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自己革新を引き起こす「第4の場所」

人と人とが繋がるコミュニティがあちこちで立ち上がっています。
デジタル技術で遠隔地にいる人同士でも簡単に繋がって対話したり相談したりができるようになりましたし、人々の価値観も変わってきていてよりウェルビーイングを重視するようになってきました。
仕事だけが人生ということはなく、興味あることに触れたり、新しいことを学んだりして人生を充実させようとしている人が増えてきているのではないかと思います。

家族(第1の居場所)でも職場(第2の居場所)でもない、自分を解放してくれる居心地の良い場所のことをサード・プレイス(Third Place)と呼びますね。
サード・プレイスは、たとえば趣味の集まりや学びの場であったり、あるいはスポーツを共に楽しむ仲間達の集まりだったりします。
自分を縛り付ける様々なしがらみやストレスから抜け出して、自分を解放してリラックスできる居場所になってるのではないでしょうか。

内向的な人であればサード・プレイスは自分だけ独りになれる場所ということもあるかもしれませんが、私を含めて外向的な人や人好きの人にとって色々な人と交流できるサード・プレイスを持つことは必須と言っても過言ではないかもしれません。

でも私は、それだけでは人生の豊かさという意味では足りないかもしれないと思っています。一回きりの人生を豊かに過ごすためには「第4の場所」が要るのではないか、と思うのです。
どういうことなのか、ちょっと考えてみました。

サード・プレイスは「自分」の延長線上にある

社会人になってからの私は長い間身内で固まる傾向がありました。ここでいう身内で固まるとは家族と会社のみという意味です。
就職した時に東京から大阪に移って、東京にいた時の友人関係・友好関係が一旦途切れてしまったことと会社や大阪という場所に馴染もうというところもあり、そこに意識が集中していたのが理由かと思います。

異業種交流会」という言葉を聞くようになったのは30半ばぐらいで、当時付き合っていた彼女がそれに夢中でなかなかデートできなかった(結局別れました(笑))ところから、何がそんなに面白いんだろうかぐらいに思っていました。

本当の意味で自分にとってのサード・プレイスができたのはビジネススクールに通ってからだと思います。
そこで私は自分が如何に井の中の蛙であったのかを思い知らされました。様々な人と出会い、その人達の考え方に触れ、自分の中の思い込みの強さや視野の狭さを思い知らされたのでした。

同時に面白いとも思っていました。これだけ多様な考え方の中で自分のプレゼンスを高めたり考え方で他者に影響を与えたりするにはどうしたら良いのだろうかと考えましたし、そうなるように色々学んでスキルアップをしていったように思います。

しかしながら、今思えばこれらの活動は「自分」を拡張するためであったり、発揮していない自分の一部を表に出せる場であったりで、自分という日常の延長線上からそれほど遠くないところを彷徨いていただけだったかもしれないと思います。
言い方を変えると日常に持ち帰れるような部分で立ち止まっていたということであり、自分にとって役に立つことがわかっている領域に出向いていたということだったのだと考えられるな、と。

リアリティ・エンジンという経験

10年前ほど前でしょうか。
ビジネススクールで知り合った友人が私に「U理論をさらに発展させたワークショップを思いついたので参加してみないか」と声をかけてきました。
彼はそれをリアリティ・エンジンと呼んでいました。

人とはちょっと変わった発想をするけれどハートが熱くて話していて面白い彼が声をかけてくれたので二つ返事で参加することにしたのですが、これが当時の私にとっては実にぶっ飛んだ経験でした。

今にして思えばリアリティ・エンジンは実にシンプルな構成の対話会でした。
椅子を円陣を組むように配置し、そこに約10名弱の人が座ります。特にテーマは決まっていない状態で自己紹介を兼ねたチェックインから流れでそれぞれが話したいことを話してそれに対して感じたことをフィードバックしたりコメントしたりします。
時間にして約2時間、その後飲みに行っていました。

ぶっ飛び体験を作り出してくれたのは、そこに参加していた人たちでした。
半分ぐらいはビジネスパーソンで全員男性、40代の働き盛りの人たちばかりで中には起業している人や会社役員の人もいました。
残りの半分が、美大生。全員女子、20代ないしは学生で、もちろん企業で働いた経験がない人たちでした。私にとっては、普段、ひょっとしたら一生接点を持てないであろう人たちでした。

彼女達を見ていて、会社の話とかして分かるんだろうかと私は思いましたし、中には「何も知らない若者達に社会の厳しさを教えてやろう」的に構えている人もいたように見受けました。
幸い彼女達はおじさん達の話を興味を持って聞こうとしていました。多分、その先にデザイナーとして企業に就職するような人もいたからでしょう。場としては十分に成立していました。

初回のチェックイン後に、今日はたくさん話して欲しいと言われて自分のことを話し始めました。何を話したのかはっきりとは覚えていませんでしたが、自分の仕事がどんなものであるのかを話していたように思います。彼女達やビジネスパーソン側の人たちから色々と質問があり、それに応えながらどちらかというと淡々と話していたのだろうと思います。

ひと通り私が話を終えた後、彼女達から感想というかフィードバックが来ました。
今も覚えているのは二つ
「心が泣いているよ」
「なんで光るものに蓋をしてるの?」

え? 何それ?

