通信障害や災害時でもスマホが使える事業者間ローミングとは
今年(2022年)7月2日から4日にかけて61時間25分にわたり、KDDIの回線に過去最大規模の通信障害が発生しました。
この通信障害により、3,043万人以上の利用者に音声通話やデータ通信が繋がらないなどの影響が出たほか、交通機関、運送事業者、銀行のATM、気象庁のアメダスなどのシステムに障害が発生し、スマホからの緊急通報ができなくなるなど幅広い分野に影響が及びました。
この事件をきっかけに、事業者間ローミングの導入について検討することになり、今年9月28日に総務省で非常時における事業者間ローミング等に関する検討会の第1回会合が開催されました。
今回は、この事業者間ローミングについて解説します。
1.ローミングの現状
ローミングとは、ユーザーが契約している通信事業者のサービス提供範囲外でも、その事業者が提携している他の事業者の通信設備を利用して通信を行うことができるようにするサービスです。
現在は、海外で提携先の現地事業者の通信設備を利用して通信を行うことができる国際ローミングが普及しており、国内で契約したスマホをそのまま外国に持ち込んで利用することができます。
日本でも、NTTドコモ、KDDI、ソフトバンク、楽天モバイルの携帯電話事業者4グループすべてが、それぞれ海外の通信事業者と提携して、国際ローミングを提供しています。
また、国内の携帯電話事業者間でも、楽天モバイルがKDDIの通信設備を利用したローミングを行っています。
このローミングは、2019年に携帯電話事業に参入した楽天モバイルがまだ全国に十分な基地局を整備できていないため、同社の電波が届きにくい地域でKDDIの基地局などを利用して通信サービスを提供するというもので、楽天モバイルの基地局整備が進むまでの暫定的なサービスです。
現在は、東京都の大部分など、楽天モバイルの基地局整備が進んだ地域から順に、このローミングサービスの終了が進んでいます。
2.スマホの繋がる仕組み
ローミングの仕組みについて解説する前に、通常のスマホがどのように通信サービスを行っているのかについて簡単に説明します。
スマホで音声通話やデータ通信を利用するためには、最初にAttachやRegistrationという動作が必要です。
(1) Attach
現在の携帯電話サービス(4G/LTE)では、スマホの電源を入れると、最初に携帯電話ネットワークを使うための許可を取るAttach(位置登録)という動作を行います。この動作によって、そのスマホがどの基地局と通信しているのかを管理します。
Attachを行う際には、スマホに組み込まれているSIMカードとHSSの加入者情報データベース(加入者DB)を使います。
SIMカード(Subscriber Identity Module Card)は、端末に挿入して使うICチップで、最近では組込み型のeSIMもあります。
HSS(Home Subscriber Server)は、スマホがどの基地局と繋がっているのかを判定し、スマホに携帯電話ネットワークの利用を許可するかどうかを判定する加入者DBが搭載されたネットワーク上のサーバーです。
SIMカードには1枚1枚に異なるIDが書き込まれて、一種の鍵となっており、この鍵をHSSの加入者DBで照合します。
SIMカードを不正に入手しても、そのカードに書き込まれたIDが加入者DBに登録されていない場合は、携帯電話ネットワークを使用することができません。
正しく契約していれば、正しい鍵を使って携帯電話ネットワークの鍵を開け、通信サービスを利用できるようになるという仕組みです。
(2) Registration
携帯電話ネットワークの利用が許可されれば、データ通信は使用できるようになりますが、音声通話を利用するには、さらに、電話網を使うための許可を取るRegistration(登録)という動作を行います。
この動作によって、音声通話サービス(VoLTE)に関する設備がスマホが通話できる状態にあるかどうかを管理できるようになります。
Registrationの場合も、電話網の利用を許可してよいかどうかをHSSの加入者DBに問い合わせ、許可するかどうかはHSSで判定します。
電話網の利用が許可されると、スマホから電話をかけたり、スマホで電話を受けたりすることができる待ち受け状態になります。
3.国際ローミングの仕組み
国際ローミングの具体的な仕組みは以下の図のようになっています。
ユーザーが日本で契約したスマホを海外に持ち出すと、現地で提携先の携帯電話事業者の基地局や通信ネットワークを利用することになります。
