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「組織開発(OD)」はどう定義できるか

人事に関する分野の中で最も広大で漠然としてて掴みどころがないのが「組織開発」という概念だと思います。
説明しろと言われても一言で語りにくく、人によっていろいろな説明の仕方をしたり異なる分野を関連づけたりしているので、聞いてる側にしてみるとややこしくてよく分からない正体不明の怪しいもの、と思い敬遠する人もしばしばいます。
もちろん、その正体不明さや懐の深さに魅力を感じる人もいますけれどね。

私も20年以上の人事の経験の中で組織開発に関係する仕事はしてきたと思っています。でも、別noteにも書かせていただいたように、人に関わる仕事で組織に影響するもの、つまり個人の能力開発以外のものを何でも組織開発と言ってしまうあたりが軽々しくて胡散臭く、大したことないことを烏滸がましくも語っているように感じられてモヤモヤしてしまい、その言葉を使うこと自体に時々嫌悪感を感じることもあります。

そんな中、組織開発についての勉強会で以下のビデオを紹介してもらいました。
それは20分弱のビデオなのですが実に秀逸な解説で私が長年モヤモヤしていたOD、すなわち組織開発の定義と価値についてスッキリと整理してくれるものでした。

話しているのはChris Worley教授。Pepperdine Graziadio Business Schoolの教授であり、米国組織効果性センター(Center of Organization Effectiveness)での応用研究やアジャイルについての本でよく知られている人のようです。
恥ずかしながら私はこのビデオを紹介してもらうまでは知りませんでした。
組織開発に関するguruとも言える人で日本で知られている人って実はそんなにいないかもしれません。Edgar Scheinが割とよく出てくる名前なのですが、彼もどちらかというとキャリア・アンカーの人ですし。

ともあれ、私はこのビデオにかなりインスパイアされ、組織開発(ここから先はODと記述しますね)とは何であるのかを語る言葉が増えた感じがあったので、ビデオの内容を日本語にして自分の理解を再度整理をして共有したいと思います。つまり今回は動画解説ですね。

ODとは何か、という問い

定義について語り始める前にWorley教授は彼の正直な気持ちを吐露しています。
今まで何回もODの定義について話をしているのに、未だに定義は何かとよく聞かれるということでした。何回も聞かれるので答えるのに嫌気がさしているような感じもあるようです。

それでも、ODについて書かれているさまざまな本や文献をあらためて見直してその中で共通で書かれていることが何であるのかを見出そうとしたのが今回の試みであるということのようです。
確かにODの定義というのは本当にいろいろなところに書かれていて全く同じものというのはそうそう出てこないですね。確かにこれはその通りで日本の本でも様々解釈で言葉を変えて語られているように私からも見えています。

ODの定義は様々な言い方をされますが本質は同じです

そしてWorley教授は、様々な定義が出てくるけれどもそれらは特定の場面で切り出して別の言葉にしているだけでそれは本質ではなく、それぞれが内側に内包している真実は基本的には皆同じことだと言います。
様々な人が語る表面的な言葉に翻弄されると混乱して「何がODなんだろう」と感じるかもしれないけれど、「OD」というのは単なる言葉であり、それは時代とともに語られ方も変わり共有されていく生きた言葉なのだからOKなのだと寛大に受け止めます。

ビデオの中で彼は「Field」という言葉をよく使っています。最近になってODについて語られる時に他の学者もよくいうようになってきましたが、日本語にすると「領域」となるでしょうか。
つまり、いろいろな考え方や概念を含めている領域であるがゆえに一言で具体的に定義できるようなものではなく、抽象的でぼやけたものになってしまうのかもしれないですね。

組織開発は応用行動科学である

Worley教授はODを定義するために4つの考え方を提示しています。
最初の一つがODは応用行動科学(Applied Behavioral Science)である、という考え方です。

人事の仕事を始めた頃に私が最も興味を持ったのが「組織行動(Organizational Behavior)」という領域でした。学生時代から心理学に興味があった私は、個人の中で起きる心理的現象に他の人がどのような影響を与えるのか、それがグループや組織の中で起きるとどうなるのかについて知りたいと思っていました。

