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レインボーリール東京・傑作LGBT映画5選。

今年で28回目を迎える、日本のLGBT夏の風物詩「レインボーリール東京〜東京国際レズビアン&ゲイ映画祭」。いよいよ7月5日(金)より開幕します。

毎年、この映画祭でしか見ることのできない作品に出会うのが楽しみで期間中は会場に通いつめる僕にとっても、毎年欠かすことのできないとても大切な、そして大好きなイベントです。

今年のラインナップは先日公開したエントリ「世界のLGBT映画の秀作を楽しむ映画祭が今年も東京で開催!」を、そして近年「レインボーリール東京」で上映された傑作ゲイ映画はレインボーリール東京で出会えた一期一会の珠玉のゲイ映画たち。をご参照いただくとして、ここでは2015年〜2018年に上映されたプログラムの中から、僕が選んだLGBT映画5本をご紹介します。

様々な国籍や肌の色のトランス女性、レズビアン、ゲイが物語の中心となる、まさに多様性を実感できる心に残る作品たちを選びました。

それでは、昨年2018年から遡ってご紹介していきます。

レインボーリール東京 公式サイト


◾︎2018年

ヴィーナス Venus

性別越境し始めたトランス女性
目の前に息子だと名乗る少年が現れたら!?

■物語

舞台はカナダのとある街。
建築デザイン会社に務めるインド系の青年シドは、インド人女性と結婚して家族を作れと、保守的な母親から圧力をかけられています。母の夢は早く孫の顔を拝むこと。そんな彼女の夢は、ひょんなことから実現します。
本来の自分として生きることを選び、トランス女性となったシドが14歳の息子ラルフを連れて帰ってきたのです。
母親と義父と暮らすラルフは自分の生物学的父親を探し当て、シドの家に訪ねてきました。そこにトランス女性として生きるシドがいたことに最初は驚いたものの、ラルフはトランスジェンダーの親を持つことはクールだと思う世代。母親と義父には秘密のまま、生物学的父親であるトランス女性のシドと親子関係を深めていたのです。
やっと覚悟を決めてトランスし始めた途端の息子登場に戸惑うシド。義父とのギクシャクした関係に悩み、シドに懐いていくラルフ。息子のカミングアウトと孫の登場に驚くシドの両親。ラルフとの距離の取り方に悩むシドの恋人ダニエル。
登場人物たち全員が混乱しながらも、それぞれが人生に大切なものを選び取っていく。

■解説

伝統的な家族観を持つ両親と多様性を求めるシドとの対立は、純粋なラルフの出現によってどのように変化していくのか。皮肉屋のシドと自由奔放なラルフの掛け合いが笑いを誘う心温まるコメディ。

■注目点

2018年の「レインボーリール東京」では「ゴッズ・オウン・カントリー」という超目玉作品があり、あまり注目されなかった今作ですが、これが実に興味深い作品でした。
主役のシドを演じたDebargo Sanyalは映画やTVシリーズに引っ張りだこの名バイプレイヤー。本当の自分を隠して男として生きてきたシドが、勇気を振り絞ってトランスしていく過程の戸惑い、初々しさからパス度が上がっていく様を巧みに演じます。
シドの息子ラルフを表情豊かに演じたJamie Mayersとの掛け合いが楽しくて、上映中は客席から何度も笑い声が上がっていました。
基本はコメディなので、トランス女性と家族・社会という重くなりがちなテーマを軽妙な語り口で描いていて、最後まで楽しく見ることができます。
この「楽しい」というのはとても重要。差別されて悔しい、悲しい、という被害者視点の作品は、観客に辛い現実を体験する覚悟が必要とされますが、この作品にはそんな覚悟は一切不要。笑い楽しみつつも、トランス女性や多民族社会の現実を垣間見ることができます。

『ヴィーナス』
英題:Venus
監督:エイシャ・マージャラ
2017|カナダ|95分|英語

◾︎2017年

フィニッシュ・ホールド Signature Move

パキスタン系vsメキシコ系の家族文化が激突!
女子プロレスをモチーフにした女性2人の恋の行方は?

■物語

シカゴに住むパキスタン系アメリカ人の女性弁護士ザイナブは、アメリカ移住以来厳格な保守思想を持つようになった母と2人暮らし。娘の結婚を願う母には、レズビアンであることをカミングアウトできずにいた。
弁護士業務のメインは移⺠問題で、多忙な毎日を過ごしているザイナブは、ある日、現金で払えない代わりにプロレスジムでのトレーニング代をただにするからという元女子プロレスラーからの依頼を受ける。それ以降は、仕事と母からのストレスを、プロレス(ルチャ・リブレ)ジムでのトレーニングで解消する日々。
ある日、バーでザイナブはメキシコ系の書店主アルマと知り合い、テキーラ・ショットを何回も酌み交わした勢いで肉体関係を結んでしますう。実はアルマの母は元女子プロレスラーで…。

