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「基幹」教員って?|大学から専任教員がいなくなる?

社会人学生にとっても重大な今回の改正について,文科省は「教員の働き方の多様化に対応するほか、多くの学生にとって専門性の高い内容を学ぶ機会が増えることも期待できる」(毎日新聞)といっていますが,はたしてどうなのでしょう?             

写真 読売新聞 (2022/09/05)

専任教員、複数大学で在籍可能に 文科省が10月省令改正」(毎日新聞 2022年9月7日)


クロスアポイントメントとは:

「在籍型出向」(経済産業省 2014年)

「日本再興戦略」2014年などで謳われた新たなイノベーション創出のための「在籍型出向制度」(クロスアポイントメント)があります。「研究者等が大学、公的研究機関、企業の中で、二つ以上の機関に雇用されつつ、一定のエフォート(従事比率)管理の下で、それぞれの機関における役割に応じて研究・開発及び教育に従事することを可能にする制度」のことです。

出向元と出向先のエフォートが50:50の場合,それぞれの機関が給与を分担するため「混合給与制度」とも呼ばれます。大学教員が週の半分を企業に所属して研究開発に従事する。企業側も自社に不足している分野の研究者を補えるなど,いいことだらけの制度にみえるかもしれません。
※ 従来から対象の教員がそれまで担っていた学生の指導や管理運営業務を別の教員が負担することの批判は多い

「基幹」教員とは?

2022年3月に中央教育審議会大学分科会質保証システム部会がまとめた改革案に基づき、今年の10月より施行される。

現行の大学設置基準(第十二条)では、専任教員は一つの大学、学部のみで務められることになっている。これを複数の大学、あるいは複数学部・大学院で兼務したり、「クロスアポイントメント」を拡大して,産業界の人材などを含む常勤以外の教員が務めたりできるよう要件を改め、「基幹教員」という名称を与えた。

この基幹教員制度では,「授業科目を8単位以上担当していること」を要件とし、設置基準上、最低限必要な基幹教員数の「4分の1までカウント」できることとする。

この改革案について,「教学改革のための柔軟な教育組織編成を促す制度変更が、人件費節約等、本来の趣旨から逸脱した目的で活用される可能性も否定できない」「非常勤教員の待遇を改善しないまま、基幹教員として過重な負担を強いる恐れがある」「大学設置・学校法人審議会は申請内容が規定に反していない限り、一人の教員がいくつもの学部の基幹教員を兼ねることを認めざるを得ない。しかし、それで本当に学生に不利益が生じないのかと不安を感じるだろう」という懸念があがっている。

おなじ基幹教員にも,常勤(専従)・常勤(兼務)・非常勤の3つの基幹教員が生まれます。「非常勤教員の待遇を改善しないまま」基幹教員として「4分の1までカウント」しようという大学が出てくることは容易に想像できます。

社会人学生にとっての基幹教員制度:

「専従する教員数の減少による負担増加」→「研究時間減少」→「研究力低下を伴なう教育の質の低下」といった負のスパイラル?

メリット:
専任時代とはことなり,教員が複数の大学に所属できることにより、需要が多い教育分野では他大学や公民の研究機関,企業との兼務によって、著名研究者を大学間で共有できます。

人件費の削減:
非常勤であっても基幹教員として算出することができるため、専任教員として算出していた教員も今後は非常勤基幹教員で対応が可能となり、大学全体としては教員人件費の大幅な削減に繋がります。

デメリット:
専従する常勤の基幹教員に今以上の負担が掛かることになります。基幹教員(専従)と基幹教員(兼務・非常勤)は同じ基幹教員とはいえ、研究指導や学生対応は専従の基幹教員が対応することになり,教育だけでなく研究も質的低下は避けられないでしょう。

非常勤教員の困窮化:
今までは、専任教員と非常勤教員という明確な立場・役割の違いがありましたが、今後は「基幹教員」として同じ立ち役割と責任(同一業務)を担わされます。ますます非常勤講師の常勤化が困難になり困窮化がすすむと思います。


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