提携先の通信ネットワークと日本国内の契約事業者の通信ネットワークは繋がっており、海外に持ち出したスマホの利用許可の要求は、これらの通信ネットワークを通じて、日本国内のHSSに伝えられます。
そして、スマホのSIMカードの情報をHSSの加入者DBと照合して、最終的に利用を許可するかどうかを判定します。
音声通話の場合も、日本側にあるVoLTE設備を経由して日本の電話網に繋がる仕組みになっています。海外の基地局に繋がっていながら、日本の電話番号を使えるのは、このためです。
海外の通信設備に繋がっていても、日本から持ち出したスマホのSIMカードを認証して利用許可を出しているのは日本のHSSです。
現在、国際ローミングで採用されているのは、S8HR(S8 Home Routed)方式で、処理の多くを日本国内の契約事業者の通信ネットワーク(ホーム網)側で行っています。
具体的には、海外現地事業者の通信ネットワーク側のS-GW(Serving Gateway)を通った後、S8と呼ばれるリンクを通して、ホーム網側のパケット交換機であるP-GW(Packet data network Gateway)に接続します。それ以降の処理は主にホーム網側で行うため、海外現地事業者側は機能追加を最小限にできるという特徴があります。
4.事業者間ローミングの検討
(1) 緊急通報に占める携帯電話からの通報割合
2020年中に110番通報は約840万件あり、その内、携帯電話等からの通報が約625万件(74.4%)を占めています。
また、2020年中の119番通報は約793万件で、携帯電話からの通報が約395万件(49.7%)、118番通報(海上の事件事故)は1,906件で、携帯電話からの通報が1,311件(68.8%)となっています。
緊急通報全体の約6割が携帯電話からの発信となっており、通信障害や自然災害によって一部の携帯電話設備が使えなくなった場合でも、通報できる手段を用意しておく必要性が高まっています。
(2) 海外における事業者間ローミングの導入例
① 米国
2012年10月に、ハリケーン・サンディにより携帯電話基地局が被災した際に、AT&TとT-Mobileの間で緊急ローミングを実施しました。
その後、2022年7月に、FCC(連邦通信委員会)は、ハリケーンや山火事、長時間停電などの災害時に携帯電話事業者間でのローミングを義務化するMandatory Disaster Response Initiative(MDRI)という制度を創設しました。
また、米国では、スマホからSIM無し緊急通報の発信が可能となっています。
② 韓国
SKテレコム、KT、LGの3社が災害時の国内ローミングのシステムを構築する事業者間協定を2019年4月に締結し、運用を開始しています。
警報が発令された場合、1時間以内にローミングが開始され、100kbpsまでのデータ通信が可能です。当初は、ローミングのための回線が約100万回線分、追加で用意されました。
③ ウクライナ
ロシアが侵攻中のウクライナでは、有事でも携帯電話サービスを維持するために、携帯電話事業者3社が2022年3月から全土で無料ローミングを可能にしました。
(3) 事業者間ローミングの3つの方式
今年7月のKDDIの大規模通信障害をきっかけとして、非常時における事業者間ローミングの導入について検討が始まりました。
9月28日に開催された総務省の検討会では、以下の3つの方式が提案されています。
緊急通報の発信のみのローミング
一般の音声通話・データ通信の発着信も含めたローミング
SIM無し緊急通報
なお、3.のSIM無し緊急通報は、救済事業者の通信ネットワークだけで通信が完結し、被災事業者の通信ネットワークを使用しないため、厳密にはローミングではありません。
検討会では、NTTドコモ、ソフトバンク、楽天モバイルの3社が比較的容易に実施できる1.の緊急通報の発信のみのローミングの導入を優先して検討すべきだと主張し、大規模通信障害の当事者のKDDIは、2.の一般の音声通話・データ通信の発着信も含めたローミングの検討も必要だと主張しました。
また、検討会の委員からは、一般の音声通話・データ通信の発着信も含めたローミングを目指すべきだとの意見が多数出されました。
それぞれの方式のメリット、デメリットについて、次章から解説していきます。
また、非常時の対応としては、事業者間ローミング以外にも、デュアルeSIMを利用した予備回線の保有や、Wi-Fi、衛星携帯電話、公衆電話などを利用する方法があります。
5.緊急通報の発信のみのローミング
緊急通報の発信のみのローミングを行う場合の具体的な仕組みは以下の図のようになっています。