■解説

男前でカッコイイ主人公ザイナブを演じるFawzia Mirzaはパキスタン系カナダ人。大学卒業後にロースクールで資格を取得、弁護士として2年働いたのちに俳優に転身。レズビアンであり、ムスリムであり、有色人種であり、という北米大陸におけるマイノリティであるという自身のアイデンティティに向き合い、俳優、脚本家、アクティビストとして活動。本作は、Fawzia Mirzaが製作・脚本・主演として作り上げた初の主演映画でもある。

■注目点

かつて「同性愛者である」ということだけをテーマにして映画が成立した時代がありました。自分のセクシュアリティをひた隠しにして生きるマイノリティの苦悩は、それが珍しい時代は映画のテーマに最適だったからです。
しかし、多様性が当たり前になりつつある現代では、状況が異なってきました。この「フィニッシュ・ホールド」もまた、「レズビアンである」というだけでは物語が成立しない時代ならではのレズビアン映画です。
確かに物語の中心には、レズビアンの恋愛と家族へのカミングアウトが据えられてはいるのですが、それ以上に作品の重心が置かれているのは、どちらも米国ではマイノリティであるパキスタン系とメキシコ系の家族文化の違いや、北米大陸(アメリカとメキシコ)に於ける女子プロレス(ルチャ・リブレ)文化ネタです。
主演のFawzia Mirza始め、ほとんど女性キャラしか登場しませんが、いずれも演技が達者で魅力的な役者揃いなので、セクシュアリティ関係なく楽しめる作品です。実際、レズビアン映画には居心地の悪さを感じることも少なくない僕でも、ものすごく楽しみました。
パキスタン、メキシコ、ルチャリブレ、と様々な文化を楽しめる興味深い作品でした。

「フィニッシュ・ホールド」
英題:Signature Move
監督:ジェニファー・リーダー
2017|アメリカ|82分|英語


たぶん明日 Baka Bukas

昔からの同性の親友に恋をしたら反則?
願いが叶う喜びと、生じる問題の狭間の苦悩は甘くて苦い。

■物語

舞台はマニラ。20代の映像クリエイターであるアレックスは、家族や周囲に対してレズビアンであることをオープンにしている。元カノとヨリを戻そうともがいたり、TV局にレズビアンを主役にした番組企画をプレゼンしては厳しい批評に晒されたりと、今ひとつパッとしない毎日。そんな日々でもアレックスを元気にさせるのが古くからの親友で、女優としてブレイク中のジェス。実は子供のことからジェスに対して恋心を抱いているアレックスは、彼女にはレズビアンだということをひた隠しにしていた。しかし、ひょんなことからその事実がジェスにバレてしまい…。

■解説

レズビアンであるサマンサ・リーが製作・脚本も務めた初監督作品。2016年秋にフィリピンで初上映。同年12月に開催されたインディ映画の祭典 Cinema One Original Film Festival では、主演女優賞、観客賞などを受賞。

■注目点

マニラを舞台にした直球のレズビアン・ドラマ、と思いきや、「同性愛者がストレートの親友に恋をし続けていたら」という感情に焦点が当たっていて、これはレズビアンだろうがゲイだろうがバイセクシュアルだろうが、セクシュアリティ関係なく感情移入できるテーマで興味深い作品でした。
主演のJasmine Curtis-Smith は、クリエイターという裏方の役なのでナチュラルで地味目なメイクですが、それゆえ美形な顔が際立っていて、その美しさと可愛さに見惚れてしまいました。
アレックスの友人のスタイリストとカメラマンのゲイ2人の使い方が、作品にとって上質のスパイスになっていて好感度が高い作品です。

「たぶん明日」
英題:Maybe Tomorrow
原題:Baka Bukas
監督:サマンサ・リー
2016|フィリピン|83分|英語、フィリピノ語、タガログ語
協力:大阪アジアン映画祭


キキ ー夜明けはまだ遠くー kiki

アメリカはLGBTにとって住みやすい国なのか?
有色人種の当事者たちの本音を探るドキュメンタリー

■物語

舞台は、現代のニューヨーク。2015年の全米で同性婚容認の最高裁判断が降った時期を挟む4年間、ブルックリンで暮らす有色人種のセクシュアル・マイノリティの若者に焦点を当てたドキュメンタリー。
様々な理由で家を出た10代の当事者たちを保護するために、いくつもの『ホーム』と呼ばれるコミュニティがある。そのホームのリーダーも、同じ立場の20代前半の当事者たち。
そんなホームが集まり、ヴォーグ・ダンスの腕を競う「キキ(ボールルーム)」と呼ばれるイベントが開催されている。ホームとキキに関わる当事者たちが語る率直な話から、セクシュアル・マイノリティの中でもマイノリティである有色人種の当事者が置かれた過酷な現実が明らかになっていく。

