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「マル秘展」に行ったら、なんでもいいから作りたくなった話。

会社の先輩のSNSにある日突然アップされていた、「とんでもなく面白い展示があるぞ」という投稿。

それは、2020年3月8日(日)まで、六本木の東京ミッドタウンからほど近くの「21_21 DESIGN SIGHT」で開催中の企画展「マル秘展」のことだった。

企画展の概要は実にシンプルで、日本のデザインを支えてきた&今も支えているデザイナー達のナマの原画を見られる、というものだ。
営業職とはいえ、少なからずデザインに関わる仕事をしている身としては、ポスターを見かけた時から訪れておかなければと思っていた展示であった。その上、尊敬する先輩の激推しともあれば行くことは決定したようなものだ。早速私は六本木に繰り出した。

余談だが、「21_21 DESIGN SIGHT」ではいつも切り口が面白くクオリティの高いデザイン関連の企画展が開催されており、以前大盛況を博した「デザインあ展」が開催された場所でもある。

また、鑑賞前の私のステイタスとしては
・デザインに関わる仕事を少ししているが、専門的に学んだわけではなく、そこまで詳しくはない
・デザインへの興味はある。
・「マル秘展」の参加デザイナーは、26人中4人の名前を聞いたことがある程度の予備知識。
といった具合である。
この程度の知識でも本当に楽しめるのか、という一抹の不安を抱えていたが、結果としてはそこまで心配することはなく充分楽しめたので、自分の知識量で迷っている方も気張らずに訪れてみてほしいと思う。

「マル秘展」の嬉しいポイントは、一部を除いて「撮影OK」ということだ。
想定よりたくさん写真を撮ったので全てをご紹介したいところではあるが、これから展示を見る人のネタバレになってしまうので、今回は個人の感想として「心が動いたポイント」3つに絞ってご紹介したい。
(それでもやはりネタバレ感はあるので、ゼロベースで展示楽しみたい方は、ここから先は展示を見た後にお読みいただけるとありがたい。)

【ポイントその1】原画でどこまで描く?の違い

まず驚いたのは、それぞれのデザイナーの原画にはほとんど統一したルールが無く、書き方にものすごく個性が現れているということだ。

まずは下の3枚の写真を見ていただきたい。

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1枚目は、グラフィックデザイナーの原研哉氏が展覧会の構想をまとめた原画だ。
「なるほどやっぱりデザイナーは絵がうまいな…それにしても原画の段階でこんなに綺麗に描く??これが作品と言っても過言ではなくない??」というレベルの書き込み具合でなかなかハードルが高い印象。

2枚目は、プロダクトデザイナーの深澤直人氏の椅子の原画だ。
「いや…こんな感じなら私も描けそう…?いやいやいや流石にそれはおこがましいというか…いやでも…」というなんとも勝手な葛藤を心の中で繰り広げてしまう書き込み感である。

3枚目は、隈研吾氏の「高輪ゲートウェイ駅」のスケッチである。
「えっ…!いやこれ、えっ、なんかもう、キャプション無かったらもう何なのか…」と、正直戸惑いを隠せないスケッチだった。
その後、下の模型を発見。

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「えーっ、あのスケッチからこうなるん?その間にゲートウェイの身に何があったん??」と幼子のようにはしゃいでしまい、同伴者に窘められる始末。

漫画の原画を見ている時と似ているが、思考プロセスや手を動かすプロセスは人それぞれ全く違うということを改めて実感する面白さがある。
会場は一方通行ではないので、色々なデザイナーの原画を行ったり来たり、見比べて楽しむのもおすすめだ。(人気の展示なので、その場合はくれぐれも他の人の鑑賞の邪魔にならないように…と私も気をつけながら見ていた。)

【ポイントその2】これって実はこんな風にできていたんだ!

先んじて「参加デザイナー26人中4人しか名前を知らなかった」とお伝えしたが、
原画を見る中で、「これってこの人が作っていたんだ!」という場面が多々あった。
なるべくネタバレを避けるため、特に感動した1点をご紹介したい。

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職場の近くに、「9h(ナインアワーズ)」というカプセルホテルがある。
従来のカプセルホテルの概念を覆すとても洗練された印象で、東京に暮らしながらも「いつか絶対に泊まってみたい!」と思っていた場所だ。
(以前、連休中に泊まってみようと予約を試みたが、すでに予約がいっぱいで諦めた経験がある、人気のホテルである。)

そんな「9h」をデザインしたのが、プロダクトデザイナーの柴田文江氏だと今回の展示で初めて知った。(グッドデザイン賞のHPによると、ディレクター兼コンセプト/プロダクトデザインを担当していると書かれている。)

アメニティーなどが並んでいる隣に目を移すと、そこにはカプセルユニットの製造プロセスが。

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「プロダクトデザイナー、ここまでやるのか…!」という感動。コンセプトを考えた柴田氏の、カプセルユニットの細部までこだわった原画を見たとき、「プロの仕事」を目の当たりにした気がしてゾクゾクとした。
それは、「なんだか素敵だな」と思っていたモノの裏側を知り、モチベーションがグッと上がった瞬間だ。そんな瞬間が、「マル秘展」を見ている中で何回も訪れた。

【ポイントその3】ある事象をデザイナーの視点で考えると?

最後に、私が大変心を動かされた原画(スケッチ?)がある。
それがこちらだ。

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ノートにびっしりと打たれた無数の点。
他の原画と同じスピードで通りすぎようとした私の足が一瞬止まり、キャプションを見てさらにその場から動けなくなる。
これは、建築家の内藤廣氏が、これを描いた当時発表されていた「3.11」の死者と行方不明者の数をドットで打ったものである。
数字が赤い点によって視覚化され、生々しいリアリティを増して襲ってくるような感覚。私たちがある事象と向き合って考えるとき、どのような手法をとるか。何かと比較したり、何かに例えたり、抽象的にしたり具体的にしたり。これは1人の人間が「3.11」と真剣に向き合ったひとつの大切な記録だった。

このように、具体的なプロダクトなどと紐づいていなくとも、デザイナーたちの日々の思考を垣間見れるスケッチがたくさん展示されていた。
「人の頭の中を除いたような感覚」とはまさにこのことなのか。「マル秘展」と聞いて想定していた展示内容を上回るものだった。

以上、拙い感想ではあるが、私が「マル秘展」で感じたことの一部を書かせていただいた。
デザイナーたちの考え方が無数にあるように、この展示を訪れた人が感じることも無数にあるはずだ。
同じくこの展示を見た人がどう感じたのか、色々と話しながら自分の中に生まれたモチベーションを育てていきたいと思う。
さて、明日からも誇れる仕事ができますように…。

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