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読書のモードを切り換える

このところ、本を読むことが増えてきました。
私は長いこと読書に関する苦手感というか、妙な癖のようなものがついてしまっていたので、それを治すための荒療治をしたという話を以下のnoteで以前ご紹介させていただきました。

週一冊というノルマを課してアウトプットする癖をストイックに続けたことで、読書の基礎体力のようなものがついてきて、「読まなくては」と力まなくても肩の力を抜いて楽しみながら読めるようになったという変化のお話でした。

本を読むことに苦手感や抵抗感が低くなったので、友人から勧められたりネットのニュースやコラムで紹介されている本は、ブックマークをつけるか即買って手元に置いて、一冊ずつ読むのではなく、同時並行で読みながら読み散らかせるまでになりました。

私の中で本との接し方が変わったのは良かったなと思っています。
そして本との接し方が変わる中で、自分の中には読書のモードが少なくても3種類あるなということがわかってきました。
それぞれどういうモードなのかについてご紹介してゆきますね。

探るモード

前出のnoteの中でも触れていますけれど、私が教科書以外で単行本を自分で読み始めたのは小学校2年生の時、夏休みの課題図書からでした。
小学校以上のお子さんのいらっしゃる親であれば、ああ、なるほどと思っていただけるのではないかと思います。学校の夏休みの宿題になっていたりするもので、今でもコンクールはあると思います。

私は本が好きで課題図書を積極的に読みにいく子ではなかったのですが、読解力と文章作成能力をつけさせようと親が考えていたのでしょう。外で遊びたい私を机に貼り付けて、何冊も本と読ませられ読後感想文を書かせました。
確かに、文章作成の力はその時にかなり身についた実感はありましたが、やや無理やり感があったのと私にとってはこの読書は結構な苦行でした。

この読後感想文を書く前提の読書では、「著者が伝えたいことは何か?」を読み取ってアウトプットすることが強く求められているのですが、そんなものは本の何処にもはっきりと書かれてはいません。
それどころか、文字を一語一句追いながら、書かれていない行間から登場人物の気持ちを察したり読んだりすることが求められます。

いや、これができれば読解力どころか人の気持ちが読めるようにもなるので素晴らしいのですけれど、小学生の私にとってはこれは見えないものを手繰りで探して見つけ出すようなものであり、違っていると親や先生に叱られたり、がっかりされるので、無理ゲー以外のなにものでもありませんでした。

これが「探るモード」の読書です。
行間を読んで登場人物の気持ちを読み取ったり、書かれている文章から書かれていない情景を自分の中で補完して作り出したり…
さらに、その物語を通じて著者が伝えたい教訓や哲学のようなものを炙り出します…

加えていうならば、この探るモードでは著者に共感をすることよりも(もちろん、共感しても良いのですけれど)、何が起きているのか、それに対して主人公がどのように感じ、考えて行動をしたのかを第三者目線で客観的に冷静に分析することも求められていました。

そんな苦行を続け、小学生4年生で読後感想文全国コンクールに入賞するまでに成れたのは父親が買ってくれた「シャーロック・ホームズの冒険」の単行本シリーズのおかげでした。
まさしく、犯人が誰なのかが分からない中で(当然読み始めは書かれていませんよね)、頭の中で色々と想像して物語を膨らませてながら読むことが推理小説では必要になります。コナン・ドイルのシリーズを全て読む頃にはそれが自然にできるようになっていました。
父親には本当に感謝をしています。

学ぶモード

学生時代は物語の本よりは、科学技術など知的好奇心を埋めてくれる本や漫画ばかり読んでいましたので、探るモードを起動する機会がありませんでした。
特に漫画は文を読んで主人公の気持ちを察しなくても、絵があるので主人公の表情などでそれがはっきりと伝わってきますので、楽ができている訳です。

しかし人事に異動となったタイミングあたりで、自分の知識の引き出しを増やす必要に迫られ、別の読書モードが必要となりました。
それが「学ぶモード」です。

研修で人にものを教えるような立場になってくると、関連図書をたくさん読まなくてはならなくなります。
読む本の量が多いこともあり、短時間で「何が書かれている本なのか」の要点を端的に捉え、それを自分自身や自社のビジネスに例として説明できるようにしなくてなりません。
言葉を変えていうと、知識を得て人に伝えたり、人が活用できるように展開するような本の読み方必要になってくるのです。

この読み方が探るモードと違うのは、書かれていないことを読み取るのではなく、書かれていることだけを読み、その抽象度をさらにあげたり、具体例を想定したりしながら、書かれているコンテンツから自分なりの言葉で人に伝えられる形でのアウトプットを作り出すところにあります。

