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交響的狂詩曲「いろはうた」制作日記 #VOCALOID #VX-beta

割引あり

こんにちは。isshyです。初めまして。または、毎度どーも!
夫の作曲家:田廻弘志(以下タマ氏)がこの度、VOCALOID β-STUIDIOを運営するヤマハ様から依頼を受け、映像作品「交響的狂詩曲いろはうた」を仲間と共に制作致しました。
このnoteは、クリエイター達がこの動画を作る過程を覗いた音楽事務所マネージャーによる裏方日記です。長いよw 現場の臨場感満載です!

※この記事は無料で最後までお読み頂けますが、投げ銭おまけもあります。
※作曲家によるVX-βの技術解説noteは、こちらで公開中です!


■交響的狂詩曲「いろはうた」

まずは、聴いて観ないとはじまりません。こちらをどうぞ!

本作では、ヤマハ開発チーム渾身のAI歌唱技術が盛り込まれたVX-βの合成音声達が歌っています。そうです、コレ歌ってるのは人間じゃないんです。

作者は、作曲家:田廻弘志(たまわりひろし)。
知らねーな?と思ったアナタ。ご興味あればプロフィールはこちら。
大体こんなおじさんです。

作曲家:田廻弘志

出演してくれたのは古都奈良から発信する墨アーティスト:イマタニタカコさん。奈良墨による美しい墨蹟、絵画、テキスタイル、ライブパフォーマンス、書籍デザイン、ふすま絵や掛け軸等で幅広く活躍されています。

映像は、映像ディレクターの加納真さん(@kano_shin
CG制作には、りんご湯さん(@apple_spa)にお力をお借りしました。

加納さんは「ボーカロイドオペラ葵上with文楽人形」以来のお付き合いです。イマタニさんはマネージャーの古い友人で、オペラ葵上の題字を揮毫し、Webサイトやパンフレットをデザインしてくださいました。

■始まりは「貴方の芸術を表現せよ」

「は?」
ヤマハご担当様から発注を受けたタマ氏が一瞬固まったのを覚えています。
「新しい音源で、芸術を、自由に?」
「そうです。このVX-βが様々なジャンルの音楽クリエイターさんの自由な芸術表現に使えるモノなのか?って事がとても大事です。タマさんが渾身で取り組む芸術的な歌曲を自由に作ってください。6分で!」

全力で芸術的に爆発しろと言われたタマ氏、まず歌詞に困りました。基本的に管弦楽に軸足を置く作曲家です。作詞もするものの、新製品の売り出しに適しそうな作詞…。悩んだ末に「いろはうた」を選びました。

日本人が千年以上こどもに文字を教えるために使って来たいろはうたは、タマ氏にとって「日本語で書き表しうる森羅万象」の象徴であり、己の渾身の音楽芸術を託すテーマとなり得ました。

また、日本語では音楽の調性を、イ短調、ロ長調、ハ長調~といろは順で呼ぶんですよね。その意味でもシンボリックです。

今回、ヤマハ様にSpecial Thanksに記名して頂きましたが、タマ氏は数年間がかりで断続的に試用テストや研究に使用するデータ提供等で開発協力させて頂いたので思い入れが深いのです。

今後この音源が、歌声合成を用いて曲作りをする音楽家の最初の「いろは」になれたらいいよね!との祈りも込めつつ、はたして「コンピュータ歌声合成が日本語の言霊を宿すことができるのか?」という無謀な挑戦でもありました。

浜松のヤマハ本社にて、VX-β開発者の才野氏、田廻、大道氏。
高みを目指す、歌声合成・無謀三人衆。

浜松のヤマハ本社にて

作曲家宅にて。ホームスタジオ大会議からのシュクメルリ&ハチャプリパーティで特濃ボカロ談義。

タマ家にて

■作曲のコンセプト

作曲家本人がヤマハご担当様に作曲意図を説明した文章から抜粋します。

『VX-βのさまざまな可能性を探るべく、趣きの異なる 4楽章で構成しました。納期まで十分な時間がなかったので、あまり深く考えず、野生の勢いで作曲しています。Multiβ-N(17声)の中から6声使用しました。