(1) 緊急通報に繋がる仕組み
この方式は、被災事業者と契約したスマホからの緊急通報の発信のみを可能にします。
スマホから110番通報などの緊急通報の電話を掛けると、付近にあるローミング先の救済事業者の基地局と電波が繋がります。なお、ローミングを行うために、事前にスマホの設定を変更する必要があります。
救済事業者の通信ネットワークと被災事業者の通信ネットワークは繋がっており、被災事業者と契約したスマホからの携帯電話ネットワークや電話網の利用許可の要求は、これらの通信ネットワークを通じて、被災事業者のHSSに伝えられます。
そして、スマホのSIMカードの情報をHSSの加入者DBと照合して、利用を許可するかどうかを判定します。
利用が許可されると、救済事業者の通信ネットワークを通じて、警察、消防などの緊急応答機関(PSAP:Public Safety Answering Point)に接続されます。この時、スマホの位置情報や発信者番号がPSAPに通知されます。
したがって、PSAPからすぐにコールバックすることはできませんが、被災事業者の通信設備が復旧すれば、コールバックが可能になります。
この場合、技術的には、現在の国際ローミングで採用されているS8HR方式とは異なるLBO(Local Break Out)方式を採用しています。
LBO方式では、パケット交換機のP-GW以降も救済事業者側の設備を利用するため、被災事業者側の負荷がS8HR方式の場合よりも軽く、被災事業者側の通信設備がダメージを受けている場合でも対応しやすいという特徴があります。ただし、携帯電話ネットワークや電話網の利用許可を取得するために被災事業者のHSSに問い合わせることは必要であり、HSSを含めた被災事業者のコアネットワークに障害が発生している場合は、やはり利用できません。
(2) メリット
PSAPにスマホの位置情報などが伝わるため、救援などに駆けつけるときに役立ちます。
発信者番号も通知されるので、被災事業者の通信設備が復旧すれば、通報者にコールバックすることも可能になります。
緊急通報のみしか受け付けないため、一般の通話・通信を受け入れる場合のような大規模な通信設備の増強は必要ありません。
(3) デメリット
被災事業者側のHSSの加入者DBと照合して利用許可を出す仕組みなので、今年7月のKDDIの通信障害のような大規模通信障害や広域の自然災害など、HSSを含む被災事業者のコアネットワークに障害が発生するような場合は利用できません。言い換えれば、小規模で地域限定的な障害にしか対応できません。
被災事業者の通信設備が復旧するまで通報者にコールバックすることができません。
緊急通報以外の一般の音声通話やデータ通信は救済できません。
利用時にユーザー側でスマホの設定を変更する必要があり、すぐに対応できない人も多いのではないかと懸念されています。
(4) 評価
他の方式より対応が比較的容易であることから、多くの携帯電話事業者がこの方式を推していますが、救済できるサービスの範囲や条件は限定的です。スマホの通信サービスは、今や生活に欠かせない基本的なインフラとなっており、KDDIの通信障害では、緊急通報以外にも幅広い分野に影響が出ていることから、一般の通話や通信も救済して欲しいというニーズは高いです。
また、今後、警察や消防などの緊急応答機関の意見を検討会でヒアリングすることになっているようですが、コールバックができないことなどについて、実際に緊急対応に当たる彼らがどのように考えるのかが重要なポイントです。
他の方式と比べると比較的短期間で対応できることから、先ずこの方式の導入を検討して、その後、時間をかけて、他の方式の導入についても検討していく可能性が高いと思われます。
6.一般の音声通話・データ通信も含めたローミング
一般の音声通話・データ通信も含めたローミングを行う場合の具体的な仕組みは以下の図のようになっています。
(1) 緊急通報や一般の通信に繋がる仕組み
この方式では、緊急通報の発信がPSAPに接続されるまでの仕組みは5.の緊急通報の発信のみのローミングと同じです。
しかし、緊急通報ではない一般の通信として、PSAPからすぐに通報者にコールバックすることが可能です。
その場合は、PSAPが通知を受けた通報者の発信者番号に電話すると、被災事業者の通信ネットワークを通じて救済事業者の通信ネットワークにローミングで繋がり、救済事業者の基地局から通報者のスマホを呼び出すことができます。
また、この方式では、被災事業者と契約したスマホから、緊急通報だけでなく、一般の音声通話やデータ通信の発着信も利用可能となります。
