クマとうずら

クマは表情に乏しい男だ。にこにこしている五十がらみのおっさんの方がレアではあると思うが、若い頃から基本的にむっとした顔付きだった。私の方も負けていないので似たもの同士である。基本、感情にムラはなく、アイスを食うか、ケーキを食うかと聞いた時だけは嬉しそうな雰囲気を醸し出す。

そんなクマは動物に対しても淡泊だ。私が飼っていたバニさんにも可愛がるような素振りは見せなかったし、うちで黒柴を飼い始めてからも自分の犬だからと特別に可愛がりはしなかった。こういうスタンスの人間は柴犬を飼うのに向いているようで、クマと犬の距離感はなかなかいい。

だから、うずらが庭に居着いた頃、毎日、様子を見ているというのが意外だった。猫は嫌いじゃないという話も初耳だった。更に「会社には時々猫が落ちている。拾っていく奴もいる」という話も初めて聞いた。(クマの会社の敷地はかなり広いのだ)クマはこちらから聞かない限り、自ら話をすることがないので、今でも驚かされることがある。

うずらを家に入れて初めての週末だったと思う。いそいそ出かけていったクマが何やら買って帰って来た。それはなんと。
猫用のおもちゃだったのだ。

(うずらfirst おもちゃ)

ふわふわの毛がついた棒付きのおもちゃでうずらと遊ぶクマ。私はおもちゃを買って来て猫と遊ぶということを思いつかなかったので、衝撃だった。

もしかして、クマは私より猫好きなのか…?(あんな顔で)

シュールな光景を目の当たりにし、動揺しつつも、クマとうずらが楽しくやっていけそうならよかったと安堵した。猫は二十年とか生きるというし、万が一私に何かあったら、クマにはうずらと暮らして貰わねばならない。

そうしてうずらと遊んでいたクマが、ある日、真剣な顔で知らせに来た。

「大変だ!うずらが何か飲み込んだみたいだ!」
「飲み込んだ?」

犬でも誤食は非常に危険だが、猫は身体が小さいだけにもっと深刻だ。当時、うずらは体重が三キロほどしかなかった。慌てて何を食べたのか聞くと、クマは分からないと首を振る。

「見てたんじゃないの?」
「そういうわけじゃないが…おかしいんだ。たぶん、モーターみたいなものだと思うんだが…」
「モーター?」

ええと、モーターというと、何かを動かす動力源みたいな?そんなもの、うちにあったっけ。首を捻る私にクマは真面目な顔のまま、続ける。

「うずらからゴロゴロって音が聞こえるんだ」
「……」
「何か飲み込んだとしか考えられない」
「……」

ええと。

猫からゴロゴロが音がする→モーターを飲み込んだに違いない→大変だ!

という流れで私のところまで来たらしいのだが。冗談を言ってる気配はなく、とにかく真剣に心配している様子のクマに
「何言ってんの?バカじゃないの。猫だよ?猫がごろごろ言うなんて当たり前じゃん。慣れたんだよ。ご機嫌なんだよ。そもそも猫が飲み込めるサイズのモーターなんかうちにあるわけないし、猫だってそんなもの口にしないよ」
とは言えず。
違うと思うよと軽く否定するだけにしておいたのだった。

その後、クマは猫からゴロゴロ音がする理由をネットなどで知ったらしく、黒歴史を封印しようと必死になっていた。

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