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製造業の流通構造についての完全解説

板橋です。

複雑怪奇な製造業の流通構造について、綺麗にまとまっている文献が無かったので、徹底的にまとめた記事を作ってみました。

この記事だけを読めば、大まかに流通について詳しくなれる!という内容を目指して作っています。

最後に参考文献(URL)も載せているので、ご参考ください。

卒論クラスに長くて、真面目な記事なので、楽しいものではありませんが、誰かのお役に立てれば幸いです。

1章 流通の役割

1)流通の役割とは?

流通とは?

流通とは、生産から消費までをつなぐ仕組みです。

メーカーが生産した製品を、消費者である個人や事業者まで安全・確実に届け、その代金をメーカーが回収するまでの一連の流れのことを指します。

生産から消費までをつなぐという役割はシンプルですが、製品と消費者(個人または事業者)の数は膨大で、大きな流通網を形作っています。

網の目状に張り巡らされた流通網が、日々複雑な活動をしています。

流通機構とは?

流通網は、メーカーから最終消費者までの売買を担うと同時に、生産された商品を消費者に届ける物流の機能も持っています。

またメーカーが発信した情報を消費者に届け、さらに消費者が発信した生産品やメーカーに関する情報をメーカーにフィードバックする機能も持っています。

この社会システム、流通の仕組みは「流通機構」と呼ばれます。

生産品とは?

生産された製品は、消費する個人・事業者まで流通で届けられます。

生産品には、消費財と生産財があります。消費財は消費を目的として購入されるもの、生産財は生産活動のために必要とされるもののことです。

さらに消費財は、家庭内で使用する消費財と、レストランや美容院、医療施設などの業務で使用する業務用消費財に分けられます。

*ここでは流通の説明のため便宜的に、消費財と生産財をまとめて生産品と表現します。

流通チャネルとは?

メーカーで製造された生産品が消費者に届けられるまでの経路は、流通チャネルと呼ばれています。

流通チャネルには、消費者に直接生産品を販売する「直接流通チャネル」と、卸売事業者や小売業者を介して販売をする「間接流通チャネル」があります。

さらに間接流通チャネルには、「開放的流通チャネル」、「選択的流通チャネル」、「排他的流通チャネル」の3つのタイプがあります。
それぞれ紹介していきます。

①開放的流通チャネルとは?

「開放的流通チャネル」とは、生産品の発売元(メーカーや輸入業者など)が、卸売事業者や小売業者などの取引先を限定しない流通形態です。幅広い流通チャネルを構成します。

日用品や食品、家電製品など、日常生活で使用する商品を中心に、全国の幅広い消費者層向けの販売に適した流通チャネルです。

②選択的流通チャネルとは?

「選択的流通チャネル」とは、卸売事業者や小売業者などの取引先をある程度制限する流通チャネルです。

ブランドイメージの維持や一定のサービス提供を目的に、メーカーや輸入業者などの発売元が制限します。

大手化粧品メーカーと直接契約する制度化粧品の販売店や、過去に家電メーカーが組織化していた系列小売店などがこれに該当します。

その他高級ブランド品や、希少価値を重視する生産品などの販売場面で見られる流通チャネルです。

③排他的流通チャネルとは?

「排他的流通チャネル」は、流通の経路となる卸売事業者や小売業者を、全国や特定地域で1事業者、または特定の少数事業者に限定した流通チャネルです。直営店の場合もあります。

ブランドイメージの厳格な管理が求められる海外の高級ブランドや、販売時に詳細な取り扱い方法とメンテナンスなどのサービスの説明が必要になる自動車販売などが例に挙げられます。

さらにiPhoneのアップルが運営するアップルストアのように、専売店を設け、他社との差別化戦略として排他的流通チャネルを構築する例も見られます。

④販売チャネル、オムニチャネルとは?

