短歌「強さとは力ではなく真夏日にパピコはんぶん分け合えること」をコントにしてみると…

男、かぶとを被り、甲冑かっちゅう姿。
女、縦に長く尖った帽子を被り、羽扇はねおうぎを持っている。
遊園地の入園ゲート前で2人が仁王立ちしている。

女「こんにちは」
男「こんにちは」
女「先日はありがとうございました」
男「こちらこそ。まさかもう一度お会いできるとは」
女「パーティー以外でもお話してみたくて」
男「嬉しいです。婚活パーティー当日以外で再会できた女性は、あなたが初めてです」
女「私もです」
男「そうでしたか!でもこれ…( 甲冑 かっちゅう姿を指差し)合ってますか?」
女「お似合いです」
男「なら良かった。頂いた紙袋を開けたら甲冑とライトセーバーが入ってて驚きましたが…覚悟を決めて着ました」
女「ありがとうございます。パーティーで私と同じく歴史が好き、とお聞きして…それにしました。模造刀もあったんですが流石に物騒かと思って(ライトセーバーを指差し)そちらに」
男「(ライトセーバーをブインブイン鳴らしながら)斬新なデートだ」
女「ええ。私はどうでしょう?」
男「あ、お似合いです。軍師…でしょうか?」
女「そうです。小さい頃から軍師に憧れていて」
男「そうでしたか」
女「ええ」
男「出陣、しますか?」
女「行きましょう」
男「いざ」
女「いざ」

2人、遊園地(浅草花やしき)の入園ゲートをくぐる。

男「入れましたね」
女「ここにして良かった」
男「どういう意味ですか?」
女「本当はディズニーランドに行きたかったんです」
男「そうでしたか!」
女「ええ。でも、ディズニーランドはハロウィン期間以外の仮装は大人だとダメなんです。多分入園できないから…」
男「そうでしたか」
女「本当は城攻めしたかったんですけどね…」
男「…シンデレラ城…でしょうか?」
女「はい」
男「初めてだ!シンデレラ城に入ることを城攻めと形容するなんて」
女「(凄い勢いで男に顔を近づけて)ディズニーランドもシーも大好きなんです!」
男「つ、伝わります、はい」
女「あ、あそこに馬が!」
男「メリーゴーランドですね!乗りますか?」
女「調達…したい」
男「はい?」
女「甲冑は用意しましたが軍馬までは気が回らず…できれば現地調達して」
男「(被せるように)無理です!さすがに無理ですよ。歩兵と軍師のコスプレをした40過ぎの2人が初デートをしている。それだけでも地獄絵図なのに…馬までは…」
女「そうですよね。私ったら浮かれちゃって。ごめんなさい」
男「こちらこそすみません。それにしても暑いですね」
女「暑いですよねー今日は34度まで上がるらしいですよ…こんなクソ暑い日に(横にいる男に目線を配って)甲冑っ!!真夏日にヤダ!ごめんなさい!私ったら」
男「いえ、大丈夫ですよ。確かに思いました。紙袋を開けた瞬間、"イケるぅ?"って。一瞬、躊躇しましたが大丈夫です」
女「本当にごめんなさい」
男「謝らないで下さい。折角ですから楽しみましょ!そうだ、あのカエルの乗り物でも乗りましょうか?」

2人の前にはカエルをモチーフにした、椅子に座り、地上を上下する乗り物がある。

女「タワーオブテラーみたい」
男「タワーオブテラー?」
女「知りませんか?ディズニーシーにあるアトラクションです。薄暗い室内に入り、エレベーターホールのような場所で椅子に座り、最上階に登ったかと思ったら一気に落ちるんです」
男「初めて聞きました」
女「初陣でした…」
男「初陣?」
女「はい。軍師としての初陣でした」
男「聞きましょう」
女「気付けばまんまと敵地へ誘導され、討たれる寸前でした」
男「それはどういう…?」
女「意気揚々と入ったものの、敵の計略に掛かったのです」
男「計略?」
女「はい。周りを見渡せば、味方はくくりつけられていました」
男「着席し安全ベルトをした、ということでしょうか?」
女「それから物凄い轟音が聞こえました。おそらく敵の騎馬隊でしょう」
男「アトラクションの音響、ですよね?」
女「歩兵しか引き連れていない私に対し、敵は無数の騎馬」
男「お友達と行かれたのですね」
女「戦場である大地が上下に揺れたかと思うと、前方の視界は夢とも現実とも判断できぬ程変わりゆき、熱を帯び、汗とも血潮とも思えるにおいが充満した」
男「登りきったので楽しませる為に降下した、ということでしょうか」
女「次の瞬間!鋭利な刃物で…つんざくような味方の悲鳴がこだまする」
男「ワーとかキャーとかですかね」
女「熱狂と混乱で埋め尽くされた乱戦の末、敵共が次々と大声で勝ち名乗りを上げていました」
男「まだ続きます?この話?」
女「終わりです」
男「良かった」
女「(カエルの乗り物を指差し)そのような乗り物では?」
男「(即答して)ないです!そのような乗り物では決してないです。お話を聞く限り、タワーオブテラーとは比較にならない程優しい乗り物かと思います。でも…やめときましょう、乗り物は」
女「すみません」
男「いえ。そうだ、私、売店で何か買ってきますよ。何か食べたい物ありますか?」
女「ジンジャエールと…チュロスがあれば食べたいかも…です」
男「ジンジャエールとチュロスですね。分かりました」
女「ありがとうございます」

