穴を掘る、穴を掘らせる
これは、東京大学教育学部で開講された授業「デリシャス・ムーブメント」の最終課題として制作した作品です。
大人になっても遊びたい、できれば人前で
年齢を重ねるにつれて人前で遊ぶということがなくなりました。一人でゲームはするけど、人前じゃしないし、まして身体を動かす遊びはめっきりやらなくなりました。
それは自分を人前にさらさずに大事にしまっておく術を身につけたからなんですが、一方で身体を動かしたい、できるなら、人前で。そういう欲求がずっとある。
この、誰かに自分の存在感を見せつけたいという欲求がポジティブに自分を押し出す面もあれば、制御できずに空回りすることもあります。
見せつけることそのものを目的にするとどうしても下品な感じになっちゃうんですよね。
このプロジェクトは一面的には自分の身体を遊べる身体へとリハビリするためのものですが、一方で自分にとってより重要なのは、身体の存在感を見せつけたいという欲求をきちんと制御し、目立ちたがり屋の空回りで終わらない一線を見つけることです。
穴を掘る、穴を掘らせる
このプロジェクトは、砂場で穴を掘ることから始まります。
授業で「常軌を逸する」という課題が出されたことがありました。この課題で苦渋を味わったことからこのプロジェクトは始まっているのですが、ここではひとまず割愛します。
慣例的に子供の遊び場として使用されている砂場を大人が利用することで、常軌を逸しよう。
1日目 @三角公園
とにかく穴を掘ろうと思って外に出た。プロジェクトの輪郭は明確に決まっていなかったけど、砂に触ることに期待があった。
ひとまず常軌を逸した身体を公共空間に置くことを目標にして、近所の公園に向かった。
三角公園というその公園は、もともと子供の少ない場所なのだが、この日は雨が降っていたので子供は5人しかいなかった。むしろ5人もいたというべき。
そのうち2人はスイッチで遊んでいた。なぜ公園で??
この日は、穴は掘れども掘らせることは叶わなかった。ただ、穴を掘ることを通じて多くのことを感じることができた。
手の甲でさすようにして掘ると掘りやすい。土を掘り返すとかえって均したくなる。土の柔らかさ、重さ。
瞑想行為として砂場で穴を掘ってみることを一度お勧めする。
2日目 @三角公園
同じく三角公園。子供は少ないが、続けることで「いつも穴掘ってる人」になれるかと思い、実践。
1日だけ穴を掘った人のことは理解不能だが、「いつも掘っている人」という属性がつけば理解可能になると思った。優等生が悪さをすると怒られるが、常習的な素行不良者はもはや怒られない、ヤンキー理論である。
この日は暗くなるまで砂を掘り続けた。
孤独な2時間だった。
反省
全然子供と触れ合えてない!穴を掘ること自体は楽しく学びに満ち溢れているけど、このままだといつまで経ってもただ「変な人が穴を掘ってる」で終わってしまう…!存在感を見せつけたいってのが悪い方向に行ってない?
2日間一人で穴と向き合ったため、早く他人に穴を掘らせたい、人と話したいという気持ちが強くなっていた。
永子さんに相談し、パブリックパフォーマンスの方法を聞いた。以下は、永子さんがパフォーマンスを成立させているらしい要素。
①永子さんの他に主催者がいる=オーガナイズされている
②永子さん自身が有名
③観客の中には記者や永子さんの知り合いがいる
④パフォーマンスの撮影者がいる
つまり、ひとりじゃないということが大事!ひとりでやっているとただの狂人だけど、協力者がいれば意図がある風に見える。人も安心して寄ってこれる。
協力者を探そう。穴を掘りたい人とかあんまいないだろうから、「授業の課題で穴掘るんだけど撮影してくれない?」と頼んで回ろう。
と思ってラインを開いたら、1件の通知が入っていた。
渡りに舟である。ツイッターで穴を掘っている姿を発信していたのだが、それを見て連絡をくれたそうだ。思いがけず協力者を得た。
さらに、3日目は広くて子供がたくさんいる公園を選び、絶対に子供に触れ合うぞ。という気持ちを強くして眠りについた。
3日目 @錦糸公園
オーガナイズされている感じを出すために設計図も書いていった。
作業場の近くにおいておいた。
協力者に「なんで連絡くれたの?」と聞くと、「あなたと同様に土を掘ることに意義を見出したから」と言う。
ちなみにこのあと、さまざまな人から砂場で遊ぶの楽しそうという意見をもらった。みんな土に飢えている。
子供の多い、13:00〜16:00の間に作業した。
初めは閑散としていたが、徐々に子供が増えていき、遠巻きに私たちの姿を見ているのを感じる。
そしてついに、その時がきた。
トシ兄弟である!熱心に掘るのを手伝ってくれ、来週も同じ時間にいる?と聞かれた。また会えるといいなあ!
りゅうせい君。
その草の名前知ってる?ネコジャラシっていうんだぜ。ネコにあげたら喜ぶよ、と教えてあげた。ばあばがネコを飼ってるらしく持ち帰っていった。
この日は全部で5人の子供たちと共同作業することができた。最終的に出来上がったのはこんな穴だ。
自分らでは不満足(広くしすぎて深さが出なかった)だったのだが、子供からすれば「こんな大きい穴は見たことない!」とのこと。やってよかったと思った。
僕らが去った後に穴に飛び込む子供たち。僕らには窪みにしか見えないが、彼らにとってはれっきとした穴なんだろう。ジャンプして飛び込んでいた。
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