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研修やワークショップの適正価格を考える

クライアントとして仕事を発注する側として、いつもいくら考えても不思議なのが研修やワークショップをコンサルタントや研修会社に依頼した時に彼らがつけてくる値段です。
いったいどうしてこの価格になるのか?

人材開発や組織開発の仕事では、研修やワークショップは投資です。よって投資効果がちゃんと出るだけのものになっているのか、リーズナブルなコストなのかについてはいつも問われています。でも、見積もりを受け取ると???になってしまう事が多いのが現実です。でも会社として組織としてなんとかお金をかける理由を見つけて投資の正当化をしないといけません。

「なぜこの値段なんですか?」とコンサルタントや研修会社に聞いたこともあるのですが、こちらが納得できる理由を話せる人は皆無でした。みなさん、「○○に手がかかるから」とか「他でもこのくらいお願いしてるので」とかに説明が終始して価格設定のロジックは一向に見えてこないのです。

そう言うものなのかもしれませんが、このnoteでは敢えてそこに一歩踏み込んで(タブーなのかもしれませんけれど)、ワークショップの価格設定ロジックと適正価格について考えてみます。

相場

人材開発の仕事を始めた頃、外部講師に頼むと講師やプログラムによって価格に違いがあって、なぜ違うのかが全く理解できませんでした。でも、値切って質を落とされても困るので言い値で受けるしかないのですけれど(時々、御社特別割引とか言うわけのわからないことをしてもらえました)、実際にやってもらった後で「これはボッタクリだろう」と思わされる事がしばしばありました。

価値と価格が合うかどうかが開催してから分かるのでは手遅れです。見積もりや打ち合わせの段階で価値を見極め「適正価格」になるよう交渉をする必要があります。
そのためには「相場」を知る必要があります。

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色々と見てゆくと、どうやら相場を決めているのは(それが良いかどうかとは別に)ワークショップのコンテンツや講師の経歴・実績などのようです。また、受講者が新入社員なのか、管理職なのか、役員なのか、あたりも影響してきます。
MBA的なビジネススキルだと高いですし、新入社員のマナー研修は手頃です。そして役員対象の研修は高額になりますし、新入社員だとそれほど取られません。

相場
私のこれまでの経験で、価格別に相場を列挙すると以下のようになります。価格はいずれも1日の講師派遣料です。
05万〜10万円:新入社員向けマナー研修(派遣講師一名あたり)
20万〜30万円:研修会社を通さず、個人事業主の研修講師の場合
40万〜50万円:研修会社が行う非管理職向けのスキル研修
50万〜60万円:研修会社が行う管理職向けの研修
〜100万円:大学の先生や著名人、名の知られた人気講師が登壇する場合

研修会社が入る場合は当然研修会社が受け取る報酬(取り分)があります。大抵の場合研修にはオブザーブしてくることもあり、クライアントが支払う分から研修会社の取り分は多いところで半分くらいあるケースもあります。
このように、相場の根拠は非常に頼りがないもので、研修講師や研修会社の知名度のようなものに大きく左右されるなというのが私自身の実感です。「高いですね」とか言おうものなら、「他社さんもこれでお願いしておりますので」という返事が返ってきます。

必要なコストから割り出す

相場に頼らずに、ロジックで組み立てることをしてみましょう。
まずは、必要経費と実働時間の合計を原価として、そこにマージン%を載せる考え方で試算をする方法があります。

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この場合、実際に研修を行うためのコスト研修を開発するためのコストに分けて考える事ができますが、大抵の場合そのような内訳はなく、まるっと「一式」として見積もりが出てきます。それにテキストや書籍、交通費などが別請求となってそちらは請求書だけ来るという具合です。

