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これからの教育を考えてみた

企業の中で長いこと人材開発に携わっていると、学校教育のあるべき姿のようなことについて考えることが多々出てきます。実際、人事の仕事をしている人やコンサルタントと一緒に教育について議論することもしばしばあります。

もちろん私は教育の専門家ではありません。ですが、学校教育について議論の中で意見を求められることもしばしばあります。
また、新卒採用を毎年行なっていた前職では新入社員の育成プログラムの設計と実行を数年担当していたこともあり、学校教育と社会人教育の違いや如何にして橋渡しをするのかには知恵を絞っていました。

学校教育で何をすべきかを論ずる立場にいないと思ってはいますが、社会人の入り口で何が身についているとそこから先の成長が早いのかについては考えがあります。
これから書くことは、そんな風に読んでもらえたらと思います。

変わりつつある海外の教育

ここで、コンサルタントをしている友人から、先日聞いた話をご紹介します。

シンガポールの教育事情がここ数年で大きく変わりつつあり、学校の授業では講義をしてはいけないということになってきているというのです。
さらには、暗記型の試験は禁止されてもいるのだとか。

話を聞いた時の私の印象は、まぁそうするだろうな、というところでした。
というのも、知識を詰め込むような教育は、ネットで調べればなんでもすぐに答えがもらえる現代においてはあまり意味がないですし、生成AIのようなものが出てくると答えを自分で考えるよりはプロンプトや「問い」を立てる力の方が大事になってくるだろうと兼ねてから考えてきたからです。

驚いたのはそれを国家の単位でやろうとしているというシンガポールという国家の気質のようなところでした。
でも、シンガポールという国の成り立ちを考えてみると、それは貿易港として世界のハブになることだったわけで、それを情報や教育の世界でもやろうとしているということなのかなと思いました。学校を出てからのことをちゃんと考えていて徹底できるのは、さすがだなと思います。

他にも、起業家教育をしてるけれど、その先に起業しなくて良いことになっていたりと、育成しようとしているのは0から1を作り出せる人とのことでした。
つまり、既に世の中にあることを知っていたり、引き出すことはネットで検索したり生成AIを使えば誰でもできてしまうので、それらができない言わば真の意味での創造性が勝負になってくるということなのでしょう。

学校教育と社会人教育のギャップ

冒頭で少しお伝えしたように、私は前職で新入社員教育に数年携わりました。
自分自身は学校を卒業してから10数年経ってしまっているの状態だったので、学生の感覚というのがどのようなもので、社会人になるときに一体何が必要になってくるのだろうかというのは手探り状態だったのを覚えています。

コンプライアンスは真っ先に会社の教育として行うとして、その先の社会人教育として必須になっていたのはビジネス・マナーであり、挨拶、敬礼、名刺の渡し方から、電話応対、文書の書き方…などでした。

今はどうなのでしょうね。
友人へのメールやチャット中心のコミュニケーションが当たり前になっていると、ビジネスで顧客宛の文章や社内の議事録のようなものは、それを学校教育の中で行なっていないと訓練をしないといけないのではないかとは思いますが。
それ以前に、スマートフォン中心になっているとパソコンの使い方から教えないといけないような話も聞いたことがあります。

でも、このような教育はとてもテクニカルなモノなので、知識をして知っており、一度使えば次からは問題なくできるようになるものなのかなと思います。
授業の中でもパソコンは使うでしょうし、友人ではなく教師とのやり取りやプレゼンテーションで文章力も鍛えられるかもしれませんね。

実際に教育担当をしていて頭を使い、工夫が必要となったのはテクニカル・スキルではなく社会人としての姿勢のようなことだったと思います。
それは「自律性」です。

それは「誰かから教わる」から「自分で考える」や「自発的に行動する」への転換のことなのですが、これは学校では教えていないのではないか、と当時は思いました。
まぁ、知識を学ぶが学校なので仕方がないことなのかなとある程度割り切ってはいましたけれど、できない人はずっと出来ないままで、下手をすると社会人を終えること(定年まで)もあるので危機感もありました。

この自律性がないとはどういうことなのかを端的に表現すると、
「何したらいいか指示ください」
とか
「どうしたらいいか教えてください」
とかばっかりの状態、となります。

何が目的なのか、何が求められているのかを自分自身で理解し、目的を叶えるために自分が何をしないといけないのかを考え、試行錯誤を繰り返しながら最終的には成功することで、自律性はその人の中に定着をしてゆきますし、そこに達成感も伴うので仕事にエンゲージしてゆくことができるようになると私は考えています。

