アラサー;就活おわったので、婚活はじめました。3
【婚活アプリ、はじめます編】
PM6:00──。
ベッドのうえに寝そべりながら、私はじっとスマホをながめていた。
画面からもれるブルーライトを顔面で受けとめると、婚活アプリのアイコンが黒い瞳に反射する。
恋庭、Pairs、Omiai、With……。
…………。
「いや、数多すぎない?」
さすがに顔がひきつった。
これだけの数のなかから探せと!?
正直、婚活アプリ初心者にとっては、すべてが同じ出会い系アプリにしか見えない……。
しかも、入会金がアリのアプリもあるらしい。
べつにケチくさる気はない、お金ないけど。
でも地方住みの私がお金を払ったとして、その地方の人がいるの?
べつにケチくさる気はないよ、お金ないけど。
アプリの概要欄に『◯◯県 およそ◯◯◯人』とか書いてあれば便利なのに。
それすると、私のような地方の人も喜んで入会金を支払えるだろうに。
なんて、卑屈になる婚活初心者の私。
とはいえ、文句を言ってても始まらないぞ。
婚活の成功とは、
99%の行動と1%の運である。
つまり、耐え忍ぶ訓練である。
という信念で、婚活を進めようと思う。
たぶん、これくらいの信念がないと途中で心がおれる。
そりゃそうよ。いつだって人間関係は複雑だもの。
恋と愛なんて、友より複雑なんだから。
友でも傷つくなら、恋と愛でも傷つくのが当然だわ。
↑これくらいの精神ないと、たぶん折れそう。
「いや、それよりどのアプリを使うか……」
激しいスクロールを5回ほど、くり返す。こんなに雑なスクロールは私史上初めてである。見たことない。
そんな雑なスクロールをザッザッとしながら、ふいに私は指を止めた。
アプリ概要をクリックすると、長いスクロールの説明が指の速度にあわせて流れていく。
『まじめに婚活』
『真面目な男性との出会い』
『理想の結婚相手を探している』
「…………marrish(ここ)だ!」
ひとつ決まると行動は早かった。
跳ね起きて、ベッドのうえで正座するなり、すぐさまアプリをインストールする。
まるで指先を操られたみたいに、登録項目をうめていき、ついに『いいね!』を押してマッチングした。そのときだった。
“メッセージを送るには、身分証明書が必要です”
「身分証明書……?」
婚活アプリは出会い系アプリと対して変わらないと思ってたけど、どうやら思ってた以上にきちんとしてるらしい。
そう、きちんとしてる。と、思いつつもその一方で、
一瞬、迷った。
身分証明書、送っても大丈夫なの?──と。
お役所ならまだしも、これアプリだし……。
身分証明書って。
こういうとき、アラサー婚活初心者兼、ほぼ恋愛経験ナシのお堅い系は黙りこんでしまう。
恐いことにも、知らず知らずのうちに、あらゆるものへの警戒心が強くなっている。
言葉を失った口もとも、思ったよりキツく閉じていた。
スマホを握りしめたまま、私はしばらく自分の呼吸だけを聞いていた。
ふいに私を正気づかせたのは──、
“まず決める、そしてやり通す。
それが何かをなすための唯一の方法ですわ”
by ラクス・クライン
──脳に浮かんだ言葉だった。
ガンダムSEEDのラクスの言葉。一推しではないけれど、目標を決めたとき、私はいつもこの言葉に背中を押されている。
そう、婚活する。
まず決めた。なら、あとはやり通す。それだけなのである。
意を決して、私は身分証明書を送った。
そして始まる、marrishでの婚活──。
次回は【初の婚活アプリ marrish編 1】
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