流通の経路を表す用語にはほかに「販売チャネル」という言葉があります。これは物流を含まない狭義の商取引(売買)の経路を表しています。

もう一つ、近年になって注目されているのが、イオンやセブン&アイホールディングスなどが展開しているオムニチャネルです。

実店舗とECサイト、Webサイトなどを融合し、顧客とのさまざまな接点として最大限に活用する新しいマーケティング手法です。2)の「新しいチャネル」で詳説します。


2)流通と物流の関係

物流は、流通チャネルを構成する要素の一つです。生産品を多くの消費者に届けるという重要な役割を担っています。

流通チャネルを効率的に運営するのに物流は必要不可欠です。物流の進化が流通の効率化と先進化に大きく寄与しています。

日本の物流の進化

高度成長期以前の日本では、物流の役割は「保管」、「輸送」、「荷役」であり、工場や営業所などそれぞれの拠点での対応が基本でした。

しかし高度成長期の1960年代半ばになると、国内生産力が成長し大量生産・大量消費時代となり、これまでの物流の役割分担や処理能力では対応しきれなくなりました。

そこで新たに追加された役割が、「包装」、「流通加工」、「情報システム」です。

特に情報システムは物流の進化に大きく貢献しています。

工場や営業拠点それぞれが個別対応していたものを統合し、さまざまな役割の間をコントロールするなど、物流全体を合理的に管理しています。

また当時の物流先進国である米国を参考に、社会インフラとしての道路、港湾・空港設備、物流センターなど物流ターミナル機能の整備が始まりました。

さらに、コンテナリゼーション(一定の規格のコンテナに荷物を積み込んで運搬すること)や、コールド・チェーン(常に冷蔵・冷凍の状態で保管・輸送するシステム)の展開など、物流に関する技術革新が進展。

現在の物流システムの原型が形作られました。

物流からロジスティクスへ

現在の物流は、物流からロジスティクスへ、流通における役割が拡大、進化を続けています。

ロジスティクスとは、自社の範囲の物流の最適化だけではなく、原材料の供給元から消費者に至る流通チャネル全体の最適化を目指すものです。

SCM(サプライチェーンマネジメント)の要素の一部として展開されています。

3)日本における流通の歴史

現在の日本における流通チャネルは、以下の3パターンで表すことができます。

①開放型流通チャネル

メーカー(もしくは輸入元)⇒卸売事業者⇒小売業者⇒消費者

日本国内の代表的な流通パターンです。

メーカーから卸売事業者と小売業者を経由して、消費者に生産品が届きます。

上述した卸売事業者のポジションにメーカー系列の販売会社が入ることもあります。

②選択的流通チャネル

メーカー(もしくは輸入元)⇒販売会社(販社)⇒小売業者⇒消費者

開放型流通チャネルと異なり、一般の卸売事業者ではなく、供給元の系列の販社を経由するケースが多くなります。

③排他的流通チャネル

メーカー(or輸入元)⇒販売会社(販社)または直営店舗⇒消費者
メーカー(or輸入元)⇒自社Webサイト他通信販売など⇒消費者

排他的流通チャネルでは、メーカーが消費者へ直接販売するケースが多くみられます。

なお、少数ですが、卸売事業者や販社を経由する場合もあります。

流通構造の変化の歴史

①生産者優位の時代(戦後から1960年代前半まで)

