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英語は度胸だ、と思うようになった話

外資系で働いてると英語の勉強とかすごくしたんじゃないですか?
よくそんなことを聞かれます。
しかし、私は英会話学校に行ったり、教材を使ってみっちりと長い期間積み重ねるような英語の学習というのはほとんどしていません
では、最初から話せたかというと決してそんなことはなく、社会人になった時の英語のテストは惨憺たるもので、「サバイバルレベルの下」という英語で挨拶ぐらいしかできない状態でした。

そこから日常の中で英語を積極的に使ってゆくうちに次第に上達し、英語で外国人相手にトレーニングをしたり、日本人が自分しかいない会議のファシリテーションをしたりできるようにまでなりました。

でも、日常の中でもっと英語を使おう、となるきっかけはありました。
それがなければ、私は未だに英語への苦手感から、積極的に話そうとかはしなかったかもしれません。
そして、その経験から私自身は「英語は度胸」だと考えています。

そう考えるに至ったお話、させてください。

奪い合い

私がマーケティングをしていたときに担当していた製品は輸入製品で、製造元がアメリカにありました。接着剤や化学薬品といった化学製品なので、米国の化学工場で製造し精製してモノをドラム缶にポリ缶に詰めて日本に発送し、日本で受け入れ検査をして出荷をする…
そんな物流で顧客に製品供給をしていました。

私が営業から異動してきてその製品の担当になって2年目に、製品への需要が世界的に高まってしまい供給が追いつかなくなりました。
化学工場というのは製造のキャパシティを簡単には増やすことができません。歩留まりを上げることはできても抜本的に製造量を上げようとすると反応窯をひとつ増やすような莫大な投資が必要となるため、需要がいきなり上がってしまうとそれに追いつく供給体制を敷くためには数年かかってしまうのです。

するとどうなるでしょう。全世界で限られた商品の奪い合いが始まります。
売り上げを上げるという組織目標に妥協はないですし、工業製品なのでこちらが供給できないとお客様の製造ラインが停止してしまい、最悪は損害賠償が発生します。
競合製品があればまだ良かったのですが、独占状態だったので供給不安を起こすこと自体が産業自体に影響するかもしれない危機となるため、各国が自分たちの国にだけは製品が安定供給されるようにあの手この手を使ってきます。

一方で製造側は、作れる量が限られており、増やすことができないことはわかっていますから、それぞれが10欲しいと言ってきて製造元に注文を入れても8しか出荷しない(2は納期遅れ)といった対応をドラスティックにやってきます。
この状況で自分たちの国に製品を優先的に供給をしてもらうには、正当な理由と交渉力が必要となります。

ですので、この状況におけるマーケティング担当としての私の役割も、日本のビジネスを維持するために製造元と交渉し、優先的に製品を安定供給してもらうことになりました。
もちろん、英語が必須になります。

プレッシャー

米国からの製品の入荷が遅れ、国内の製品在庫が切れると営業からの電話が鳴り止みません。
「在庫ないんだけれど、いつ出荷できるの?」
「困るんだよねぇ、お客さん怒り出しちゃっててさ」
「この間、明後日出荷って言ってなかったっけ?どういうこと?」
前述しましたように営業からきて日が浅い私は、営業マンがどんな状況に置かれているのかがよくわかるので、この電話の対応は精神的にかなり苦しみました。

マーケティングの私が営業からの電話対応に忙殺されているように、一方の製造元側も各国からの問い合わせや製造計画の変更や出荷の優先順位の変更に追われ、生産予定や出荷予定をこちらから問い合わせても、返事がなかったり、明確な答えがない状況が続いていました。
そうなると、私から営業に伝えられる情報がなく、かといって根拠のない楽観的な予想をするわけにもいかず、謝るしかできない状況だったのです。