試算
実際に必要経費と実働時間から割り出すと以下のような感じになるでしょうか。

まず開発費からいきましょう。これは、開発にかかった時間と開発者の時間割賃金の掛け算ですが、スライドなどの作成だけでなく打ち合わせに参加した時間なども含まれます。
打ち合わせ自体は、通常は1時間ぐらいのものを普通は3回ぐらい行います。1回目はこちらのニーズを講師が聞き、2回目で叩き台の提案が出てきます。そして、3回目で最終版の確認です。打ち合わせの間に資料を作るのに3時間ぐらいかけるのを2回行っているかと思います。最終版ができたら、テキストの開発やスライドの作成を行いますがこちらはそれなりに時間がかかるでしょう。研修会社の力量にもよりますが、16時間から24時間ぐらいみても良いかと思います。合計すると、25時間〜33時間

次が実施に際してかかる費用。こちらは時間単価×時間とその場で使うツールのライセンス料などがあります。ツールがないのであれば、講師の実働と単価が全てです。つまり9時から17時で途中に1時間の休憩と考えると、8時間

さて、問題は単価です。これこそが属人的で一般的な値段というのはないに等しいのですが、よく比較に出されるのがパーソナルコーチングの時間単価です。それほど有名な人でないのであれば25,000円/時間ですし、エクゼクティブ・コーチングをやるような人であれば10万〜15万とっています。

仮に、時間単価を3万とおいてみると、開発費が75万〜100万、実施が24万となります。これが研修講師に行くものとして、それに研修会社のマージンを乗せると…「相場」の価格になるというわけです。
た・だ・し、本当にそれだけの価値があるものになっているかはよくよく吟味をしなくてはならないでしょう。

なお、開発は必ずしも講師が行うとは限りません。出来合いのプログラムを研修会社がちょっとだけカスタマイズする程度であればもっと安いコストでできるはずです。例外はケーススタディを作る場合で、ケース作成だけで200万は見込んでおいた方が良いでしょう。

講師の生活費から割り出す

個人事業主の講師の場合で、その人の希望年収(あるいは月収)を想定し、それを平均登板回数で割る考え方です。

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生活がかかっているので講師業としてこのくらいの安定収入が欲しいと言う線はあるでしょう。それが分子になり、研修準備や開発に必要な時間、自分が勉強するための時間を差し引いて実際に登板可能な回数が分母になります。

試算
講師の年収をどの辺で設定するかは意見が分かれると思いますが、税込で1200万とした場合だと、次のように計算ができます。
年収1200万を12で割って、月収100万。実施前日と終わった後は準備と報告に時間をさくとして、残りの2日がネタの仕入れで、後の二日間を休みと考えると平均で週一回の登板が現実的と考えられます。(実際には連日研修したりとか、充電のためのまとまった時間というのが発生するでしょうが)
割り算をすると一回あたりの講師への支払いは、25万ということになります。

参加者が払う金額

参加者が来ないことにはワークショップや研修はできませんので、参加者がこれならば出しても良いなと考える金額企業が一人当たりにかけられる金額というのも目安となります。これに、参加者数をかけるとそれが研修講師への支払いとなります。

一個人が研修やワークショップなどの気づき学びを得るための場にいくらまで払えるかというのは、何が得られるかにもよりますし、その人のニーズがどこまで強いのかによっても変わるでしょう。
一方で、あまり低価格だと本気にならないというのも一理あります。

試算
コーチングですと時間あたり25,000円(1セッション)というのがあり得ますが、研修やワークショップはそこまでパーソナライズされていないので、例えば、終日(8時間)で20万円支払うという具合にはならないでしょう。実感としては2.5万〜5万円/日で、7万とか8万とかなると「高いな」となるのではないでしょうか。

某ビジネススクールは一科目あたりの単価(受講料)が128,000円です。これを使ってちょっと試算をしてみます。
全6回のクラスルームがあり、一回の講義は受講者同士のディスカッションを含めて3時間です。すなわち、時間あたりでは7,111円。
講師が一人だけの1クラスでの参加者の理想的な数は18名、通常の最大は24名で、限界は30名です。理想的な数18を使い、3時間の講義を7時間に拡張したと考えてみると、7,111 x 18 x 8 = 1,024,000円。これのうち半分を研修会社(ビジネススクール)が持って行くと考えると512,000円となります。