高度成長期初期の1960年代前半頃まで、国内の流通は以下のパターンが一般的でした。

メーカー⇒一次卸売事業者⇒二次卸売事業者⇒三次卸売事業者⇒小売事業者

当時の産業界は多数の小規模メーカーで形成されており、メーカー1社当たりの生産量は限られていました。

また物流環境の整備も進んでおらず、卸売事業者や小売業者も一部を除き小さな規模でした。

このため、流通は「細くて長いパイプ」の時代でした。

一方、消費規模も個人・事業者とも小さなものでした。

当時の市場環境は「需要>供給」の需要過多で、売り手優位の状況であり、生産者が流通を主導する時代でした。

このため、生産者が取引条件や小売価格(定価販売など)をコントロールしていました。

流通を担う事業者は、商取引において受け身の立場でした。

②1960年台後半からの流通革命

1960年代半ばに大量生産・大量消費時代への移行が始まると、国内でもスーパーが台頭するなど、流通に変化の兆しが表れます。

1960代後半には流通の先進国である米国からマーケティング手法が活発に導入され、日本の流通構造の見直しと改善を進める「流通革命」が始まりました。

この時期の流通革命の大きなポイントは「問屋無用論」。

日本のそれまでの流通構造は「細く長いパイプ」であり、中間マージンが大きいものでした。この中間業者の排除と中間マージンの削除が図られたのです。

流通革命の進展により、流通チャネルの短縮と、小売事業者の広域化対応、小売商業施設の大型化が進みました。

今日では二次、三次卸売事業者などの存在意義が低下し、事業者数は大幅に減少しています。

③小売事業者の大規模化

小売事業者が大規模化して販売力(仕入規模)が拡大したことと、情報化社会が進展したことにより、流通の主導権が流通事業者、特に大型小売業者へと移行してきました。

今日ではコンビニチェーンを含む大規模小売業者が、メーカーに代わって流通の主導権を握ってきています。

その結果、メーカー主導の時代にあった定価販売が姿を消し、メーカー希望小売価格も影が薄くなってきました。

メーカーと小売事業者とは、パワーバランス競争の一方で、プライベートブランドなどで協調する新しい流通場面の模索も進んでいます。

このように小売事業者がパワーアップした背景には、独占禁止法による自由競争環境の整備や、大規模小売店舗法などの規制緩和政策があります。

一方、大規模小売店舗法施行後、パパママストアと呼ばれる零細小売店が減少し、シャッター商店街が広がり、地域活性化が課題となっています。

④新しいチャネル

情報化社会の進展により、インターネット(通販)市場が拡大しています。

日本のものづくりの歴史を経て、「メイド・イン・ジャパン」は国内外で信頼性を獲得しており、その信頼性を背景にして、リアル店舗で商品を確認せずに購入することが一般的になっています。

その一方で、まだまだ現物を直接見て選びたいという気持ちと利便性から、リアル店舗で現物を確認し、購入するのはインターネットという「店舗のショールーム化」現象も生まれています。

このリアル店舗のショールーム化問題を解消すると期待されているのが「オムニチャネル」です。

「オムニチャネル」は、実店舗とECサイト、Webサイトなどを融合し、多様でかつ最短の経路で顧客と結びつく新しいチャネルとして、流通事業者が開拓を進めています。

これはメーカーが自社のWebサイトにダイレクトに顧客を囲い込む「排他的流通チャネル」に対して、流通事業者も店舗ロイヤリティを高める顧客の囲い込み戦術の一環として展開しているとも考えられます。
(※オークションサイトは考慮外とします)

流通構造の変化

商業統計によると、流通変革が大きく進展した昭和の時代1988年の卸売事業所数は約44万、小売事業所数は約162万です。

それが平成の時代2016年では卸売事業所数は約36万、小売事業所数は約99万と、どちらも大きく減少しています。

また別の観点で流通経路の長さをはかるのが、卸小売販売額比率(W/R比率)という指標です。

これは「卸売業の総販売額」を「小売業の総販売額」で割った割合で、流通過程が長くなると中間マージンが加算されてW/R比率が高くなります。

商業統計のデータを使って試算すると、1988年は3.9、それが2016年には3.0と下がっています。1988年当時はすでに流通経路の短縮が進んでいましたが、そこからさらに短縮化が継続している状況がうかがえます。

※事業者数、商品販売額は経済産業省「商業統計」による。直近での最新版のデータを使用


2章 製造業と流通の関係

1)製造業の製品と業種の分類

製品は主に「生産財」と「消費財」と「投資財」に分けられます。
それぞれ解説します。

①生産財とは?

生産財は生産活動のために必要とされるものです。
以下のものが該当します。

・いろいろな産業で使用される原材料や燃料
・製品の部品や容器などの副資材や消耗品
・事業所で使わる消費財(企業消費財)

なお事業者が購入して使う文房具やトイレタリー商品などの消費財は、業務用(企業)消費財となります。

②消費財とは?

消費財は消費を目的として購入されるもののことで、家計で購入される製品を指します。

消費財はさらに、自動車や家電などの「耐久消費財」と、食品や日用品などの「非耐久消費財」に区分されます。

③投資財とは?

あまり目にしませんが、投資財とは工場の生産設備や建設資材などのことです。

多様な生産財と業種

生産財には、鉄鉱石や石油などの原材料、二次加工用の鋼材やプラスチックなどの素材、自動車や家電などのさまざまな部品、ICなど各種半導体製品、その他たくさんの製品類があります。

スマートフォンを例にとると、外装ケースとなるプラスチック加工製品、半導体やディスプレイなどの電子部品、金属製品など、数多くの部品(製品)が使用されています。

それぞれの製品メーカーが製造したこれらの部品をスマートフォンメーカーが組み立てて、消費財であるスマートフォンが完成します。

部品や完成品を製造するメーカーは多岐に渡っており、関連する業種も多岐に渡ります。

メーカーの業種が異なれば、その製品を流す流通チャネルの業種も異なります。

業種の分類

日本の標準的な業種分類によると、生産財と消費財に該当する業種は「粗原料及びエネルギー源」、「加工基礎材及び中間製品」、「輸送用機器」、「情報・通信機器」、「その他の機器」、「食料品、飲料及びたばこ」、「生活・文化用品」です。(「卸売業」の大分類による)