最初は何を言われているのかよく分かりませんでしたけれど、頭の中が真っ白になる体験でした。
今の話でそんなふうに見えていたのか! と。

大いに混乱しましたけれど、少し時間が立ってから振り返ってみると、彼女達は話している私の語調や表情などの非言語の部分や話し方から微妙な私の感情を感じ取っていたのだと分かりました。
つまり、感情を押し殺し自分の意見ややりたいことを我慢して仕事をしているのに、そこに無理やり喜びを見つけようとしている…彼女達からすると全然幸せそうに見えないということだったのでしょう。

自分の仕事に誇りと責任と感じて生きてきた私にとって、これが如何に衝撃的な体験であったのかは想像できますでしょうか?
今思えば、この衝撃の後、それまでロジック中心でしか物事を考えなかった私が人の感情に目を向けるようになったと思います。

好奇心よりも「自分らしさ」と「少しの勇気」

この体験の後もリアリティ・エンジンは月一回のペースでしばらく続きましたので、可能な限り参加をするようにしていましたが、私にとっては全く異次元の体験と言って良いものになっていました。
もう、ビジネスに役立つとか自分が興味があるとかではなく、「人間ってなんだろう」みたいな哲学的な問いと向き合う感じでした。

私はこういう場が「第4の場所」ではないかと思っています。
自分の日常やアイデンティティと全く切り離され、一人の人間としてそこにいる以上にはなれないような体験をする場所、それが第4の場所、Fourth Placeなのです。

第4の場所では、自分の知らない世界と出会い知ることができますが、私がリアリティ・エンジンで体験したように自分自身を深く内省することに繋がります
この世界と相容れなかった自分とは何者だろうか、というアイデンティティの問いが生まれてくるわけです。

それは必ずしもポジティブな体験だけとは限らないでしょうけれど、このような体験は強烈な記憶として残りますし、それがあるから自分のアイデンティティや軸をしっかり持つことにも繋がるのではないかと私は考えています。
なので、第4の場所を訪れることは誰にでも薦めることができるかな、と。

ただ、そこに入ってゆくのに必要なのは「好奇心」とか「興味」ではないかもしれないと思います。
軽く考えて入ってゆくと自分で自分自身を否定することにも繋がりかねず、かなり危なかったしいかな、と。

それよりも必要なのは、どんな場においても「自分らしくある」ことと、未知の領域に飛び込んでゆく「少しの勇気」かなと思います。

第4の場所においては、「完全なるアウェイ」状態が待っている。そんな中でも自分を保てるためには周りに合わせるのではなく、自分自身を理解して自分らしくその場にとどまることができるかどうかがとても重要になります。そうしないと場に呑まれて動けなくなってしまいますので。

そして、第4の場所に入る前には当たり前ですが勇気が入りますよね。でも過度に身構えずに「少し」の勇気で良いのです。
無理だなと思ったら出てくれば良いのですから、軽い気持ちで知らない世界に足を踏み入れるような感覚で良いのだと思っています。

自分の周りの世界の延長線上にない世界というのはなかなか見つけるのは難しいかもしれません。私はたまたまそういう機会に友人のおかげで出会うことができましたが、そういう機会がない人は、ダイアローグ・イン・ザ・ダークとかが良いかもしれません。

行きたいと思いながら私はまだ行けていないのですけれど、行ったことがある友人の話を聞く限り、全盲の方がどんな世界にいるのかを体験することができる貴重な機会になるのではないかと思えます。
そんな世界に触れることで、自分が何者であるのかも内省できそうですしね。


人間は社会生活を営む生き物であり、一人では生きてゆくことができないのでなんらかのコミュニティに属しています。
そのような居場所から切り離され、全く縁のない別の世界を飛び込んでみることは恐ろしいことなのかもしれません。

しかし、敢えてそんな場所に身を置いてみるからこそ、世界とは何か、人間とは何か、そして自分は何者なのかが見えてきたりします。
必要なのは自分らしさと少しの勇気。
今の自分に行き詰まりを感じていても、そうでなくても。たまに第4の場所を訪れてみると人生は豊かになる、あるいは自分の人生の豊かさをあらためて感じられるかなと私は思います。

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