リターンから考える

さて、ここからは研修会社や講師側の都合を全く考えず、プログラムのアウトプットがどれだけ利益に貢献をもたらすか、すなわち得られる成果に見合うものを支払うという発想での試算をしてみます。

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ワークショップや研修によって得られたものを組織が活用した結果として得られる利益を算出し、その何割かを報酬として支払うという考え方で、固定費的な手付と成果に応じて支払う歩合に分けて考える事ができます。

どんな期待成果があるかによってそれによる利益は変わってきます。
例えば、セールスの研修であれば売上アップが期待成果となるのでしょうけれど、上がった金額そのものよりも客単価が上がることや、より少ない訪問回数(成約までのステップ数)で営業マン一人当たりの利益が改善される結果こそが求められる成果になるでしょう。

また、直接的に期待成果を利益にするならば、生産性がどのくらい上がったのかで測ることになるかと思います。具体的には、プロセス改善やスキルアップの効果としてより少ない労働時間や人数で同じアウトプットを出せるということになれば、それがそのまま利益としての期待成果になり得るということです。

あとは、出てきた成果に対してその何割を対価として支払うのが妥当かということになります。半分は取り過ぎでしょうから、まぁ1割とか5%とかになるのではないかと思います。あとはどのくらいの期間の成果を見るかというところも関係してきます。5年、10年ということは内容の陳腐化を考えるとあり得ず、通常1年、長くみても2年ぐらいというところではないでしょうか。

試算
これは色々な例を想定できるとは思いますが、ここでは比較的分かりやすい「生産性改善」を取り上げてみます。具体的には「生産性を高めることで残業を大幅に減らす」プロセス改善のワークショップを開催したとして、試算してみます。

仮に、10名ぐらいの経理チームがあったとして、慢性的に残業を全員が労働基準法で定められた45時間までやっていたとします。これを半分まで持って行く事ができるという期待成果を設定します。つまり一人当たりの残業時間が22.5時間になるという事です。
平均年収が700万ぐらいの経理メンバーが、年間200日働き、1日の所定労働時間が7時間だとすると…時間単価は5,000円。しかし残業というのは、時間単価が割増(2割とか3割とか)になっていますので、2割増しとして、6,000円が実際の残業における時間単価です。

削減できる時間数が22.5時間でそれが10人分なので225時間。それの1年分(12か月分)のインパクトを計算すると、なんと1620万円!!(二人雇えます!)
1割が歩合として支払われるとなると、162万円が講師への報酬となります。あとはワークショップを行う前の事前調査やワークショップの実施自体にどのくらいかかるのかを割り算すると1日当たりの支払いが計算できます。が、それはあまり意味のない計算かもしれないですね…

まとめ

こうやって見てくると、「言い値」のように感じていた相場も合理的に導いた結果からかけ離れたものではない事がわかってきます。基本は実施する前に対価を支払うだけの内容であることを十分吟味する事ですけれど、どのくらいお金がかかるものなのだという事も理解した上で、研修やワークショップを提供する側と理性的な対話ができると良いですね。

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誰にでもできそうな内容に理不尽な値段をつけてくるコンサルタントや研修会社はなかなか無くなりません。価値の見定め方や適正価格を知らない事でそういう輩に騙されたり、ダメ講師の食い物にされないようにしてもらいなと思います。
…なんてことを書いているので、コンサルタントや研修会社が私から遠ざかってしまうのかもしれないですけれど、ね。

もう一つ、お伝えしておきたいのは、安易に外部に頼らずに自分達の中にあるもの今一度見つめ直してもらいたいということです。それを明確な形式知とし組織の中で共有する、あるいは対話を通じて暗黙知を形式知化すると、それ自体が学びになります。知は外に出して初めて価値が出るし価値が広がるのです。

それが起きるのが「ワークショップ」であり、それは自分たちの力で起こす事ができて自分たちの力を解放できる手段なのではないかなと思うのです。


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