なお生産財のみという業種はありません。「粗原料及びエネルギー源」でもガソリンや電力などに生産財と消費財が含まれ、「輸送用機器」では自動車部品は生産財、乗用車は消費財となっています。

一方、消費財に限定される業種としては「生活・文化用品」があります。

2)製造業の代表的な流通チャネル

先のスマートフォンの例のように、生産財と消費財は原材料から最終製品まで一つの流れでつながっています。

原材料から最終消費者に至る流れは、サプライチェーンと呼ばれています。

ここでは便宜的に、中間製品メーカーと消費財メーカーに区分して、流れを図示しています。

作図

※メーカー間の取引に卸売事業者が2社介在するケースもありますが、1事業者のみ表記しています。
※物流事業者は割愛しています。

①生産財の流通チャネル

原材料から中間製品の部品やモジュールが製造され、次の中間製品メーカーや消費財メーカーに供給されます。(※モジュール…複数の機能を持つ部品を組み合わせたもの)

その間の事業者間の取引は、多くが卸売事業者を経由しますが、一部直接取引もあります。

②消費財の流通チャネル

消費財メーカーから消費者に販売される流れです。この両方を合わせると、製造業全体の流通チャネルとなります。

製造業の流通に関わる事業者

卸売事業者には、商社や販社、卸売、問屋があり、前出の図の卸売事業者①~④には、「商社」、「販社」、「卸売」のいずれかが入ります。

(※図では卸売と問屋は概念がほぼ一致しているので図では卸売に統一しています。商社や卸売、販社、問屋といった表現には、標準的な定義はありません。メーカーや金融機関のように、業種の役割を示すために使われる慣用語です。)

どの表現も流通を担う事業者のことを指しています。
また卸売事業者は代理店や特約店などと表現されることがあります。

この言葉は「代理店契約」、「特約店契約」といった取引当事者間の契約関係を示すもので、小売事業者でも同様の表現があります。

(※図では、代理店や特約店の契約は考慮していません。)


商社とは?

「総合商社」と「専門商社」と「販売会社(販社)」と「卸売」と「小売事業者(販売店)」があります。それぞれ解説します。

①総合商社

商社の代表格は、いわゆる大企業の「総合商社」です。

総合商社の役割は、さまざまな国との原材料や製品の輸出入、さまざまなジャンルの生産財や消費財の取引(流通)など。

また資源開発などの事業投資、新しいビジネスチャンスを見出す事業機会の創出なども、総合商社特有の役割です。

総合商社は、前出の図で卸売事業者①~④のいずれにも入りますが、原材料を扱う卸売事業者①のポジションに大きく関与しているのが特徴です。

たとえば旧財閥系の総合商社では、グループ企業向けの石油の輸入(卸売事業者①)から化学製品メーカーの総代理店(卸売事業者②/代理店契約)まで一括して受け持つケースが見られます。

総合商社の強みの一つは、グループ企業のサプライチェーンのさまざまな仕入れと販売取引の場面に介在できることです。

総合商社には旧財閥系以外にも多様なタイプがあります。

繊維系商社から発展した総合商社(伊藤忠商事など)、消費財メーカーが展開する総合商社(豊田通商など)、鉄鋼など大手メーカーが展開する総合商社(JFE商事など)など。

②専門商社とは?

商社には総合商社のほか「専門商社」があります。

役割は総合商社と同じく輸出入と国内流通ですが、専門商社は特定の国や特定の資源・製品に特化しています。

企業規模は大規模企業から中小規模までまちまちで、卸売事業者①~④のいずれかに該当します。

企業規模の差に比例して、取引規模や事業投資規模などは総合商社に比べ小規模です。

事業投資をまったく行わない専門商社も多く存在します。

③販売会社(販社)とは?

販社とはメーカーが 100%出資、もしくは系列の卸売事業者と合弁で設立した企業です。

親会社であるメーカーの製品の販売を主な目的としています。

自動車や家電、化粧品など消費財の業界で多く見られるほか、生産財の卸売でも販社が存在します。

販社はメーカーの直系の卸売事業者であるため、販売先や価格など販売チャネルのコントロールが容易となります。

④卸売とは?