これはもう、訓練を通じてできるようになるしかないですね。
私の場合は週一冊のノルマをかけて読んでアウトプットの繰り返しをおこなってきましたし、それによって読書に対する苦手感の克服にも繋がりました。

アウトプットという意味では、本を使ったワークショップや読書会もそれに貢献してくれたと思います。
読書会に間に合わせるために自ら読む機会を作るだけでなく、アウトプットを人に聞いてもらう機会を作ることで、読書量だけでなく表現やアウトプットの場数も踏むことができました。
本を使ったワークショップについては以下のnoteでまとめさせていただいています。

中でも、ABD(Active Book Dialogue)は私のお勧めです。
自分一人で一冊読むのではなく何人かのグループを作り、章ごとに担当を決め、それぞれが担当部分だけを要約したり説明できるようにしてから、集まって共有と情報交換を行うものです。

宇田川元一さんの「他者と働く」という本でABDをやった時には、私は「はじめに」を担当し、以下のような1ページスライドを作って、オンラインで共有しました。

「他者と働く」をオンラインでADBしたときに作ったものです。

一人で何冊も本を読んでアウトプットを作り続けるのは大変ですが、仲間と一緒にやると量的な負荷は小さいですし、何よりも楽しく続けることができます。ネットワークづくりにも役に立ちますので、お勧めします。

この学ぶモードは、今日に至るまで私が最も多用しているモードだと思いますが、これがかなり強い癖になってしまっていて読めないジャンルの本が出てきていることに最近になって気づきました。

そこで必要と考えたのが、三つ目のモードです。

浸るモード

学ぶモード漬けになって読めなくなったジャンルの本というのは、私の場合は小説とか詩でした。
人から「面白いよ」と勧められても、あまり読みたいという気にならず、時間を取られるだけだなとか思ってしまっていたのですが、色々な人たちがいる世の中で人の気持ちや物語(ナラティブ)に関心が出てこないのは人事として如何なものか?と思い始めたので、まずは小説から手に取ることにしました。

物語ものは、本よりも映画や漫画で触れる方が私は多かったですし、その方が本よりも好きだったので、そもそもどんな小説を読めば良いのかでかなり詰まってしまいました。

きっかけは、神保町のブックホテルに出張で宿泊したときに、枕元の棚にあった西加奈子さんの短編小説集でした。

薄かったし短編集だったので軽い気持ちで読んでみたら、文章表現の素晴らしさや情景の鮮やかさに惹き込まれ、「これならば行けるかもしれない、長編も読んでみよう」となりました。

後述する読書会で、読書仲間に西加奈子さんでお勧めの本がないかと聞いたところ「さくら」を紹介してもらいました。本当に面白い小説で、のめり込むように読めました。

これならば行ける、他にも色々と物語もの詩も読んでみようと思っていた私は、まだその時は自分が使っていたのが「探るモード」でしかないことに気づいていませんでした。
そして、次に手に取ったこの本では、探るモードが機能しませんでした。

「さくら」で小説を読んで、いい感じの感動を味わった私は、古典的な作品や詩で感動を味わおうと期待して、この本を手に取ったのですが、、、
読んでも読んでも文章が自分の中に入ってこないことになりました。

「地の糧」は、美しく叙情的な状況描写と20代の若者の情熱的な想いが読者に対して語りかけられるような文章で書かれている本です。
探るモードで起動していた私の中で湧き上がった心の声は、
「え?何が言いたいんだ?」
「著者が伝えたいメッセージは何?」

でした。

それらをいくら探ろうとしても分からないので途中から諦めてしまい、あとは本に書かれている文字を流れるように眺めている状態が数ページ続きました。
すると、不思議なことが起こりました。

奇妙な表現に聞こえるかもしれませんが、書かれている文章が呪文のように作用して、読んでいるうちに頭の中がピンク色になっていく感覚がありました。
文章に書かれている情景が頭の中に広がり、その中で本の文章が著者の声となって響いているような感じ…
書かれている世界と一体化してゆくような気持ちよさがそこにありました。

著者が体験していること表現していることの世界に入り込んだ、あるいは著者になったような錯覚すら覚える不思議な体験でした。

これは「浸るモード」と言って良い、私にとっては新しいモードです。
書かれている世界にどっぷりとまず浸る…
そこに意味や読みなど、読み手側の意図や思考は全く要りません。

そして、探るモードと違うのはこれが第三者目線ではなく、自分自身が当事者となって主観的に感じられるレベルまで浸るところにあります。
そこまで行くと著者が伝えたいことがするする伝わってきます。
それも文字からではありません。自分の中から湧き上がるような感じで。