この仕組みは、現在の国際ローミングと同じS8HR方式を採用し、音声通話の場合は、救済事業者の基地局から被災事業者側のVoLTE設備を経由して電話網に繋がる仕組みになっており、自分の電話番号をそのまま使うことができます。
(2) メリット
被災事業者の通信設備が復旧していなくても、PSAPからすぐに通報者にコールバックすることができます。
緊急通報だけでなく、一般の音声通話やデータ通信の発着信も利用可能となります。
(3) デメリット
一般の音声通話やデータ通信の発着信も利用できることから、被災事業者側のユーザーの利用が殺到し、救済事業者側の回線の帯域を圧迫して繋がりにくくなるなど、共倒れになるおそれがあります。
この方式を採用する場合は、被災事業者側のユーザーの利用を受け入れるために、大規模な通信設備の増強が必要となります。
被災事業者側のHSSの加入者DBと照合したり、被災事業者側のVoLTE設備を利用したりする仕組みなので、5.の方式と同様に被災事業者のコアネットワークに障害が発生するような場合は利用できません。
利用時にユーザー側でスマホの設定を変更する必要があります。
(4) 評価
携帯電話事業者の多くは、被災事業者側のユーザーの利用が殺到して共倒れになることを恐れており、この方式を導入することには慎重です。特に自然災害などの場合は、救済事業者側の設備も被害を受けており、通信量も大幅に増大するため、対応は難しいと考えているようです。
しかし、緊急通報のコールバックが可能で、一般の通話や通信も救済できるなどメリットは大きく、是非、導入を検討してもらいたいものです。
導入する場合は、ローミングを利用できる条件・範囲や事業者間のコスト負担など調整すべき課題が沢山あります。通信速度を制限し、ローミング用の回線を追加的に用意した韓国の事業者間ローミング導入事例が参考になると思います。
この方式も5.の方式と同様に、被災事業者のコアネットワークに障害が発生するような大規模障害や広域の自然災害には対応できません。こうした場合は、SIM無し緊急通報などの他の手段を検討することになります。
7.SIM無し緊急通報
携帯電話の国際標準機関3GPPの定める規格では、SIMが無くても緊急通報の発信は可能となっており、AttachやRegistrationの手続き無しに緊急通報を行うことができます。
しかし、日本では現在、SIM無しでの緊急通報は法令上できないようになっており、これをできるようにするかどうかも、今回の検討の対象です。
SIM無し緊急通報を行う場合の具体的な仕組みは以下の図のようになっています。
(1) 緊急通報に繋がる仕組み
この方式は、緊急通報の発信のみを可能とするものであり、ユーザーが契約している事業者の基地局が故障していても、付近の他の事業者の基地局を通じて緊急通報をすることができます。
AttachもRegistrationも不要なので、被災事業者のHSSの加入者DBに問い合わせる必要はなく、大規模障害などで被災事業者のコアネットワークに障害が発生していても、緊急通報をすることが可能です。
図のように、被災事業者の通信ネットワークを一切使わずに、救済事業者の電話網のみを使って直接通話する仕組みになっています。
(2) メリット
大規模通信障害や広域の自然災害など、被災事業者のコアネットワークに障害が発生していても、緊急通報の発信が可能です。
(3) デメリット
PSAPにスマホの位置情報などが伝わらないため、救援に駆けつけるときなどに困ります。
発信者番号も通知されないため、被災事業者の通信設備が復旧しても、コールバックの連絡ができません。
緊急通報以外の一般の音声通話やデータ通信は救済できません。
PSAP側が通報者の情報を取れないため、いたずら通報や複数の未登録端末を利用したDOS攻撃(サービス妨害攻撃)に利用される懸念があります。
(4) 法令上の課題
日本では、総務省の事業用電気通信設備規則によって、緊急通報を扱うには、以下の3つの機能が必要とされています。
基地局の設置場所を管轄する警察や消防等の緊急応答機関に接続する機能
携帯電話の電話番号や位置情報を送る機能
回線保留、コールバック又はこれに準ずる機能
現在、スマホから緊急通報した場合は、通報位置に応じて適切な警察署や消防署などに繋がる仕組みとなっています。
また、緊急通報を行うと、緊急通報指令台に契約者の氏名、住所、電話番号が自動的に通知され、自動的にスマホのGPSが起動して現在位置を通知し、受理機関の地図上で場所を確認できるようになっています。