卸売の役割は商社とほぼ同様ですが、国内での取引が中心です。

流通革命以前には、メーカーから仕入れを行う一次卸(別名は大卸、一次問屋、卸問屋など)と、卸からさらに仕入れる二次卸や三次卸など(仲卸や小卸、地方卸など)、卸売事業者が数多く存在していました。

現在の流通構造では、第1章で述べたように二次卸や三次卸は少なくなっています。

卸売の特徴として、顧客や販売店への小口の配送や御用聞きなど、顧客事業者との接触頻度が高いことが挙げられます。

半導体工場で使用される微量かつ多種類の化学薬品の在庫と発注管理(加工基礎材及び中間製品卸売業/生産財)、病院の多岐に渡る医薬品の在庫管理と発注業務の協力(医薬品卸売業/業務用消費財)など、付帯的なサービスも卸売事業者は求められています。

これらの例に限らず、卸売事業者は業種ごとにさまざまなサービスを顧客に提供していると推測されます。

⑤小売事業者(販売店)とは?

小売事業者とは、消費者に直接商品を販売する商店のことです。

ショッピングセンター、百貨店、スーパーやドラッグストアなど大型量販店、コンビニ、さまざまな専門店や通販業者などが該当します。

なお、次項3)で述べる「販売店」のように、生産財や業務用品の販売を行っている小売事業者もあります。

3)生産財の流通チャネル

生産財の流通チャネルにも様々な種類があります。それぞれ解説していきます。

①基本流通チャネル

生産財業界は、以下のような種類のメーカーで構成されています。

・原材料サプライヤー(鉄鉱石や石油などの輸入業者や、基礎石油化学製品・金属素材などのメーカー)
・機械メーカー
・部品メーカー
・モジュールと呼ばれる複数の部品を組み合せた機能製品のメーカー

原材料やこれらの中間製品が消費財メーカーに届くまでの流れが、生産財の流通チャネルになります。

日本で生産財の流通チャネルを担っているのは、「商社」、「販社」、「卸売」を総称した卸売事業者です。日本では、原材料サプライヤーから商品メーカーに至る製品メーカー間の取引は、卸売事業者が介在するのが一般的です。

基本流通チャネル例:原材料サプライヤー⇒卸売事業者①⇒中間製品メーカー(加工品・部品)⇒卸売事業者②⇒中間製品メーカー(モジュール)⇒卸売事業者③⇒消費財メーカー

卸売事業者①は、総合商社と呼ばれる卸売事業者が主に担っています。

企業系列や特別な契約形態がある場合には、メーカー間の直接取引もあります。

なお卸売事業者①~③は、ほとんどの場合、別の企業です。

②二次卸を経由する小規模取引

取引規模などの関係で、大手の卸売事業者と中小の卸売事業者(二次卸とも呼ばれます)の2社を経由して取引をする場合があります。主に卸売事業者②、③の場合です。

小規模取引例:中間製品メーカー⇒卸売事業者②または③⇒二次卸②または③⇒中間製品メーカー又は消費財メーカー


③業務用販売店から購入

取引数量が小さい生産財(原材料、加工品、部品、モジュール製品)については、業務用販売店からメーカーが購入するケースがあります。

この業務用販売店とは、主に建築業者や事務所、町工場、修理工場などを対象に、生産財と業務用品(業務用建築資材や事務用品など)を販売する小~零細規模の卸兼小売事業者です。

