲアゲの時間となりました。(メッセージここまで)

学校から出たのだから、学校ではできない学びを

胃ろうの方に水を飲んでいただいたり、えっとあとは褥瘡というのは「床ずれ」のことだと思いますが、その処置まで体験してもらう。そこまでやってもらう、体験してもらうのが「いとちスタイル」といっていいと思います。

そして、大事なことは後半。なんといえばいいのか、目の前の患者さんや利用者さんに向き合うことが、じつは自分に向き合うことにもなっていて、患者さんを励ましているつもりが、励まされていたのは自分だった、という関係になっていること。こういうことを文章で理解するのではなく体験的に学べるというのは、とってもすばらしいことだと思います。

(いやあ、ぼくは学生時代、文学部東洋史学科という地味極まりない専攻でしたが、こんなふうに「人を知る」場があったら、ぼくも医学部に入っておくべきだったなと感じないでもないですが、そもそも微分積分をほとんど理解できなかった自分は語るに落ちるなと思います。すみません)

かしまを、いわきを旅する

初日の午後は、現場での医療とはうってかわって、鹿島のまちを歩く「いとちワーク」を実施し、さらにそのあと、2日目の午前には、ワタクシ小松のガイドのもと「いわきツアー」を行いました。

病院のあるかしま地区を歩くことで、その病院に来ているであろう地域の人たちの暮らしぶりが見えてきます。どんな風景を愛し、誇りに思っているのか、どんな暮らしをしているのか、あるいは、どんな人たちが、暮らしているのか。病院の中だけでは見えない視点で、まちを歩いてみる。

みのるほど頭を垂れている稲穂
静かな神社に足を踏み入れ、背筋をピンと伸ばす時間
リアルな「方言」で言葉を交わす時間

住宅を見れば、ああ、このあたりは移住者が多いのかな?と感じることもできるし、なるほど古い農家が多いのかな、みたいなものも見えてきます。かしま地区は、大きな畑はないのですが、家庭菜園サイズの畑が本当に多いんですね。とすると、かつて農家だった家が、宅地用に土地を売ってしまい、残されたところで先祖の土地を守り、小さく畑仕事をしてらっしゃるのかな、なんて想像も生まれてきます。

じゃあ誰に向けて土地を売ったのかな。ああ、震災を経験した地域だから、原発事故から逃れて避難してきた方が、もしかしたらこの場所で土地を購入し、家を建てたのかもしれない、などという推察ができる。その推察を、地域で暮らす人たちに聞いてみたり、過去の記事やニュースなどを調べてみるというリサーチにつなげることもできます。そうして地域を立体的・横断的にみていくと、いろいろな発見があるんですよね。

鹿島地区の美しい田園

そういう地域の風景や文化、暮らしぶりの中にこそ、その地域らしさの遺伝子や種子のようなものが見つかる。実は、ぼくのように「地域づくり」的な領域で仕事をしていくには、それを見つけることが極めて重要なポイントなのですが、医師だってそれは同じかもしれません。

というのも、現代の医師は、診察室で患者さんと向き合うだけでなく、看護師、薬剤師、ケアワーカー、リハビリ職の皆さんとの多職種の連携が求められます。地域医療チームのリーダーとして活動しなければいけません。スタッフもまた、そこに暮らす住民たちなわけですから、地域に対する理解度の深さが信頼につながり、チーム医療の質を左右する局面があるかもしれないわけで、医学だけでなく地域学にも関心があったほうが心強い。

その地域の人たちが、なにを愛し、どのような暮らしをしているのか、どのような産業に従事しているのかを理解することは、その地域の人たちがどのようなトラブルに巻き込まれ、どのような疾患・あるいは怪我を負いやすいのかを知ることに(多分どこかで)つながります。そして、自分の地元のことに関心を持ってくれる医師を、ぼくたちは信頼すると思います。

だから、地域の暮らしを見てもらいたい。いとちはそんな気持ちで、ツアープログラムを組んでいます。そのあたり、今回ツアーに参加してくれた学生たちは敏感に感じ取ってくれたように思います。

背汗おじさんとして、ツアーガイドを担当しました(右が筆者)

今回いわきに来てくれた学生たちには、また二度三度、いわき各地に足を運ぶために戻ってきてもらいたいですし、「お、いわき、面白そうじゃん」と思った方、ぜひぜひ「いとちプロジェクト」に遊びにきてください。ここにしかない学びが、いとちにはあると思います。ぜひ!

カメラを傾ければ、なんだって美しい


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