PART1 緩
無理なく表現できるであろうソロ歌と伴奏コーラスによる序奏。
PART2 急
試用してもっとも効果的に感じた、全員同じ歌詞を歌うコラール的な用法。
PART3 緩
テストで歌わせた『会津磐梯山』がわりとよかったので、それをさらに発展させた民謡的な節回しの独唱。
PART4 急
民謡を独唱させたら、盆踊りを歌わせたい気分になった。』

「野生の勢い」「歌わせたくなった」という言い回しが実に正直です。
本当に伸び伸びとタマ氏好みの管弦楽合唱曲を創る機会を頂きました。

マネージャーが付け加えると、この曲では昨今人気な「和風曲」の逆を指向したようです。和風曲、例えば大人気の和楽器バンドとか千本桜とかでは、和楽器が西洋音階と西洋のリズムで演奏しています。
鳴っている音色は和楽器ですが、やってることは西洋音楽、なんですね。

しかし、このいろはうたは逆です。管弦楽団という西洋の楽器が、日本の「都節(みやこぶし)音階」「民謡音階」で演奏しています。また、これ程に重層的な合唱でありながら、なんと「三度の和音(ドミソ等)」がほぼ鳴りません。

節まわしも和風です。日本民謡の節まわしは、西洋音楽的な拍子の概念の外側にあります。三楽章での祈るような節まわしは、三拍子や四拍子などの西洋音楽の枠組みで数えられるものではありません。

4楽章は誰がどう聴いても盆踊りのドドンガドン!です。このリズム、絶妙なグルーヴで、楽譜に記譜して外国人が叩くと微妙に違う感じになります。ウィンナワルツはウィーンフィルに限るように、盆踊りは日本人ならではのリズム。
鳴っている音色は西洋楽器ですが、やっていることが邦楽なのです。

そして、タマ氏が心の師と仰ぐ伊福部昭先生への熱いリスペクト。
ゴジラみはありませんが、日本狂詩曲みがほんのりと…。

■動画どうしよう!!

その後、いろはうたをVX-βを先行活用した作曲例としてご採用頂き「動画も作ってください」と依頼されたマネージャーは困りました。
ワタシが絵を描いたらこうなっちゃうよ!! アカンだろ今回は… ど、どうしよう?そうだ…友人に相談しよう…

墨アーティストのイマタニさんに墨書でいろは文字を書いて貰って、映像作家の加納さんに動画にして貰ったらよいのではないかしら?
最初は、その程度の話だったのです。どうしてこうなった?!

作曲家、墨アーティスト、映像作家、それぞれの世界観を持つ3者が様々な意見を出した結果、この作品は、イマタニさんのアトリエがある奈良で実写ロケで行こう!と決まったのですが、一般と異なる制作進行を辿りました。

一般的にはプロデューサーが立って、絵コンテや動画コンテを作って、こういう絵を撮るつもりですから!と事前に企画して演技を指導して撮影しますが、いろはうたの制作は下記の流れでした。

  1. 作曲家がこの楽曲を創るにあたり想起・企図したことを大長文のPDFにまとめキーワードや世界観を示す。

  2. 墨アーティストは「楽曲を聴いて想起したなにか」を自由に墨で表現する。ライブドローイングしたり、謎の造形物(後に呪物と呼ばれる)を制作する。

  3. 映像作家は、奈良の大自然と、墨アート実演を撮影し、上がった取れ高を組み合わせ、音楽に合わせて編集し映像を仕上げる。

この過程を傍で見たマネージャーは、3人のアーティストが三者三様の別の物語を胸に抱きつつ、協働して作品制作するのを目撃しました。
互いにリスペクトや信頼、そして遠慮を持ち合う3人がこの曲に対して抱いた全然違う物語、異なる世界の輪っかが3つ重なる点に、この映像作品が産み落とされたのです。

マネージャーが連絡係に挟まる事もあいまって、構想プロセスは一筋縄ではありませんでした。意見が不協和な場面もあった。それぞれが「コレ仕上がるんだろうか?」と不安を感じつつ、経験と信頼から来る「きっとなんとかなる」の感覚を支えに、それぞれの物語を育んでゆきました。

■ひとつの楽曲、みっつの物語

作曲家の物語

作曲家が、自分の楽曲構想を2人に示した大長文のPDFは、巻末のおまけと致します。ゼロから創作する人間の思考に興味ある方はPDFを覗いて頂くとして、ここでは骨子をまとめます。

