うずら誕生

住まいがあるのが地方都市近郊部であるせいか、コンビニと歯医者と美容院と獣医は歩けば当たるほどある。歩いて行ける範囲にも獣医があるのだが当てにならない。
どれくらい当てにならないかというと、二代目バニを連れて行っていたのだが、大型犬が扱えず、皮膚病で耳がただれてしまった際、治療するのに全身麻酔をすると言い出したのだ。
でも、先生、耳の治療って一度じゃ終わりませんよね?
こりゃ駄目だと思い、友人Tがお世話になっていたツンデレ先生(愛称)のところに連れて行くことになった。紆余曲折あり、うちの黒柴も今はツンデレ先生に診て貰っている。

ツンデレ先生は腕はいいがうちから車で一時間かかる。犬の通院だけでもなかなか大変なのに、猫も連れて行くとなるとかなりの負担だ。他にないかな…しかも、猫の扱いに慣れていそうなところ…と探してみたら、保護猫の活動に協力している先生がいる獣医が車で二十分くらいのところに見つかった。

よし、初めて行くけど、ここに行ってみよう。玄関の隅で暮らしているノラミをどうやってキャリーケースに入れようかと悩んでいる時、私は重大な問題に気がついた。

待って。獣医に行くと問診票書かなきゃいけないじゃない?あれって名前書かなきゃいけないよね?
名前って…ノラミ?

(ノラミっぽい顔…だろうか…)

獣医さんでノラミちゃ~んと呼ばれるわけか?いやいや。いっそ「ノラ」って名前にしとく?ノラ・ジョーンズとか平野ノラちゃんみたいに。でも、元が野良猫なんだから、ブラック過ぎるような。
慌ててクマに相談。

「ねえ、ちょっとノラミってあんまりじゃない?」
「俺がつけた名前なのに?」
「だって野良猫の女の子だったからノラミって、獣医さんもどうかと思うよ、きっと」
「そうか?」
「うちで飼うんだからもう野良猫じゃないんだし、いつまでもノラミじゃ可哀想だよ」
「可愛いだろ。ノラミ」

あかん。話にならない。
ここは私のネーミングセンスで…と頭を捻ってみたが、出て来ない。そもそも名前をつけるのは苦手で、これまでにダブってる名前も死ぬほどある私だ。
うーん。ノラミで定着していたから、三文字がいいな。猫さんでよくある名前…あずき、きなこ、よもぎ、あんこ…いかん、和菓子連想ゲームになってる…。
ちらりとノラミを見る。この模様…どこかで見た…しましま…いや、これは…。

「よし、うずらだ!」
「…美味しそうだね」

クマの感想はスルーし、私はキャリーケースを抱えて獣医へ車を走らせた。ようやく出して貰えた外の匂いを嗅いで、ニャーニャー鳴くノラミ…もとい、うずらに「もうすぐ着くよー」と声をかけながら獣医に到着。
庭に来ていた猫を保護したので診て貰えないかと受付で話すと、分かる範囲で問診票を書いて欲しいと渡された。もちろん、名前には「うずら」と記入。

初めての獣医さんは、院長先生の他に数名の先生がいて診察を行っているようだった。患獣さんを連れた飼い主さんも多くて、猫さんは皆、似たようなキャリーバッグに入っている。少し待って、診察室へ入ると、保護したばかりの猫ということで院長先生が対応してくれた。

そして、腕に無数の傷がある猫百戦錬磨っぽい院長先生の診察で、驚愕の事実が発覚した。

「そうだねー。歯の具合からみると、半年から七ヶ月ってところかな」
「!?」

足の短い小柄な猫ではなく、子猫だったのか!!お前!!

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