※消費者向けの小売店と区別するために、前出の図では業務用の小売販売事業者を「販売店」と表記しました。

なお販売店は、販売先の比率により、産業分類では小売事業者に含まれる場合もあります。


生産財の流通チャネルの特徴

製品分野によって、取引に関与する商社の数が異なります。

特徴①:原材料や汎用の化学製品:総合商社と代理店の2社が入る

プラスチックの原材料や汎用の化学製品は、一つの取引の規模が大きい製品です。

メーカーの規模も大きく、数万トンのレベルで大規模生産しています。ユーザーの数も消費財に比べると圧倒的に少数です。

また一般消費財と違って、保管を含め取り扱いが難しいという特徴があります。

このような製品の取引では、総合商社が関与することが一般的です。

総合商社が大きな資金力やネットワークを使って、代金決済、販売先確保、物流手配などを行います。

このとき、以下のような商社2社を経由する流通チャネルを取ることが多く見られます。

メーカー⇒総合商社⇒代理店⇒ユーザー

総合商社は傘下に代理店(卸売事業者)ネットワークを持つケースが多くあります。

これらの代理店にユーザーとの個別の取引を任せ、取引量を分散、流通機能の安定した運営を可能としています。

なお、このような原材料に近い製品では、製品の種類と販売先がある程度固定化していることが多いのも特徴です。

メーカーは販売を総合商社に任せることで、安定供給と研究開発に効率的に集中できるというメリットがあります。

鉄鋼業界でも、一次製品の鋼材では同様な仕組みを取っています。

特徴②:一般化学製品:専門商社1社が入る

一般化学製品は生産規模が数百トンのレベルで、一つの取引の規模が比較的小さい製品です。

総合商社にとっては採算性が低く、化学品の専門商社が取り扱っています。(総合商社グループでは傘下の専門商社が取り扱います)

流通チャネルとしては専門商社1社だけを経由するケースが大半を占めます。

鉄鋼製品でも、板材や棒材などの二次加工品になると、化学製品と同様に専門商社が取り扱います。

特徴③:卸売事業者は少なくとも1社入るのが一般的

生産財メーカー間の取引は、安全確実な事業運営のために、卸売事業者を少なくとも1社入れるのが一般的です。

中間製品メーカーと消費財メーカー間においても、同様な傾向で推移しています。

特徴④:メーカーからユーザーへの直販をするケースはレアケース

メーカー(売主)からユーザー(買主)への販売は、卸売事業者を挟むのが一般的ですが、以下のような一部のケースでは直接販売する例もあります。

制限のある供給・調達関係にある場合

1章で述べた「選択的流通チャネル」「排他的流通チャネル」を形成している場合です。主に以下のような場合があります。

・共同開発した製品を少なくとも一定期間は開発者だけから調達する場合
・ライセンス、又はノウハウを供与し、自社のみに製品を供給させる場合
・ジャストインタイム(後工程で使用した分だけ部品を調達する)方式の工場が外注工場(下請事業者)から調達する場合

Eコマースで直販する場合

インターネット販売が広がり、生産財メーカーがECサイトへ参加するケースも見られます。

しかし国内の現状では、単発の取引や、カタログ情報だけで購入できる一般的な製品など、限定的に使用されている段階と推測されます。

ユーザー(買主)にとっての問題は、製品の多くは継続的な供給が必要なため、メインの供給元とするためには供給保証が必要なことです。

メーカー(売主)にとっても問題があります。製品分野によってはユーザーからの需要情報によって製品の供給計画を立てており、見込みが立てられない販売は不安定要素となることです。

4)消費財の流通チャネル

消費財の流通チャネルでは、メーカーと消費者の間に生産財のような加工プロセスがありません。

代表的な流通チャネルは以下の通りです。

消費財メーカー⇒卸売事業者⇒小売事業者⇒消費者

消費財の業種ごとに、卸売事業者や小売業者がそれぞれ存在します。

国の産業分類では小売業は卸売業に近い分類ですが、小売事業者の業種の種類はさらに細分化されています。

それぞれの業種ごとに消費財メーカーから卸売事業者、小売事業者へ流通するほか、さまざまな商品を扱う量販店やインターネット販売経由があります。

近年は、Webサイトなどでの通信販売チャネル(無店舗販売)が拡大しています。

「消費財」と「生産財」の流通の違い

違い①:消費財の流通チャネルの方が長い傾向にある

生産財と消費財では、一般論として消費財の流通チャネルの方が長い傾向にあります。

消費財は上に示したような3段階、もしくはそれ以上のチャネルが中心です。

生産財は製品の生産規模や取引の規模により、
3段階<メーカー⇒商社⇒傘下商社や二次卸など⇒顧客>

2段階<メーカー⇒卸売事業者⇒顧客>
に分かれています。

生産財全体としては、消費財に比べ流通チャネルが短いと言えるでしょう。

違い②:販売インセンティブがある

消費財の流通チャネルでは商慣習としてさまざまな販売インセンティブがあります。(減少傾向にあると言われています)

卸売事業者を経由する販売チャネルの活性化が目的です。

生産財の流通チャネルでは販売インセンティブは少なく、消費財の流通チャネルの特徴と言えます。

3章 日本と海外の流通構造の違い

1)アメリカにおける生産財の流通チャネル

アメリカにおける生産財の主な流通チャネルは、次の4パターンです。

①メーカー⇒ユーザー
②メーカー⇒マニュファクチャラーズ・レップ⇒ユーザー
③メーカー⇒マニュファクチャラーズ・レップ⇒インダストリアル・ディストリビューター⇒ユーザー
④メーカー⇒インダストリアル・ディストリビューター⇒ユーザー

