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とある弁理士の一日

はじめに

 私がパラリーガルと二人で仕事をしていた頃のよくある1日の流れです。少しでも、特許事務所の仕事をイメージしてもらえればと思いますが、中小企業をメインクライアントとするため、大企業をメインクライアントとする一般的な事務所とは若干違うと思います。契約メイン、外国案件メインなど、どのような業務を中心とするかで変わりますので、あくまでも一例としてご理解ください。

午前中(~11時頃まで)

 私は午前中に打ち合わせを入れるのが好きで、依頼者の下に伺うスタイルの仕事をしています。このため、午前中は事務所を空けることが多いです。また、依頼者は知財に詳しくない方が多いため、「特許出願のことで相談がある」と言われて伺っても、意匠や商標、不競法等、特許出願となることはまれです。
 このような状況のため、基本的には事前資料はなく、依頼者のHPや(あれば)過去の出願情報、業務分野の動向等可能な限り依頼者の情報を調べてから打ち合わせに臨みます。この時の、カウンターパートナーは原則社長ですが、技術の話になれば技術担当者が、経営の話になれば経理担当者が、と様々な方と話をしたり、必要な資料を見せていただいていることが多いため、企業に伺う方が、追加資料や追加のお話が聞きやすいというのも私から出向く理由の一つです。

 例えば、特許出願に繋がる場合には、制度の説明や権利範囲のすりあわせ、必要であれば追加資料をお願いする等、基本的に登録までに必要な情報は全てこの段階で依頼者にお話しします。言い換えると、法律を熟知していることは当然として、この段階でどのような出願書類を作成するかイメージができている必要があるため、弊所のようなタイプの事務所では、無資格者や実務未経験者が面談に臨むことは難しいです。このため、今後人を増やした場合も、最後まで私が担当する(又は、同席する)必要がある作業と考えております。
 
 なお、事務所によっては打ち合わせを録音する事務所も多いようですが、具体的な数字を含む経営状況等記録に残せない(記録に残る場所で話すことに抵抗がある)話を聞くこともあるため、録音はしていません。

午前中(11時~12時頃)

 事務所に戻った後は、特許庁等へ提出する書類の最終チェックです。私が外出中に、スタッフが書類の提出準備をしてくれているので、その書類の最終チェックを行います。弁理士「事務所」である以上、事務仕事は業務のメイン業務であり、事務所にとって最も大切な仕事の一つです。チェック事項は、ある程度はチェックリスト等を使ってチェックしておりますが、ノウハウ的な知見も多く、経験が必要な部分も多いため、おそらく、最後まで私が担当する業務がこれだと思っております。
 なお、出願業務は電子手続のため、手続そのものはワンクリックです。しかしながら、出願前後の管理業務で行うことは多く、事務所としてはかなり工程数をかけている事務所が多いですので、「今すぐ出願して欲しい」と依頼が来ると、所内がばたついたりします。

午後(13時~17時頃)

 メールや電話の折り返し等、問い合わせ対応の時間です。弊所の場合、知財部が社内に無い依頼者が多いため、法制度に限らず、様々な種類の相談事が入ります。例えば、「この製品を販売すると何かリスクがありますか?」とか「この製品特許取れますか?」とか、慎重な回答が必要なものも少なくありません。また、出願業務以外の業務(例えば、警告書を貰った(送りたい)等)の業務や知財分野以外の法律(多いのは、会社法とか薬機法とか)に関係することも少なくないため、どこまで答えて、どこから専門家を紹介するかの切り分けも必要です。
 その他にも、現在進行中の案件について、外国案件であれば外国弁理士とのメールのやりとりや、依頼者の実験状況の確認やデータについて考察したり、他士業(弁護士、税理士、社労士が多い)と連携を確認したりと、外部と協力する必要がある仕事を優先して行う時間に充てています。
 私の知る限り、弁理士は自己完結する仕事が多いですが、私の場合、他の方と協力して対応することも少なくありません。出願業務がメインの事務所に勤務している頃は、黙々と出願書類を作成する毎日でしたので、一日中電話やメールで誰かと会話(?)している私は、ちょっとイレギュラーかもしれません。
 なお、午後に打ち合わせが入ることもあれば、依頼者からの相談は来ますし、パラリーガルへの指示や報告対応等も逐次入りますので、私の場合、予定通り進まないことが「予定通り」であり、その日する予定だった仕事の開始時間が就業時間後であることは少なくありません。

午後(17時~)

 弊所は9時-17時の7時間勤務体制のため、私以外の全てのスタッフは17時ジャストに退所します(残業無し)。このため、17時以降に出願指示が来た場合には、私が出願手続をすることになります。
 それはさておき、ここからが書類作成の時間です。おそらく、多くの特許事務所では、この業務が中心業務であり、まず事務所に就職すると、その事務所で最も多い書類(出願業務が中心の事務所であれば明細書や意見書)の作成業務から担当になることが多いと思います。もちろん、弊所でも同様で、弊所に参加して貰った場合、まずは出願書類の作成業務から担当して貰います。
 弊所の場合、特許出願書類(明細書)を作成するのは全体の3割程度と多くなく、非定型文章(鑑定書、警告書、調査報告書、実験計画書、マニュアル、助成金等申請書(案)、説明書、コメントetc)が多いことが特徴です。

終わりに

 ちょっと中途半端な形になってしまいましたが、事務所の日常を垣間見る一助になれば幸いです。
 繰り返しになりますが、事務所の業務は様々な業務がありますので、どのような業務を中心とする事務所かによって仕事のスタイルは大きく変わります。また、大きな事務所では分業制を採用しているため、どの業務を担当するかによってやはり仕事のスタイルは大きく変わります。
 あくまでも、中小企業をメインクライアントとする零細事務所の一例として、例えば、中業企業をメインクライアントとして独立した場合の独立初期の日常の一例として考えていただけると良いかも知れません。

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