通報者がまともに話せない場合でも、これらの情報を基に現場に急行したり、コールバックして詳細を聞き返すことができます。特に、救急や消防では、このコールバックが重視されているそうです。
SIM無し緊急通報の場合は、こうした機能を実現できないため、現状では法令違反となり、日本ではSIM無し緊急通報は実施できません。
必要があれば法令改正は可能だと思いますが、現場で緊急対応する人達が困らないような仕組みにする必要があります。
(5) 評価
コールバックもできず、通報者の情報も取れないため、PSAP側としては受け入れづらいと思われます。しかし、5.や6.のローミング方式では、大規模障害や広域の自然災害で被災事業者のコアネットワークに障害が発生した場合には対応できないため、補完的な手段として検討しておく必要があると思います。
例えば、被災事業者のコアネットワークに障害が発生した場合に限定して、SIM無し緊急通報を認めることはできないでしょうか。
なお、いたずらや不正利用を抑止するために、フィンランドでは、スマホの製造番号をPSAP側に通知しています。SIM無し緊急通報を導入する場合は、こうした不正利用抑止策も考えておく必要があります。
8.デュアルeSIMの活用
(1) 非常時におけるデュアルeSIMの活用
総務省の検討会の中で、NTTドコモやソフトバンクが事業者間ローミング以外の有望な手段として、デュアルeSIMの活用を挙げていました。
eSIMはカード型ではなく、端末に直接埋め込まれた内蔵型のSIMのことで、これを利用すれば、オンライン手続きのみで通信回線の契約を行うことができます。
また、1台のスマホで2種類の回線を使用することができるデュアルeSIMを活用することによって、普段使用している事業者の回線が使用できなくなった場合に、他事業者の回線を予備回線として使うことができます。
ソフトバンクは、このデュアルeSIMを活用して、通信障害発生などの際に、MVNO(他の事業者から通信回線を借りて通信サービスを提供する通信事業者、格安スマホなどと呼ばれています。)形式で他の事業者の回線に切り替える仕組みを用意することを提案しています。
また、通信事業者の方で新たに対応しなくても、個人で予備回線を契約しておけば、普段使用している回線に障害が発生しても、自分で予備回線に切り替えてスマホを使用することが可能です。
(2) メリットとデメリット
メリットとしては、緊急通報の発信だけではなく、緊急通報のコールバックや一般の通話・通信の発着信の利用も可能になることが挙げられます。
既存のサービスを利用するので、設備の改修などの事業者の負担が少ないことから、事業者が積極的に推しています。
デメリットとしては、まだ対応できる端末が少ないことが挙げられます。iPhoneの場合は、iPhone13以降しかデュアルeSIMに対応していません。
また、ユーザーが自分で切替先事業者と契約する必要があるため、ユーザーが追加費用を負担することになる可能性があります。
いずれにせよ、すべてのスマホから可能な手段ではないため、補完的な手段として進めていくことになるでしょう。
9.まとめ
事業者間ローミングの3つの方式については、携帯電話事業者の間でコンセンサスができていることから、先ずは、緊急通報の発信のみのローミングを中心に検討が進んでいくでしょう。
ただし、コールバックができないなどの点について、警察や消防などの緊急応答機関との間でどのように話をつけていくのかが今後の課題です。
また、スマホの通信サービスは、今や生活に欠かせない基本的なインフラであり、事業用も含めて幅広い分野で利用されていることから、緊急通報以外に一般の通話・通信も救済して欲しいというニーズは無視できません。
したがって、一般の音声通話・データ通信も含めたローミングも今後検討されていくと思いますが、事業者側は、被災事業者のユーザーが殺到して共倒れになることを恐れており、サービス範囲や使用できる帯域を絞った対応も必要になると考えられます。例えば、メールやSNSなど低速のデータ通信だけ認めるという方法もあります。
また、ローミングを利用できる条件・範囲や事業者間のコスト負担など調整すべき課題が多いため、検討には時間がかかるでしょう。
さらに、以上のような事業者間ローミングだけでは、大規模障害や広域の自然災害には対応できないため、こうした場合に限定して、SIM無し緊急通報についても検討していく必要があります。
また、これと並行して、デュアルeSIMの活用も、補完的な措置として検討を進めていく価値があると思います。
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