ODは単なる行動科学ではなく応用がつきますので、何かのアクションを起こした時に何が起きるのかを注意深く観察し、そこから次に一手を打つことになります。「アクション・リサーチ」という言葉がODを語る上でよく使われるのはこの辺りにあるのだろうと思っています。

ODは応用行動科学であり、様々な学問の影響を受けて発達してきました

応用行動科学であるが故に、その科学的な背景として様々な理論を理解しておくことが強く勧められます
個人の心理学はもちろん、社会心理学、人類学、社会科学、経済学、そして場合にょっては哲学的な問いも役に立つことがあると私は思います。
おそらくこれ以外にも様々な学問であり原則が適用できるのがODという領域だと思いますし、だからこそ面白いのでしょう。

組織の中にキャパシティを建てる

定義の要素として二つ目はODの目的とも言えるものかもしれません。
Capacityという言葉が使われていますけれど、日本語にするのが難しい言葉ですね。私的には「」としておきたいところですが、一般的には「力」と訳すことが多いです。

組織の中に新たな能力のようなものを作り出すことを目的としているというわけなのですけれど、後で出てくる4つ目の要素とも関連してくると思います。すなわち、組織を機能させるために必要な能力を付加することで組織の包容力やできることの可能性を広げてゆく感じだと思います。

Capacityという言葉が使われています

Worley教授は外部から関わる実践者の考え方として、「知識やスキルをクライアントでありクライアントのシステムに移してゆく」こととそれによって「クライアント自身が自分たちで変化や改善をリードできるようにする」と言っています。

このクライアント自身でというところがとても大切なところです。
これはどちらかというとコンサルタントとして答えを渡すのではなく、答えを出すためのやり方について関わり、関わってのちは自分たちで解決できるようにしてゆくことということですね。

組織開発は変化のプロセスである

三つ目の要素はODの本質であり核心かなを私は思います。
ODは変化を作り出すプロセスに関わってゆくことだとWorley教授は説きます。
変化そのものではないということでもありますね。

ODの実践者は組織に対して介入をしてゆくことになりますが、人に対してアドバイスをするというよりはシステムに介入します。
ここでいうシステムとは、Peter Sengeが「学習する組織」で説いているシステムのことを指し、個人ではなく人と人との間にある関係性であったり力学のようなものを指しています。
平たい言葉で言うと「組織で起きていることがどんなパターンや構造を持っているか」と言うことでもあるかもしれません。

OD実践者は効果的に介入をして皆に気づきを与えて行動を変化させるために、まずはシステムを理解するところから入り、試行錯誤を繰り返しながらシステムを改善しようと介入をしてゆきます。
そのために、人と関わり、パターンを見直す問いかけを行ったり、場合によっては業務プロセスそのものにチャレンジすることもあるでしょう。
これらは全て、組織の中で起きている不具合を取り除いて効果的な活動ができるようにするためのことになります。

変化そのものではなくそれを起こすプロセスに介入するということです

そしてよく言われる「コンテントプロセス」についても言及しています。
OD実践者はプロセスに関わるだけだと言う人もいますが、Worley教授は明確に両方だと言い切っていますね。

プロセスは、どのように人同士がやり取りしているか、どのくらい皆が場にエンゲージしているか、どのくらいエンパワーされているか、人と人との間の力関係に変化を起こすようなことが挙げられており、コンテントとしては、ビジョンとミッションの作成、組織構造の変更、そして報酬システムや評価システムの改善が入っています。

私は人事がやっていること全てがOD以外の何ものでもないと考えていますけれど、ここで言っているコンテントに関する部分はまさにそのようなものになってると思います。

ODはコンテントとプロセスの両方に関わります

そしてWorley教授はChange Managementではないと明言しています。
ここで言うChange ManagementはJohn Cotter教授の言うところの「変革のマネジメント」とちょっとニュアンスが違うかもしれません。
一般的にはChange Managementはコミュニケーション戦略のように使われることが、特に外資では多いですのでそちらのことを言ってるのかなと思います。

理由が三つ書かれていますね。
一つ目のポイントがChange Managementには分析診断のプロセスがないと言うこと。ODではまず観察やデータ取得から入って組織で何が起きているのかをみようとしますけれどChange Managementはそれをしないと言うわけです。持ってゆく方向にどのように誘うかがメインということなのかなと思います。