■解説

4 年間にわたって撮影され た本作は、圧巻のダンス映像に加え、数多くのインタビューからアンダーグラウンドのカルチャーに迫 る。2016 年ベルリン国際映画祭でテディ賞最優秀ドキュメンタリー賞を受賞し、世界の映画祭で高く 評価された。
このドキュメンタリーで描かれている『ホーム』と『キキ(ボールルーム)』は、2019年に劇場公開された映画「サタデーナイト・チャーチ-夢を歌う場所-」、FOXチャンネルで放送中のドラマシリーズ「POSE」でも描かれている。
※「POSE」はHuluでも配信中。

■注目点

巨大なプライド・パレードが開催されたり、同性婚が容認されたり、ナショナル・クライアントのセクシュアル・マイノリティに対する対応など、LGBTの人権問題では先進国であると思われているアメリカ合衆国。しかし、それは都会だけのことであり、保守的な地方ではセクシュアル・マイノリティに対する過酷な差別がある現実を知る人は少なくないでしょう。
しかし、LGBTのコミュニティが成立している大都会ニューヨークでも、厳然たる格差は存在します。それは、白人と有色人種という違いです。
高学歴・高収入の白人や一部の有色人種が構成するコミュニティがいわば「シャイニー系」であるならば、そことは全く異なる貧困環境に置かれた有色人種の当事者たちもいます。
若くして家を追い出された貧困の有色人種の当事者たちの多くは、ストリート・キッズとして体を売って日銭を稼ぎドラッグに手を染めていく負のスパイラルに陥ってしまいます。この映画で描かれる貧困層の当事者が抱える問題は、50年前のニューヨークを舞台にした映画「ストーンウォール」で描かれた状況と変わっていません。
ストーンウォールの叛乱以降、アメリカの当事者たちが獲得してきた権利とはほど遠いところに置かれている現代の若者たちの実態を知る意味でも、これは見るに値する作品です。
彼らが置かれた状況の理不尽さを的確に表したと思われる、黒人トランス女性の言葉が印象に残りました。
「(同性婚が全米で容認されたのは)白人の当事者が望んだことだからね」

『キキ ―夜明けはまだ遠く―』
【英題】Kiki
監督:サラ・ジョルディノ
2016|スウェーデン、アメリカ|94 分|英語


◾︎2015年

ボーイ・ミーツ・ガール Boy Meets Girl

魅力的なトランス女性をめぐる恋のさや当て
前向きな力に満ちた傑作ロマンチック・コメディ

◾︎物語

アメリカ南部の田舎街が舞台。
セクシャルマイノリティには生きづらいことこの上ないガッチガチの保守な町に暮らすリッキーは、ニョーヨークのデザイン学校への進学を目指すトランス女性。父と弟と3人暮らし。
ある日リッキーは、バイト先のコーヒーショップで出会った美女フランチェスカに恋をして付き合い始めます。その結果、密かにリッキーに恋していた幼なじみ男子で自動車修理工・ロビー君のヤキモキする日々が始まります。
さらにフランチェスカの婚約者は、過去にリッキーと肉体関係があった高校時代の同級生、アメフト部のヒーローだった米軍兵士で…。

◾︎解説

賢こくキュートで魅力的なトランス女性を中心に、男も女も彼女に惹きつけられていくロマンチック・コメディ。主役のリッキーを演じるMichelle Hendleyは、ユーチューバーとしても有名な実際のトランス女性。作中でもユーチューバーとして、ポジティブなメッセージを発信し続ける。各国の映画祭を笑いと感動で包み込んだ傑作。

◾︎注目点

この年の映画祭初日、シネマート新宿で見たのがこの作品。事前情報も調べずにノーマークだったのですが、あまりにも愛らしい作品で、完全に心を奪われてしまいました。
キレイで強くて賢い女子たちと、マッチョで気が弱くて可愛い男子たちが織りなす恋のさや当て、完璧なラブコメディ。登場人物たちも、物語も、台詞のひとつひとつも、どれもがなんともキュートで抱きしめたくなる映画でした。
 頭の回転が早く、物事の核心を突き、かつちょっと意地悪なリッキーの言葉に前半はさんざん笑わされるのですが、後半になると心のナイーブな部分に突き刺ささってくる珠玉の名台詞が連発。その台詞の数々は、セクシャリティ関係なく、人生の宝物にしたくなるような輝きを放っています。
脚本の力はもちろんのこと、これを的確に翻訳した担当者の力量も相当なものだとうかがえます。
この作品に出会えただけでも、2015年の映画祭に行って良かったと思える愛しき傑作。個人的にはガテン系と軍人という南部男子2人が可愛くて、眼福でもありました。

「ボーイ・ミーツ・ガール」
英題:Boy Meets Girl
監督:エリック・シェーファー
2014|アメリカ|95 min|英語


あなたの感性に触れそうな作品はありましたか?
映画祭独特の熱気の中で作品を楽しむのは、とても楽しい経験です。ぜひ、今年の「レインボーリール東京」で、その雰囲気を味わってください。



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