楽曲のキーワード
●「諸行無常」「色即是空」の仏教哲学
●日本人が千年以上こどもに教えてきた「手習い歌」
 (=ボカロにこれから触れるユーザーの最初のいろはに!)
●いろはうたは、日本語で書きうる「森羅万象」を包含する象徴
●国家神道が興る以前の「神仏習合の多神教的世界観」

各楽章のイメージ
①楽章 
倭国大乱から古代律令国家の成立まで。自然崇拝。神仏への祈り。神仏習合の成立。大乱や疫病蔓延の記憶への鎮魂歌。

②楽章
古代律令国家の崩壊から戦国時代。中央集権政府の瓦解。
野生の復活。末法思想。山岳信仰。武士。侍。鬼神。戦。不動明王。

③楽章
江戸幕府による天下泰平。とはいえ、天変地異や飢饉、大火災は多発。
「彼女」は疫病か飢饉か大火で、愛する親か夫か子かを失った。
その名もなき村娘の祈りを、共に生き残った村人たちのコーラスが支える。

④楽章
幕末の混乱~明治以降~現代。西洋文明が一気に押し寄せてくる。
矛盾を孕んで突き進む世界に翻弄されながら私達は必死に生きている。

墨アーティストの物語

映像の中で筆を振るう人物が何者なのか?
イマタニさんが心の中で紡いで演じてみせた物語は、実は、私達にも言葉では示されていません。会話の中から切れ切れの情報を拾ってみますと…

  • 既存の宗教ではなく、架空の、いうなれば「いろはうた教」の巫女。
    その霊力は「日本語の言霊のちから」である。

  • 霊力を込めた数々の「謎の呪物」を作り、用いて、なにかと戦ったり、この国の人々をなにかから守ったり、祈ったりしているらしい。

今回のために作ったアイテムに加えて、近年に別件のために制作したアイテムで使える作品は全て投入し、並みならぬ熱量で臨んでくださいました。

映像作家の物語

映像作家が紡いだ物語がどんなものか?これこそが動画になったので、一番、皆様から見えやすいものだと思います。
加納さんがイマタニさんに語ったのは、懐の深い大きな枠組みでした。

「イマタニさんは、不思議な人、まぁ謎の魔女なんですね。最初は道具を準備して、澄まして練習しているんですけど、だんだん興が乗って、ものすごい奴を書き始めるんです。色々なものに書くわけです。そして最後、その書かれた文字が、その想いが、空に飛んで世界に広がってゆくんです。」

こんなふうに3人が3つの物語を温めて、ロケハンが始まりました。

■まずはロケハン!

いろはうたの調声に忙しい作曲家を置いて、映像作家とマネージャーが奈良のイマタニさんのアトリエに伺い、周辺の自然をロケハンしました。
「ロケーション・ハンティング」つまり、実際に撮影する前の下見ですね。

撮影の舞台は、奈良にあるイマタニさんの墨工房・ギャラリー奇白です。
プロの厨房機器を備えたシェアキッチンとカフェスペースも併設で、今回の撮影にはここを使用させて頂きました。

ギャラリー奇白外観(手前)
ギャラリー奇白

春日大社の原生林から切り出した木材の一枚板で作られたテーブルが美しいカフェスペースです。日頃から様々なイベントが行われていますので、関西にお住いの方はぜひ覗いてみてください。

Kitchen.Lab.Kacomのカフェスペース

書いてる様子を撮影するのに、どういう機材が必要かしら?
どういう角度から撮るのが良いかしら?
そんなことを相談しながら、水で描いてみてテスト撮影。

テスト撮影

作業スペースの隅々までアーティストの美意識が行き届いた美しいアトリエ

アトリエの水場

その後、奈良の春日大社の奥の原生林を貫く林道「春日奥山道路」へ向かいました。もうね、生えてる木がいちいち半端ない太さで凄いんです。

春日奥山道路
春日大社 原生林の大木

若草山の三重目山頂から奈良盆地全景を臨むショットが動画のラストを飾りました。

若草山三重目の山頂より

奈良なので山盛りで鹿が居るんですけど、動画には出演ならず。残念。

若草山の鹿(加納さん撮影)

■撮影初日

撮影初日は、振り返れば1~3楽章を撮った日でした。
墨を摺り、少し筆馴らしウォーミングアップをしたのち、部屋全体に広げた真っ白な紙を真っ黒にしてゆく過程であり、謎のアイテム達に火が灯って、燃え上がる波乱万丈な一日でした。

