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結婚前に夫の実家で心霊体験した話

結婚する前の話です。
折しもその日はお盆でした。

彼の実家は昔ながらの日本家屋で、玄関を開けると線香の匂いが私を出迎えました。
玄関を上がって奥の仏間には先祖代々のご位牌が祀られた仏壇が鎮座し、夏野菜と共にお供え物が並べられていました。
線香の煙が筋のように立ち上る仏壇に手を合わせると、私は彼の部屋がある2階へ向かいました。

まさかこの夜、人生32年目にして初めて心霊体験をするとは想像さえしていませんでした。


就寝してから、しばらくした頃でした。
玄関から人の気配がした気がして、私は目を覚ました。

…気のせい?

最初はそう思いました。ですが人の気配は玄関と仏間を行ったり来たりしています。

(彼の両親が歩いているのかな?)

高齢者がすり足で歩いているようにも聞こえました。ただ、あまりに行ったり来きたりを繰り返すので、私は気になって2階のガラス窓から玄関を覗いてみることにしました。

玄関は真っ暗でした。高齢者が歩き回るには危険な暗さだったので、彼の両親がいるなら電気をつけるはずだと思いました。

そういえば…建具を開ける音は聞こえなかったな…。

古い家なので建具を開ける時には必ず音がしました。仏間に行くには襖も開けます。どの建具も古かったので、注意を払って静かに開けようとしても音が立つはずでした。

私は首をかしげながらも布団に戻ると、耳を澄ませました。

玄関から仏間へ、静かに移動する気配はなおも続きました。

……やっぱり……誰かが、玄関と仏間を行き来してるんだ。
まさか泥棒?

そう思うと静かに寝てなどいられません。電気をつけると家の者が起きたことが分かって泥棒に襲われるかもしれないとまで考え、あえて電気はつけずに、私はガラス窓を覗きました。
さっきと同じ、懐中電灯の灯りさえない暗闇でした。私は意を決して窓を開け、玄関を覗き込みました。

誰もいない…。
人の気配さえありませんでした。
シン、と静まり返った玄関。
そういえば今日はお盆だ…。
ふと、そのことを思い出しました。

「お盆」といえば「ご先祖様」、「ご先祖様」といえば「霊」。
つまりこれは、ご先祖様が玄関からやって来て仏間に集まってる…?

その結論にたどり着くと、私は急に怖くなって慌てて部屋の電気をつけると、寝ている彼を起こしました。
「起きて!玄関と仏間を行き来する音が聞こえるの。もしかしてご先祖様かな?!」
蛍光灯に照らされて、彼は眩しそう目を細めて言いました。
「うん…そうじゃない?」
あっさり肯定。その言葉に、恐怖とは別の感情がよぎりました。

ちょっと待って?!
それって出慣れてるってこと?
出るの?毎年?!
お盆にご先祖様が?!
軽くパニックです。

「ねえ、ご先祖様なの?!この家、出るの?!」
「うーん……来年、嫁が来るからじゃないか…?」
どうやら毎年ではない様子。ホッとしたものの、ちゃんと会話できてるってことは起きてる?!
「ねえ起きて!結構な人数、来てるみたいなんだけど!」
私は訴えました。
「うん…わかった……大丈夫だから…」
いやいや私が大丈夫じゃないの!
「とにかく起きて!」
どんなに揺さぶっても彼は起きようとしませんでした。
信じられませんでした。
何が信じられないって、彼は常々「自分には霊感あるんだ。何回も霊を見たよ」と私に言っていたからです。
それが本当なら、彼は今、仏間に集まるご先祖様をその目で確認できる唯一の人なのです。
それなのに起きないなんて!

私には一人で1階に降りて確認する勇気はありませんでした。霊感のない私が行ったところで見えない可能性大。それに見えない私が取り囲まれて呪われでもしたら?!
怖すぎて、もはや悪霊もご先祖様もゴチャ混ぜでした。

…仕方ない。1階はそっとしておこう…。

私は電気をつけたまま寝ることにしました(笑)

それが考えた末の最善策でした。気配が消えるのが先か、私がいつの間にか眠ってしまうのが先か。眠れそうなら彼のように私も眠ってしまおうと思ったんです。

でも、恐れていた事態が起こりました。

ギシッ…ギシッ…ギシ…と、階段を登ってくる音が鳴りはじめたのです。その音が、私たちの部屋の前で止まりました。

私は怖くなって頭から布団をかぶりました。

部屋の中に入ってくる気配はなかったのですが、階段を上がってくる音は鳴り止みませんでした。
布団にもぐっていても、部屋の前に大勢の霊が集まってくる気配します。しかも、部屋を仕切るガラスの引き戸から中を覗いているようなんです。
絶対に目を合わせたくない視線でした。

怖いっ!!!

