見出し画像

ピート・シェリーの死

1976年、イギリスのマンチェスターで結成された”パンク”バンド、バズコックスのヴォーカル兼ギターのピート・シェリーが7日に亡くなった、という記事がツイッターで流れてきた。バズコックスは10年くらい前ライブ盤をよく聴いていたがそういやスタジオアルバムはなかったなと思い、今日レンタルCD店にてベスト盤を借りてきた。

それは改めて歌詞もちゃんと知りたくなった、からでもある。ちなみにあの時代のパンクバンドといえば髪の毛ツンツンでとにかく過激を絵に描いたようなファッション、というイメージだが、バズコックスのピート・シェリーは背も低くて、こう言ってはなんだが”冴えない男の子”という言葉がピッタリだ。晩年である最近のライブ映像ではさらに進化?していて、もう完全に近所の中年太りじいさん、頭も禿げ上がり、お肉屋の店主だと言われたらすんなり信じてしまいそうな(笑)、とてもロックやってる風貌には見えないのだった。

https://youtu.be/varq0YFR5jI

そんなピートの書いた歌詞も風貌同様に飾らない等身大、である。

恋愛小説、俺はラブストーリーが好きだ
だが俺の人生には無縁さ
恋愛小説は素晴らしい
だが俺の人生には無縁さ
愛の夢に苦悩の夢
どこまでもどこまでも夢ばかり
(”フィクション・ロマンス”より)

この情けなさと率直さ、ルサンチマンと自己愛がないまぜになった言葉の数々が、ドタバタしたドラムとジャンクリーなエレキギターの音に乗って矢継ぎ早に繰り出される。人懐っこい抜群のメロディーセンスと共に。もしこのバンドのライブを年端もいかない若い子たちが観たなら”自分もやってみたい”って思うだろうなと容易に想像がつく。いや実際あの時代彼らのライブを観て数多くの若者がバンドを組んだのだ(バズコックスが地元に招聘したセックス・ピストルズのライブを観ていた数十人の中に、後のザ・スミスのモリッシーやジョイ・ディビジョンのメンバーがいた、のは有名な話)。

解散・再結成を経て、初期のサウンドからテクニック的にも大幅な変更はなく…つまりはマンネリともとられかねない活動を続けていたバズコックス。時代時代ごとに新たなファンも獲得してたとは思うが、常に脚光を浴び音楽シーンの最前線にいた、という感じでも正直なかったと思う。(ちなみにピートはバズコックス解散後ソロでエレクトロ・テクノポップのはしりみたいな曲”テレフォン・オペレーター”で大ヒットを飛ばしている、実はとても新しもの好きな人)

しかし”手に届くパンクロックスター”という道を全うしたピートのカッコよさは他のロックスターとは違う唯一無二の輝きを放っている。少なくとも心あるロック好きの間では偉大な男であり続けたのは間違いない事実だろうきっと。

何者でもない、でも何者かになりたいともがく地方都市に生きる若者の心情そのものを死ぬまで歌い続けたピートに哀悼の意を表したい、そんな気持ちに駆り立てられて、数年ぶりにnoteに投稿してしまったのだった。多分きっとそんな感じで彼らの歌はこれからも世界中の”何者でもないキッズ、そして今でも何者でもない元キッズ達”の心の炎を灯す存在であり続けるのだろう。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?