二つ目のポイントは、ODにとっては組織の強みや弱み、あるいはシステムを理解して介入することが重要であり、それらを鑑みた関わりをするということです。
三つ目のポイントもそれを受けて、診断や分析によって組織の中でうまく行ってることとうまく行っていないことをちゃんと分かることが大切だと強調しています。

Change ManagementはODとは似て非なるものです

決まっている、ないしは決めたゴールに一直線に向かうために、診断や分析よりも何をすべきかを考えるのがChange Managementだとすると、ODは都度状況を見ながら「最善の次の一歩」を導き進んでゆくAdaptive Approachだと言うことがWorley教授が伝えたいことなのだと思います。

組織開発は組織を効果性を改善しようとしてる

最後のポイントは、ODがどんな結果をもたらそうとしているのかに関するものです。ここで出てくるOrganization Effectivenessと言う言葉もODの領域ではよく使われる言葉ですね。

組織が効果的(Effective)に活動しているとはどう言う状況でしょうか。
Effectiveというのはどちらかというとアウトプットに焦点を置いた考え方です。この場合で言うと組織が出すべき成果が最大化されるかどうか、と言うことですね。
対照的に効率的(Efficient)はどちらかというとインプットに焦点を置いていて、結果を出すための活動の無駄を省いて最少努力やコストで結果を出すことことを考えます。

効率ではなく効果、ですからある程度時間や手間がかかっても得られるものが大きいのであれは良しとするし、必要と考えると言うことなのでしょうね。

効率ではなく効果を改善するのがODです

効果的とか効果性はアウトプットと書きましたけれど、例えばの例をWorley教授もたくさん上げています。
業績、経費節減、生産性、権限委譲、関係者の満足度、顧客満足度、ESGのゴール、環境負荷、社会的正義、エコ…

様々なアウトプットが期待されます

おそらく一つだけと言うことはなく、複数のアウトプットがもたらされることが期待されているでしょうけれど、私が大切だと思うのはODを行ってゆく上で自分たちの活動がこれにつながっているのかを全員が意識してゆくことではないかと思います。

私なりに整理できたこと

ビデオはこの後、ODの価値はどこにあるのかという話に移って行きますが、私にとってはここまででも十分に大きな気づきが得られましたし、今までと少し異なる考え方ができるようになりました。

例えばこれまでの私は、組織開発の研究という本の中で「OD(組織開発)とは風呂敷のような概念である」と書かれているのを読んで、要するに何であるのかというを誤魔化しているように感じられて仕方がなかったのでした。
また、ODという言葉の傘の下に何でも入れてしまって、人に関わることであればなんでも組織開発だと言い切ってしまっている人の話を聞いてると違和感のようなものも感じていました。

でも今回、ODの本質がわかった気がします。
特にChange Managementではないのだというところが私としての気づきとしては大きかったです。デザインされた向かうべきところに向かうためのアクションを作ってそれをこなしてゆくというのはODとは違うということですね。
組織の中にいるとその方が説明しやすいので、ついそれをやってしまうのですが、するとついて行けない人が出てきたり、期限内に強引に持ってゆく形になってしまいがちだなぁと反省です。

Worley教授は、ビデオの後半でODの価値について以下のように述べています。

ODは何を大切にしているのか?

多くの価値観が書かれていますね。
プロセス系のものには、参加、民主主義、巻き込み、多様性、公平性、包摂性があり、結果系では個人の活性化、成長、Clean Instrument of Selfは自己調和とは統合という意味でしょうか。組織においては継続性や統治性、社会正義や組織学習が挙げられています。

これらの価値がODにあることに異論がある人はそれほどないのではないかとWorley教授は仰っていますけれど、改めてこれらを見て私はバランスがとても大切だなと思いました。
特にプロセスと結果と両方に意識を向けてゆくことがOD実践者の務めではないか、と。

ODすなわち組織開発が、人によって様々な捉え方をされてしまうのはその包摂さと扱う領域の広さから仕方がないことなのだとは思います。
でも、何がその本質であるのか、何を大切に置くべきなのかは人事として、そしてOD実践者として心に刻んでおきたいものだと思います。

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