マネージャ目線のオフショットをお届けします。

まずは墨を摺り…

墨を摺る

吊るして書き…

吊るして書く

ふすま紙のロールを部屋全体に広げて…

ふすま紙のロールを部屋全体に広げて

筆と墨を用意して…

筆と墨

2楽章最初のドン!は慎重に位置決めカメラテスト

カメラテスト

かなり難しい体勢での撮影。

難しい体勢での撮影

一気呵成に書き上げる様は圧巻でした。

全景

書いた文字をレーザーカッターで切り抜いて、ガラス瓶に張り付けた
謎アイテム「言霊の群れ(仮称)」

言霊の群れ(仮称)

夕闇が迫ると言霊の群れに血のような赤インクが注がれ魂の火が灯ります。
ギャラリーの庭の階段に並べてライトアップしたら圧巻の光景。
上のライトを設営して見下ろしたマネージャーには、まるで黄泉平坂かのように見えました…

言霊の火

長い棒に吊るした紙を燃やした場面では、風に煽られた紙がマネージャーの顔近くまで舞い上がり「うわぁあちちち!」「ちょっと水!みず!」という悲鳴と共に収録されましたが、踊るような炎が浄化や鎮魂を思わせる実に静謐なシーンに仕上がりました。

鎮魂の火

この段階で1~3楽章までの取れ高は上がっていたのですが、大問題が残っていました。4楽章どうする?実は決まってなかったのです。

作曲家が大長文構想PDFで提案した現代的な都会の風景とかをいろいろ映しては?というアイディアは、なんか違うよね…と却下されていました。

相談の末、紙ではないナニカに文字を書こうと決まったものの、一体何に書けば良いのか?何に書けば楽曲の世界観に即すのか?なるほどワカラン!

よし!10個くらいのナニカに書こう。タマさん明日までに決めてきて!
すべては作曲家に委ねられました。宿題を持って本日解散です。

■旅上級者向け、奈良の隠れ家

作曲家とマネージャーは、近鉄奈良駅前のゲストハウス奥に宿泊しました。
古民家を改装した簡易宿泊所で、外国人旅行者などに大人気です。
どうして選んだか?ここにはイマタニさんの襖絵があるんです。

襖絵1
襖絵2

ゲストハウスですから、お部屋と布団orベッドとシャワーのみで食事はつきません。近鉄奈良駅近くの親戚の家に泊るような感覚で、親切な家主が迎えてくれます。
大変に気に入ってしまって、奈良に行く時の定宿にしようと思っています。

すやすや寝入ったマネージャーの横で作曲家は眠れぬ夜を過ごしました。
何の素材に書こう?何に書けば、僕が描きたかった「森羅万象」という世界観に合うんだろう。しかもすぐ買えて手に入る物で…

タマ氏は普段見過ごしている「卑近なものの凄さ」に目を向けていました。
例えばペットボトル。
臭くて黒い原油が遠くタンカーで運ばれてきて生成されて加工されて透明な固体になって水が入っている。改めて言われてみるとすごいなって思う。
でも、だからってペットボトルに文字書いて見せても、意味分からないし、「ゴミに書いてるみたいだよねー」って意見もありました。

夜が明ける頃、作曲家がまとめた構想は「明治以降~現代社会を構成している”素材”に書こう!」というものでした。

■賣太神社

撮影2日目は、映像の冒頭を飾った神社からスタートしました。
社務所の神主さまにご挨拶し、快く撮影許可を頂きました。
賣太神社(めたじんじゃ)は奈良県大和郡山市の稗田環濠集落にあります。
環濠、つまりお堀で囲って堅く守りを固めた集落の氏神様です。

祀っているのは、伝承を暗唱していて古事記編纂に関わったとされる稗田阿礼(ひえだのあれ)、そして猿田彦命(さるたひこのみこと)とその妻、天宇受賣命(あめのうずめのみこと)です。

稗田阿礼は、この地に生きた猿女君稗田氏(さるめのきみひえだし)の出身で、氏族の祖とされるアメノウズメは天照大御神が天岩戸にこもった時に、楽しい踊り(ストリップショー!)で神々を大笑いさせて天岩戸の扉を開かせた逸話で有名な日本芸能の始祖神。オカメやオタフクとも呼ばれます。