体験というものは言語化することで省略や一般化が起こり、体験していない者に伝わってゆく内容はかなり希釈されたものになってしまうのが常です。
しかし、浸るモードの読書は、可能な限り生々しく著者の体験を追体験することになっているとも言えるかもしれません。

いやはや、この体験ができただけでも、すごい本と出会ったなと思えています。

モードを切り換える

「探る」「学ぶ」「浸る」…三つのモードについて見てきました。
まだまだあるのかもしれませんけれど、目下のところ私が見出せたのはこの三つです。
おそらく、これまでの人生で、探るモードと学ぶモードの切り替えは本の種類によって、おそらく無意識に行ってきていたのだと思います。

今回、三つ目のモードを発見したことで、これからの私の読書の仕方に必要なことがわかってきました。
それは、読み始める前に意識的に「整える」こと。

つまり、本を手に取った時に自分がどのモードでどの本と接するかを決め、その状態に向けて自分自身の心の状態を整えてゆくということです。
もうちょっと具体的に言いましょう。

「地の糧」のような本は「結論は何?何が言いたいの?」みたいなビジネスの現場にいるような心の状態のまま読むと、せっかくの素晴らしい作品の内容が全く入ってこないことになります。
そうではなく、深呼吸したり瞑想して、頭の中をしっかりとピンク色にしてから読めば、本の世界にどっぷりと浸る心地よい体験ができるということです。

いや、読書が好きな人にとっては、こんなことは当たり前のことなのかもしれませんけれど、ね。

そして、読み始めるために整えるには、その本がどんな本であるのかをよく理解しておく必要があります。内容やあらすじではありません。
ビジネス書などであれば「はじめに」や目次、物語であれば「あとがき」や「レビュー」かもしれません。ネタバレにならない程度に、ですけれど。

そして、整えるのに最も効果があるのは、読書コミュニティへの参加だと思います。


私が、西加奈子さんの「さくら」を読んだり、ジッドの「地の糧」を読むことになったのは、書籍予約サービスのフライヤーが主催している「フライヤー・ブック・ラボ」という読書コミュニティに参加したのがきっかけになっています。

ブック・ラボでは、特定の本を取り上げて、それについて語りたい仲間たちがオンラインで集まってzoomで感想を言い合ったり、他の本を勧めあっています。

テーマごとにクラブがあったり、本に書かれていることを著者を交えて一段深く学ぶためのキャンプがあったり、対談イベントがあったりとコンテンツもコミュニティで人と繋がる機会も盛りだくさんです。
月数千円の有料会員制ですので、会員になったらできるだけたくさんのコミュニティに入り交流をすると良いと思います。積極的に参加すれば必ず得るものがあり、得るものがたくさんあれば必ず元は取れます。

ブック・ラボの中では、有志が集まる「FELLOW」というクラブがあります。
4-5人のグループが集まり、それぞれが別々の本を読んでいて、月に一回集まってその中から一冊をグループの仲間に紹介をします。
読む本は一冊完読しなくても、途中まででも構いません。紹介さえできれば。

紹介の際には、
1)どうしてその本を読もうと思ったのか
2)その本で印象に残っている箇所
3)その本を読んでみて感じた、自分にとっての「意味」

の三つを添えて紹介し、それを聞いた仲間からのコメントをもらいます。

人に伝えることで自分自身の中で整理ができるのはもちろんのこと、質問やコメント、フィードバックからの気づきも得られますし、自分の好きな本について仲間に興味を持ってもらえるのは嬉しいことです。

また、自分が読んでいる本を分類して紹介する「関心の本棚」というテンプレートも用意されています。
私自身も作って見ました。

flierブックラボのFELLOWという読書会で使っているテンプレートです

読み終わった本、読書中の本、まだ読んでいないけれど関心がある本をこの様に並べてみるだけで気づきや発見ががありますし、これを仲間と共有することで、新しい本との出会いが起こることもあるでしょう。

FELLOWは同じ仲間と4回の読書会を開くことになり、ちょうど今日、その4回目が終わったところです。
FELLOWがあったおかげで、私は今まで読まなかった本を手に取り、本の読み方について新たなモードを見出すことにつながったなと思っています。
ありがたいことです。

そろそろ次の期のFELLOWの案内が出る頃ではないかと思いますので、本に興味がある方や読書コミュニティに興味がある方はぜひ。
私も続けてみようかなと思っていますので、そこでこれを読んでくださっているあなたとお会いできたら嬉しいです。

最後まで読んでくださってありがとうございました ( ´ ▽ ` )/ コメント欄への感想、リクエスト、シェアによるサポートは大歓迎です。デザインの相談を希望される場合も遠慮なくお知らせくださいね!