そんなある日、営業部長が私のデスクに乗り込んできて、
「おい、どうなってんるんだ?このままだとお客さんのラインが止まるぞ!」
と真っ赤な顔をしながら詰め寄ってきました。
「いや、メールで毎日連絡してるんですけれど、返事がないんですよ。もう一回催促のメールを打ちますんで」
これは決して嘘ではなく、当時英語が不得意な私が辿々しい文章で何度もメールを製造元のマネジャーに送っていました。が、返事は4-5回に1回しかきませんでした。

部長はため息をついてからこう言いました。
「お前、ちゃんと向こうと話してるのか?」
「え…?」
「電話とかで製造元と話して直談判とかしてるのか?そこまでやってからモノを言えよ」

脂汗が背中を滑り降りる感覚がありました。
それを自分がやるのか…?英語もろくに話せないのに?
しかし、部長の言うことももっともで、自分ができる努力をやり切っていないのはその通りだと思いました。
なんとかしなくちゃ。

直談判

製造元で製造計画を作ったり供給の優先順位を決めているマネジャーはマイクという名のアメリカ人で押しの強さ頑固さで知られた人でした。
マイクは若い頃にアメフトのクオーターバックをやっていたとかで、ガタイもよく声も大きく、リーダーシップに優れていて彼のいうことであれば「仕方がない」と誰でもいうことを聞く、聞かざるを得ないような人でした。
逆に言えば、そんな人だからこそ、供給不安の危機的な状況を切り盛りできるわけですけれど。

もう、そんな人だと聞いただけで、話が通じるとは到底思えませんでした
ましてやその人と何度もこれまでメールで連絡して、4−5回に一回しか返事ももらえていなかったので、絶望的でした。

加えて、製造元のアメリカとの時差の問題があり、日本の夜中の11時が先方の朝9時という状況なので、夜遅くの誰もいないオフィスから(当時は在宅勤務とかないので)国際電話で話をする必要がありました。
メールをしても返事がない相手ですから、いきなり直電を向こうの始業のタイミングで席にいる時にかけるしかない、そう思いました。

そして、英語です。
もう、理路整然とこちらの主張の正当性を訴えるために、どんな順番で何を話すのかをまず日本語で書き、それを辞書を必死になってひきながら英語にし、それをネイティブのところに持って行って口語文としておかしくないかをチェックしてもらい、修正してまたチェックしてもらうのを何度も繰り返し、数時間かけてやっと準備を整えました。

そして、誰もいない照明も疎なオフィスで時間が来るまで、バクバクする心臓の音を聞きながらその時間を待ちました。

心の底から出た言葉

心臓が飛び出しそうになりながら夜11時に受話器を上げコールをしました。
幸いなことにマイクは席にいたようでした。

用意しておいた挨拶文を読み上げて、今日はお願いがあって電話した。忙しいところを誠に申し訳ないが、、
あたりまで喋ったところで、、

「お、日本のやつだな。分かってるよ。あのな、こちらは全世界の需要計画をもらっていて、それを元に製造量を公平に割り振って出荷しているんだ。だから、日本への割り当ては決まっていて、今月はもう出荷はない。何度もしつこくメールしてきても無駄なんだよ。電話してきても同じだ。いいな、分かったな、切るぞ!」

あまりに大声で早口で一方的に捲し立てられたので、もっと色々なことを言っていたのでしょうけれど、かろうじてキャッチできたのは「無駄だ、切るぞ」でした。

やばい、ここで電話を切られたら、それで終わるっ!
そしたらここまでの努力は全部水の泡じゃないかっ!

そう思った私は、彼がまさに受話器を下ろそうとしているその最中に自分にこんなに大声が出せるのかと思うほどの大きさの声で言いました。
プ リ ぃー ズ! リッ スン!! (Please, Listen!)