いつのまにか、ピシッ!パシ!ピシ!と天井からも音が鳴り出して、絶体絶命でした。
私はどうするべき?!
思考にスイッチが入りました。

現状、これは、あの有名なラップ音というものだ!いつか見たテレビで霊能者が語ってたヤツ!

特番で見た記憶が甦り、その後、読んだ本が浮かびました。

ラップ音の正体は「家鳴り」です。
家に使われる木材の伸縮が原因です。

ん?………家鳴り??これが???

私は即座に否定しました。

天井が、ピシッ!パシッ!
階段が、ミシッ…ギシッ…ギッ…
うるさいほどに鳴り響くこのラップ音が、家鳴り?!
もし、それが正しいなら、もうすぐこの家、潰れますよレベルじゃない?
まさか天井、崩落しないよね?

築年数を考えると天井崩落の危機のほうが現実的でした。

確認しなきゃ!
でも布団を出て、霊と目があったらどうしよう?ショックで心臓止まる?

感情と思考が入り乱れる中、
「それより、天井に異変がないかを確認して命を守る行動をとることが最優先だよね!」
私は賢明な判断をくだしました(笑)

そして、
布団から出た私が見たのは、
天井……異常ナシ。
ガラス戸……人の姿ナシ。
すべて異変なし。

何も確認できませんでした。
なのに……なぜか……電気もついてて明るくて、誰もいないことを確認して安心していいはずなのに……感じるんです。

大勢の視線を…。

見えないのに、いる!
しかもラップ音は鳴ったまま…。

「ねえ、起きてよ!部屋の前に誰かいるよ!」
私はさっきよりも必死に彼を揺さぶりました。
「うーん…起きてる…」
それ起きる気ない人が言うセリフ!

私はホントに信じられませんでした。
大人がこんなに熟睡する?!
こんな起きないってある?!
コレ、泥酔してるか薬盛られたレベルだよ?!
それにあなた霊感あるんでしょ?鈍くない?!今、部屋の前で霊が大集合してるっていうのに!!

結局、心霊体験イベント発生中、彼は一度も起きなかった。
二人で経験し共有することができたはずの心霊体験を、私は一人で体験し続けた。

幸いなことに、しばらくするとその気配は一人…また一人…と、ギシギシと音をたてて階段を降りて、玄関から外に出て行く気配へと変わりました。
玄関が開け閉めされた音は聞こえなかったけれど、玄関から外に気配が出て行くのが分かったんです。


緊張がほどけて一息ついた私は、無数の霊に取り囲まれて尚、眠り続けた自称・霊感婚約者を見ながら、
(私のほうが霊感あるんじゃない…?)
そんなことを思いました。

こうして真夜中のご一行様が本宅(お墓?あの世?)に戻られて、静まり返った深夜の部屋に取り残された私は、心に誓いました。
もう高らかに訪問を告げていただかなくて大丈夫です。結婚したらお墓参りは欠かさないようにしますから、と。


ちなみに結婚後、住んでみて分かりましたが家鳴りはします。わりとよく。
でも私があの日、体験したラップ音とは明らかに違いました。その音を聞いたのは、あの日だけでした。


余談ですが、翌年。
仏壇に珍客が訪れました。
お盆の頃でした。私が供えた仏壇の湯飲みにアマガエルがいたんです。
それを見つけた義父は、
「こんなこと初めてだ!!」
と大興奮でした。
客観的に見ればたまたまかもしれませんが、この家に生まれ育って77年、初めて見た光景に歓喜する義父に、77年目の初めてならたまたまじゃなくて、それはもう奇跡だと私は思ったのです。

***

長くなりましたが、最後まで読んでいただきありがとうございました。これからも、最後まで読めちゃったよ、と思っていただけるようなお話をお届けできればと思います*一叶*

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