男、手に持っていたライトセーバーを置き、

男「行ってきます」
女「お願いします」

女、ベンチに座る。
男、しばらくして戻ってくる。両手にチュロスや飲み物を持っている。飲み物を女に手渡し、左手にチュロス、右手にライトセーバーを持ち、座る。
女、飲み物を飲む。

女「ビールだ!」
男「あ!すみません。自分用の渡しちゃいました!ジンジャエールはこっちだ」
女「このまま頂いても良いですか?」
男「もちろんどうぞ」

2人、しばらく無言で飲み物を飲んでいる。
男、ジンジャエールを置き、

男「どうぞ(ライトセーバーを手渡す)」
女「えっ」
男「あ!(慌ててチュロスを差し出し)こっちだ」
女「やだもぉ!…そんな一面もあるんですね」
男「すみません暑くて…こんなの着てるからかな、頭がボーっとしてるのかもハハッ」
女「だからすみませんって!」
男「いや、そう言う意味で言ったんじゃなくて」
女「どうせ空気も読めない、変な趣味の女だと思ってますよね?そうですよ!歴史が好きすぎて誰からも相手にされない悲しい女なんですよ!」
男「いや誰もそこまで言ってないですから」
女「そこまでってことは少しは思ってたってことだ!」
男「いや、ですから…」

沈黙する2人。

女「ごめんなさい。私、お酒弱くて…飲むとつい」
男「謝らないで下さい。私の方こそ、顔も格好良くない、年収も低い、武将みたいな体格でもない。こんな私と一緒にいてもつまらないですよね。(頭を下げ)申し訳ない。(独り言のように)それにしても上手くいかないなぁ。恋愛って難しくて…(他人事のように)いい歳して笑っちゃいますよね」
女「…初めてのデートは全然盛り上がらなかった。…時として、そのような思い出も良いんじゃないでしょうか?」
男「(女の顔を見つめ)それは…まさか次回もお会い頂ける、という意味で受け取って良いのでしょうか?」
女「(女、目をつむり唇をアヒル口にして突き出す)」
男「こ、これは…」

男、唾を飲み、接吻しようとする。が、女の尖り帽子に自分の兜が"コツン♪"、"コツン♪"と当たるだけで全然唇に届かない。何度もあらゆる角度で試みるが、やがて諦める。

女「(ゆっくりと目を開けて)大切に…してくれる方なんですね」
男「あ、いえ…その…はい」
女「嬉しいです」
男「しかし、甲冑が全く似合わない程ひ弱な私で良いのでしょうか?」
女「遊園地に入る前」
男「入園前に何か?」
女「コンビニでパピコを買ってくださいましたよね?」
男「あまりにも暑かったんで。安いプレゼントですみません。しかも半分なんてケチくさい」
女「私、"強さ"って"優しさ"だと思うんです」
男「優しさ、ですか?」
女「はい。私が戦国武将を好きなのは、強いのはもちろんのこと、義に厚い人物が多いからです。そして、その強さや義の根底には"優しさ"があると思うんです」
男「なるほど。それで、顔もパッとせず、ひ弱で、年収も低い私にチャンスをくれたんですか。優しさ…か。やっぱりお金より愛ですもんね!」
女「(即答で)それはお金です」
男「(完全同意する言い方で)ですよね?(当たり前のような物言いで)愛よりかはお金ですよ。それは言うまでもない」
女「生活していくにはお金が必要ですから」
男「仰る通りです。今は愛の話ではなく優しさの話だ!そうだそうだ!」
女「私はあなたのポテンシャルに賭けたいんです」
男「可能性…ですか?」
女「はい」
男「遊園地に入り、狂う程暑いのを我慢していましたが…どうやら戦場に入る前に勝負はついていたのですね」
女「そうですね。戦わずして勝つ。見事でした」
男「ありがとうございます。今後とも宜しくお願いします」
女「こちらこそ。あなた専属の軍師になれたらいいな、なんて思える1日でした」
男「なんて素敵な言葉なんだ!次回は普通のデートをしたいですね。どこか行きたい場所はありますか?」
女「そうですね…岐阜県なんてどうでしょう?東と西に分かれて…馬もレンタルできるそうです」
男「東と西?それに馬?岐阜県…関ヶ原かぁぁぁ!」

ヴゥヴー♪(法螺貝の音が鳴り響く。)
暗転。


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