ただ、これがそんなに簡単ではなく、どこかで気持ちが折れてしまい思考放棄をするようになってしまうこともあるので、社会人教育、特に入社3年目までの研修を設計する際には工夫を凝らす必要がありました。

苦労しながらも、どこかで自分が学校教育と社会人教育のギャップを埋めているのだという妙な使命感を感じていたように思います。

これからの教育に期待したいこと

今は、企業の中で新入社員ではないベテラン社員もリスキリングとかいう話になってきています。
正直なところ、ロボットや生成AIの登場で社会人教育も何を行なってゆくべきなのかは大きく揺らいでいて、私にもどうなってゆくのかは分かりません。
きっと、ここ数年できっと大きな変化が起きてゆくでしょう。

もはやこれは学校教育をしっかりやってくれないと社会人教育に時間がかかるとかという話ではなくなってきているとは思います。
それでも、社会人になってから必須になってくることであり、学生のうちに身につけておいた方が良いものが三つあると私は思います。

一つは、やはり自律性だと思います。
親元を離れて、学校を卒業して、一人で社会の中で生きてゆくとなったときに、常に誰かが答えをくれるとは限りません。
いや、誰かが答えをくれるとしても、少なくとも自分の意見は必要でしょう。

先行きが分からない、正解のない課題は、これからの世の中でますます増えてゆくと思います。そんな中でも自信を持って生きてゆくためにも、自分で考えて行動してその結果に納得をする(自責で考える)ことは、企業で働くどうこうではなく自分の人生を主導してゆくためにも必要なのではないでしょうか。

もう一つは、一つ目と矛盾するようではありますけれど、「人とつながる」力です。
自分一人だけでいくら頑張っても達成できないことはいくつもあると思いますし、より大きなことをしようと思ったら他者に力を貸してもらうことは必然と思います。

言い方を変えるとこれはコミュニケーション能力でもあります。
私は学校教育、特に義務教育で行なっている知識のインプットは、人とコミュニケーションをとってゆく上で必要となる共通言語共通の知識基盤を得るために行なっているものだと考えています。だから勿論とっても重要であり、欠かすことはできません。

ただ、単に知識をインプットしててもダメだと思います。自分が獲得した知識を使ってそれを今度は外に向かって発信する、相手に対してコミュニケーションをとってゆくことの方が大事なはずです。
暗記してそれを吐き出すような学校の試験よりも、学んだことを使って自分なりの創作をしたり社会に対して発信する方が余程価値があります。今ですと、ブログやYouTubeなどもありますので、発信してその反応を見ることもできるでしょう。
そうやってゆくことで、「自律した自分」が確かなものになってゆくのではないでしょうか。

最後の一つは、専門性です。
これは高校以降の教育ででの話になってくると私は考えています。

一つ目と二つ目だけでは、みんな同じような人間になってしまいます。
三つ目の自分ならではの専門性が、他者と異なる自分を創ることにつながると私は思っています。

専門性という言葉よりも、個性と言っても良いかもしれません。
ただ、その言葉を使わないのは「ちょっと変わった奴」になろうということではなく、自分が世の中に提供できる価値としてユニークなものをその人の中に培うという意味があるからです。

簡単に言ってますけれど、これそんなに簡単に創れるものではないので、学生のようにじっくり学べるときに、じっくりと培ってゆくことが大切であり、これは学校だけでなく親の使命かも知れないなと思います。


知識を持っていることが価値であり、他者との差別化要因になっていた時代は終わり、もはや「知識」は誰でも手に入れることができる時代になりました。
生成AIが出てきたことで、考えてそれらを組み合わせる必要すらなくなってきているのかもしれません。

私自身も高校生の娘を持つ一人の親として、娘と母親である妻に伝えていることが一つだけあります。それは、
成績よりも、良い友達と良い思い出をできるだけたくさん作ること。

後で振り返ったときに「あの時のあれがあったから今の自分がある」と思えるようなことは、年齢を経てくるといくつも出てきます。不思議なことに。
そのときには意味などわかっていなかったけれど、やっておいてよかった、と。

述べてきた「自律」「人とつながる」「専門性」も、良い友達と良い思い出を作るべく自分なりに色々考えて生きてきたから得られたのではなかったかな、と。

学校が知識を学ぶところから、生き方をも学ぶところに変わってゆく…
そうなると良いなとほんとうに思います。

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