いたばしさとし文学賞2020
この賞は一年に読んだものから、何となく面白かったものを選んで顕彰するものです。自分の単なる遊びであり、何の権威も有り難みもなく、誰にも何の利益もないと言う世間的にはどうでも良いものですが、まぁ自分が楽しいから良いのです。 それでは、受賞作品の発表です。
長編部門① 林譲治「星系出雲の兵站(全編)」
異星人との不幸な紛争に際し、軍人たちが英雄志向を排除して紛争の拡大防止と異星人理解に取り組むストーリーが魅力的。宇宙船や超兵器などガジェットも面白い。異星人の文化や背景にも厚みがあってファーストコンタクトSFとしても秀逸でした。
長編部門② 菅浩江「博物館惑星(全編)」
美を縦軸に人間模様を横軸に、物語をタペストリーのように編み込んだ。SF的なガジェットを上手く盛り込み、美と美に生きる人間の営みを見事に描ききった。あえて悪の描写を抑え、善意の縺れが人々の誠意によって解きほぐされていく様子が美しい。
短編部門 オキシタケヒコ「平林くんと魚の末裔」
資本主義的な貸借関係によって異星人同士が拘束し合う宇宙文明のなかで、武士的な孤高のたたずまいを見せる平林くんの造形が見事すぎる。SF的な異星人の在り方について私の思い込みを最高に気持ちよくぶち壊してくれた。痛快であった。
マンガ部門 YASHIMA「アンドロイド・タイプ・ワン」
人間とロボットの間の信頼と葛藤を描く。ロボットとの共生に違和感を感じない主人公と暴力的に排除する人々の間で、主人公のロボット自身が独自の思索をはじめ、成長していく。鉄腕アトム「ベイリーの惨劇」と同じ構造だが、より良い物語だった。
映像作品部門 「オルタード・カーボン」
身体を自由に交換できる未来世界。はず主人公も見た目ではもはや何人かわからない。どうせ新しい体で生き返ることがわかっているので、殺す方も殺される方も身体をないがしろにしすぎで、安易かつ残酷にバタバタと死んでいく醜悪さをたっぷりと味わえた。
キャラ部門① ニジイロタマムシ(菅浩江「歓喜の歌」)
キャクターと言うか人工的に調整された人造昆虫。単位生殖による急激な繁殖力と羽の光沢を利用したコミュニケーション力をもつ。主人公が虫嫌いで毛嫌いするのだが、虫なので善意も悪意もなく、人の思惑に関わらず健気に生きているところが良い。
キャラ部門② 烏丸司令官(林譲治「星系出雲の兵站〜遠征」)
群像として英雄を排除したはずの「星系出雲シリーズ」だったが、異星人とのファーストコンタクトという難しい課題の前には、やはり英雄的な人物を配置せざるを得なかった。戦争と言う異常事態の中で、異星人との対話を深めている文化英雄。
キャラ部門③ 平林くん(オキシタケヒコ「平林くんと魚の末裔」)
イソギンチャクを進化させたような造形と、孤高の武士のような求道的な生き方を重ねるとは、オキシタケヒコは天才。読後、数日、子供のころにかえったように平林くんの絵を落書きしまくってました。
一般部門 小野一光「震災風俗嬢」
まさか自分の足元でこういうことになってるとは思っていなかった。同じ街の同じ空気をすって生きている仲間たちのことなのに、自分はまるでわかっていなかった。小野一光氏には感謝しか無い。同じ町でこのような生き方を選んだ全ての人々の幸福を願っている。
人物部門 たちはらとうや
中国SFを紹介するにあたっての大きな功績に。 おかげで三体や、中華SFの短編をたくさん読めるようになりました。短編が良いですね。 実は私の初SF読書は遅叔昌「鼻のない象」でした。
企業部門 株式会社及富
南部鉄器の従来のイメージを覆すゴジラ鉄瓶などを開発したオタクっぷり
再読賞 小林泰三「海を見る人(短編集)」 ことし急逝した小林泰三のSF短編集。ハードSFであったり、ノスタルジィを感じさせるものだったり、パズルのような面白さであったり、多種多様なアイデアと世界観を駆使して読者を楽しませてくれた。
ごめんなさい賞① 荒巻義雄「もはや宇宙は迷宮の鏡のように」
読み始めて一年以上。何度も中断しては最初から読み返すことの繰り返し。もうすぐ終わりそうなんですが、とうとう12月31日になってしまい、賞にあげることが出来ませんでした。
ごめんなさい賞② 劉慈欣「三体」
ぜったい面白いし、賞が当然なんですが、Ⅱを読み終わっⅢの予告が。Ⅲを読んでから全体で賞の大賞とします。
備考
なお、菅浩江さんの「博物館惑星」はシリーズ全編を大賞とした受賞です。
しかーーーーし!この博物館惑星!まだまだいける! 作者の菅さんがもしシリーズを続けることがあったら、今回の受賞は喜んで… 剥奪させていただきます!!!
(^_^) そんなわけでSF読者のみなさん、菅さんを応援しよう。
ふう。やっと終わった。 11月12月になってから急に良い短編集が続々出て、嬉しい悲鳴をあげてました。 そしたら「宇宙は迷宮…」がまた今年も読み終わらなかった。 悪い癖で何冊も平行して読むため、このようなことが毎年起きてしまいます。 間をあけると最初から読まなきゃいけなくなるしねぇ。
残念ながら今年はリンゴの出来がわるく、昨年受賞者のみなさんには地元農業高校の最高に美味いリンゴをお贈りしましたが、今年は無しです。 りんごは私がひとりでいただきました。
受賞者のみなさん、おめでとうございます! 来年も楽しませてください。
他のみなさんの作品も面白いものだらけで、すばらしい読書体験をさせていただきました。
それではみなさん良い年の瀬をお迎えください。 いたばしさとし文学賞、また来年〜!
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