電話口の向こうがシーンとなりました。
まだ電話を切っていない、チャンスだ! 
そう思った私は、用意していた原稿を一気に読み上げました。そこにはこんなことが書かれていました。

あなたが、全世界の需要計画を集め、それをみながら皆に均等に製品が行き届くように公正な割り振りをしていることは理解している。
並々ならぬ手間の努力だと思う。
しかし、各国が出してくる需要計画が本当に正しいモノなのかどうかを一度見てもらえないだろうか。
例えば、需要計画通りに各国は発注をしてきているか?発注してその国の在庫になっているとしてそこから先顧客に出荷されているのか?
中国では、大量に需要計画を出しているけれど実際の発注がないという話を聞いた。他の国では国内に不良在庫があるところもあるとも言われている。
日本は、需要計画通りに発注をしている。そして、その通りに実際に顧客に売っている。国内に在庫はほとんどないが、なんとかやりくりして売り上げを出している。
もし、他の国が日本と同じように、需要計画と発注と顧客への供給が一致しているのであれば私は貴方の供給計画を尊重するし、それに従ってビジネスを行う。
ぜひ、一度あなた自身で調べてみてもらいたい。必要ならば貴方のボスと直接話をさせてもらって良い。
日本へのサポート、本当に感謝してる。

原稿の読み上げは何度も練習していたので、つっかえることなく一気に読み上げることができました。
そして、言い返されるのが嫌だったので、
 さんキュゥ
と最後に言ってがちゃんと電話を切りました。

通じただろうか?
でもいうべき事は言った…
これで役割を果たした、これでダメなら上司に頼もう…

伝えるという意志と少しの度胸

その後二日間、何もありませんでした。
やはりダメだったのかな…それとも言い方が失礼で怒らせてしまったかな…
とか考えてました。

三日目の朝に、マイクからメールが来ていました。
一行目には単刀直入に
「お前のいう通りだった」
とありました。
そして、その後には、日本に優先出荷するオーダー(日本から製造元である米国への発注)のリストが書かれており、もし、これ以外にもあるのであれば今週中に知らせろとありました。
最後に、「教えてくれたことを感謝する」と。

ヘナヘナと腰が砕けたような状態に私はなりました。
良かったぁ〜、これで責任が果たせたー、
もう営業部長に詰め寄られないですむー

その後もマイクは日本には優先的に製品を都合してくれました。需要計画と出荷があっていないと文句を言ってくることもありましたけれど、基本的には信頼してくれているのだなと伝わって来ましたし、こちらもわざわざマニュアルで対応をしてくれていることに対して感謝の言葉を絶やさないようにしてました。
マイクはその後供給が落ち着いて頃に日本にもやってきたので、その際には私が辿々しい英語で彼をもてなし、一緒に飲みに行ったりもしたのでした。


マイクへの直談判という経験から私が分かったことが二つありました。
ひとつは、英語が話せるかどうかは問題ではなく、なんとしても伝えようという意志があるどうかの方が大事であること。
もうひとつは、自分の英語が通じるかどうかという自信のなさや不安感を乗り越えるのは「こちらの言い分はおかしくないから通じるはず」という度胸があるかどうかであること。

下書きしたり、リハーサルしたり、準備をきちんとしてその通りに話をすることで通じることもありますけれど、コミュニケーションというものはやり取りの中から生まれるものですし、用意されたものを読み上げるよりもその時に自分の肚から出る言葉の方が相手に通じるものです。

不器用でも辿々しくても、これが伝えたいのだということを自分の知ってる言葉を駆使して、何度でも熱心に伝えようとするからこそ、伝わります。
英語を話すことに抵抗を感じる人は、まずここがスタートだと思います。何がなんでも伝えたいと思うこと。綺麗に伝えようとか思わないこと。できるだけシンプルに単刀直入に、慣れない表現など使わず、子供っぽく聞こえようが気にしないこと。

英語圏では特に「自分の意見を持っていること」が重要視されます
そして、言ってることがその人の意見として本気なのかは、相手から「意志」を感じられるかどうかにかかっているのではないでしょうか。

ほんのちょっとの度胸を持って、自分の言いたいこと、自分の言葉で伝えてみましょう。そこから伝わるコミュニケーションが始まります。
そう、これって英語だけの話じゃないですよね、本当は。

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