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夢遊病

アイドル活動をすることになった。アイドル好きを名乗ってきたけど、不本意なことだった。だって私、あなたの輝きを見てきたから。あなたの優しさを見てきたから。あなたの人生を見てきたから。
ねえ、あなたがいなくなったら、私はどう舞台に立てばいい?
これは私の、美しくも醜い十日間。

M0:からくりピエロ

「鹿鳴館ナナセでした!それでは皆さん、おやすみなさい。」

「小さなライブハウスに響く拍手の音。私は人生ではじめてのライブを終えた。私は細々と役者をやっているイシザキナナセだ。鹿鳴館と名乗ったがライブハウスの鹿鳴館には行ったことがない。文明開花の方、急ごしらえの滑稽な飾り物の象徴だ。2ヶ月前私はあるおっちゃんに誘われてソロアイドルとしてここでデビューすることになった。……まあここ、忘年会みたいなゆるーいライブだし、オリジナル曲の音源も間に合ってないんですけど。」

場面は楽屋へ。
「正直私は不本意だった。なぜなら私はアイドルが好きだからだ。たいして歌も歌えないダンスなんてめちゃくちゃで、集客をすることもままならないし、好きな人だっている。一週間後、夜に約束している。そんな私が、もえちゃんと、月鏡もえちゃんと同じアイドルなんて……私の中のヲタクは、いけすかないアイドルだなぁなんて嘲笑している。私はそれでも私は舞台に立てることが、拍手の音が、本当に本当に幸せだ。これからもアイドルとして舞台に立ちたい、なんて思ってしまった。こう思ったからには、もえちゃんをお手本にせねば……」
「楽屋に戻ると共演者の皆から、よかったよ、ほんとにライブ初めて?またライブ出てよ、今度私とセッションしようよ、なんて、新人の私には嬉しい言葉が飛び交ってくる。」

終演後物販
「唯一の動員は私の大好きな劇薬スノーホワイトのメンバー・月鏡もえちゃんを推している伊藤だ。集客できないアイドルの無銭接触なんてずいぶん簡単で、私たちは長々と立ち話をしてしまった。伊藤が時間を気にしてスマホを見る。そして、固まる。」
「どうした?」
「私が尋ねると伊藤はゆっくりと画面を見せてきた
【大切なお知らせ】
いつも劇薬スノーホワイトを応援いただき、誠にありがとうございます。
この度、2018.10.19(金)池袋シアターYESのライブをもって「月鏡もえ」が卒業する事となりました。
残り僅かとなりますが、最後まで温かくご支援いただけますよう心よりお願い申し上げます。」

「どんな顔をすればいいかわからないって、たぶんこういうことだろう。伊藤はドリンクカウンターでレモンサワーを頼んだ。」
「……いちごミルクのむ。」
楽屋に戻り、鞄から抗不安薬を一錠取り出す。口の中に忍ばせてドリンクカウンターに戻り、いちごミルクで流し込む。
「甘っ」
「あ、レギュレーションに写メはないから、私の端末で撮って!」
いちごミルクを持ってポーズを決める。
「かわいいものは、甘さで酔わせてくれないと。」
「こんな風に誤魔化しても誤魔化しきれない。一旦一人になりたい、それは伊藤も同じみたいだった。」
「Twitter上げとくからそこで回収してね。気をつけて帰ってね〜!」

バッグからフライヤーを取り出す。
「今大丈夫ですか?私、鹿鳴館ナナセっていいます。名前だけでも覚えて帰ってくださいね〜!」
「お兄さん!あ、びっくりさせちゃってすみません。私、鹿鳴館ナナセっていいます。もしよかったらTwitterとかフォローしてください!」

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【募金箱】病人ですが演劇も被写体もこれからやっていきたいです。サポートしてくれたらもっと色々できちゃうかもしれないので、興味があれば是非。