※ユーザーは生産財メーカーもしくは消費財メーカーです。


流通チャネルの事業者の特徴

①マニュファクチャラーズ・レップ (manufacturers' rep)(またはマニュファクチャラーズ・エージェント)

一般的に「レップ」と略します。レップは販売活動をする代理人です。

特定メーカーと契約し、メーカーが指定した製品を指定した地域で販売活動を行います。

ビジネスモデルとしては、売買は行わず、寄与した売上の一部をコミッション(手数料)として受け取るものです。

物流はメーカーからユーザーへ直接配送されるのが一般的です。

全米メーカーの半数以上がレップと契約していると言われ、生産財の流通において重要な地位を占めています。

レップの事業者としての特徴は、メーカーなどの系列に属さない独立系で、数名程度の零細規模であることです。

レップは取り扱い製品ラインについて高い技術サービス力を持っています。

②インダストリアル・ディストリビューター (industrial distributor)

インダストリアル・ディストリビューターは生産財の卸売事業者です。

業務内容はいろいろなタイプがあります。

・「ライン・ディストリビューター」や「ジェネラルライン・ディストリビューター」:幅広い製品分野を扱います。
・「専門製品ライン・ディストリビューター」:限定した製品群を扱い、高い技術力でユーザーのサポートができます。
・「コンビネーションハウス」:上2つの特性を併せ持ちます。
・「バリュー・アデ ッド・ディストリビューター」:簡単な組み立てなどの製造加工機能も持つ流通事業者です。

一般にインダストリアル・ディストリビューターは特定のメーカーの系列に属さず、従業員20~30名程度の日本でいう中小規模の事業者が多いのが特徴です。

商圏はメーカーによって制約されることはなく、企業規模により地域限定、広域、全米に分かれています。

レップと異なり仕入れて販売を行います。販売活動のほか、在庫を持ち、与信管理や、流通情報のフィードバックなどを行うのが一般的です。

2)日米間の流通チャネルの違い

違い①:総合商社の存在

アメリカと日本の流通チャネルの大きな違いは、日本における総合商社の存在です。

総合商社の役割は2章で述べた通り、流通チャネルだけでなく産業界全般に関与しています。

日本の卸売事業者にあたるのは、アメリカではレップやインダストリアル・ディストリビューターですが、総合商社の役割を果たしている企業は見当たりません。

日本の総合商社は戦後の復興期に企業グループを形成し、海外進出と市場の成長・安定化に貢献し、現在の位置を占めています。

アメリカでは国民性や産業の歴史・考え方が異なるため、アメリカで総合商社のような役割は考えにくいと言えます。

違い②:流通チャネルの長さ

1章で流通チャネルの長さをはかる卸小売販売額比率(W/R比率)を紹介しました。

「W/R比率=卸売業の総販売額÷小売業の総販売額」の式で求められる指標で、流通チャネルが長くなると中間マージンが加算されてW/R比率が高くなります。

1988年のW/R比率で比較すると、日本3.10に対してアメリカ0.99という大きな差があり、アメリカに対して日本の流通チャネルが長いことが示されています。

*1991年の経済企画庁(当時)の「経済分析」による。一般卸売業に関するデータから算出
*使用データが異なるため、1章の試算値と異なる

但し、流通チャネルの長さのほか、以下の影響も考えられます。

①日本では総合商社があるため、卸売業の総販売額が大きい
②アメリカでは大型小売店が多く小売業の総販売額が大きい


3)海外の流通が日本に与える影響

流通チャネルの短縮化が進んでいる

日本の流通は、流通革命以前には二次や三次の複数の卸売事業者が介在していましたが、現在では流通チャネルの短縮化が進んでいます。

消費財では、小売事業者の大規模化によって、流通チャネルが短縮。

生産財においても流通チャネルが短くなっています。

生産財のユーザーとなる中間製品メーカーの大規模化や、ジャストインタイム方式による生産や物流システムの進化などが一因です。

また海外メーカーとの取引拡大が国内の産業構造にも影響を与えていると考えられます。

1980年台以降、国内メーカーの工場が海外に進出し、部材の現地調達が進みました。

さらに円高を背景に、国内向けにも海外からの部材や製品の調達が増えています。

海外から調達する場合、日本国内で取引に関与する卸売事業者は1社だけになるケースが主流です。

流通チャネルが長かった国内メーカー間の取引が置き換わるため、流通チャネルの短縮に影響を与えていると考えられます。

このため、今後の国内流通チャネルはより短縮して、米国型へと向かうと予想されます。


様々な新たな展開

国際化が進展し、サプライチェーンが国や地域を越えて世界中に広がるようになりました。国内で完結しない流通網が拡大しています。

また工場を持たずに外注するファブレスメーカーが存在感を増しています。

代表はiPhoneのアップルで、国内メーカーではキーエンス、任天堂などが挙げられます。

これらの会社から中間製品および消費財の生産を受託するOEM(Original Equipment Manufacturing)がワールドワイドで発達し、一大ビジネスとなっています。

その中でも、エレクトロニクス産業に特化したEMS( electronics manufacturing service )と呼ばれるメーカーがグローバルなビジネスを展開し、世界の産業構造の変革が進んでいます。

このため、エレクトロニクス業界における卸売事業者も、新たな展開が求められる時代になっています。


参考文献

<参考文献>
1章 流通の役割

日本流通構造の変化について
https://www.inter-stock.net/column/no103/

流通構造の変化
http://www.cap.or.jp/~kandokoro/2006/pdf/2006_024_025.pdf  

流通戦略
http://web.tku.ac.jp/~htajima/lecture/marketing1/MK038%E3%80%80%E6%B5%81%E9%80%9A%E6%88%A6%E7%95%A5.pdf

コトバンク 流通用語辞典
https://kotobank.jp/dictionary/jryutsu/6/

物流管理の知識
https://www.sk-buturyu.com/buturyu/butu02_buturyu.html

マーケティングチャネル戦略
https://crowdworks.jp/times/marketing/2023

市場流通構造の変化
https://www.jftc.go.jp/soshiki/kyotsukoukai/kenkyukai/ryutorikenkyukai/280629_files/280629-2.pdf

日本のW/R比率
https://biz.moneyforward.com/blog/20791/

2章 製造業と流通の関係
日本標準産業分類
https://www.soumu.go.jp/toukei_toukatsu/index/seido/sangyo/19-2.htm

鉱工業指数の財別分類
https://www.meti.go.jp/statistics/toppage/report/minikaisetsu/hitokoto_kako/20191125hitokoto.html

伊藤忠商事
https://www.itochu.co.jp/ja/ir/investor/businessmodel/index.html

商社ビジネスモデル
https://asiablogoffice.com/oversea059/

製造業の商流・物流のイロハ
https://inviting.jp/knowledge/purchase/distribution/  

【永久保存版】代理店の仕組みや形態まとめ
https://www.dairiten-master.com/archives/56

「販売チャネル」と「流通チャネル」の意味の違いとは? 
https://bizwords.jp/archives/1049582233.html

マーケティングがわかる辞典
https://www.nrc.co.jp/marketing/06-04.html

3章 日本と海外の流通構造の違い
米国における産業財流通業者 - 早稲田大学リポジトリ
https://waseda.repo.nii.ac.jp/

米国インダストリアル ・マーケティングチャネルの現状と課題
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsds1988/1997/10/1997_10_91/_pdf  

国外市場に対するマーケティングの歴史 三洋電機・松下電器編
https://matome.naver.jp/odai/2137473267381169501/2137483832225276303

世界の大手電気・電子部品 ディストリビューションへの 参入可能性調査
https://www.jetro.go.jp/ext_images/jfile/report/07000987/0905_World_EE.pdf

ファブレス
https://www.kaonavi.jp/dictionary/fabless-management/

EMS
https://ja.wikipedia.org/wiki/EMS_(%E8%A3%BD%E9%80%A0%E6%A5%AD) 

経済分析 平成3年(W/R比率含む) http://www.esri.go.jp/jp/archive/bun/bun123/bun123a.pdf


自己紹介

板橋 洋輔 (いたばし ようすけ)

1991年生まれ。中央大学法学部卒。新卒でITベンチャー企業に入社し、あらゆる業種のWEBコンサルティングを行いました。その後、総合広告代理店の博報堂に入社。営業として大規模なマスプロモーションの進行指揮に携わりました。現在はメーカーで自社のマーケティングを担当しつつ、個人でも他企業のマーケティングコンサルティング業を行っています。

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