日本の律令国家の形を整備した政治家:藤原不比等が開いた奈良の地にあって、それ以前の祭事を司っていた猿女君稗田氏は追い落とされた氏族。藤原氏の政敵だったかもしれませんね。

そんな古代史浪漫を抱いて静かにたたずむ賣太神社から、日本語の言霊と芸能の神を勧請して、この映像詩は幕を開けるのです。

賣太神社を撮る加納監督を撮る
賣太神社御由緒

映像では利用しなかった稗田の美しい水田。

稗田の水田

■クライマックス4楽章

タマ氏の徹夜により4楽章では明治~現代社会を成す「素材」にいろは文字を書いてゆく方針が固まり、撮影と並行してホームセンターでの買い出しが進みました。

現代社会を構成するエレメント

アレですね。剣と魔法のロールプレイングゲームでいうエレメント。
日本語でいうと陰陽五行の木火土金水。それに光と風。さらに、人間の智慧と罪の象徴:林檎もそっと足して、最終楽章が構成されました。

ちょっと考えて欲しいのですが、左手にモノを持って、右手で書く時、
撮影するにちょうどいい場所には、書き手の頭があって邪魔です。だからすごく腕を伸ばしたり身体をひねったりしながら、筋トレか!みたいな無理な姿勢で書く他なく、イマタニさんは筋肉痛に追い込まれました。

このアクロバティック撮影の写真は…ナイんです。マネージャーはせっせと風車をつくっていました。最初、筆で書きやすいように厚紙で作ろうとしてぜんぜん回らなくて、障子紙でようやくちゃんと回る風車が作れました。いや、大変だったんだって不器用だから!!

風車

謎の「いろは石」には「うゐのおくやま けふこえて」と茶目っ気。

いろは石

監督いう処の魔女であり、作曲家いう処の巫女が作り出した謎の呪物たちは、それぞれに名前と役目と機能を与えられているそうです。

日本の古代史に造詣の深いイマタニさんがこの撮影に際して紡いだ物語は、彼女の特設ブログ「言の葉枯れぬ杜」でお楽しみください。

言霊の祭壇の完成とともに、丸二日で駆け抜けた撮影は幕を閉じました。

言霊の祭壇

■作曲家と歩く奈良

人ごみが大の苦手な作曲家は、日の出とともに奈良の街を歩きました。
ご一緒に、奈良観光と歴史浪漫談義をどうぞ。

近鉄奈良駅前

興福寺中金堂と五重塔

興福寺中金堂と五重塔

興福寺は観阿弥が仕えたことで知られ、大道芸人、奇術師、傀儡師、雅楽、散楽などの芸能者を厚く庇護し、広場に座(芝居小屋)を建てさせて衆徒に法楽行事として提供しました。後の能楽や文楽や邦楽を産む基礎が築かれた日本の芸能の故郷ともいうべき寺を訪ねることは、タマ氏の巡礼だったかもしれません。

興福寺北円堂

興福寺北円堂

奈良の鹿たちは本当に一切逃げませんね。

奈良の鹿

奈良の街中にある祠。趣深い…

街中の祠

奈良は街路樹も巨大。

奈良の街路樹

春日大社は石灯篭発祥の地。

石灯篭

苔が美しい…

春日大社の朱塗りの屋根

朱塗りの屋根

春日大社のご祭神

春日大社のご祭神

作曲家は、神経が高ぶっていてよく眠れなかった様子です。疲れ果てているのに(しかも歩くのが大嫌いなデブなのに!)意外にも「帰る前に春日大社にご挨拶しなきゃ!」と言うのでマネージャーは驚きました。

春日大社境内図

歩きながら作曲家が語ったのは、独特な歴史浪漫でした。

「奈良は、春日大社を建てた大政治家、日本の律令国家体制を整えた藤原不比等が拓いた地だよね。以降、藤原氏が天皇家以上に権勢を振るった…」

「そうね。古代に広大なお社を建てて維持する権力って、すごいよね」

春日大社の灯篭

「僕たちの動画は、この奈良の地に於いて、賣太神社の稗田阿礼から言霊を勧請してパワーを頂いた設定なんだ。
賣太神社を祀ってる猿女君稗田氏は、藤原氏以前に国の祭事を司っていた大豪族だ。不比等に追い落とされて敵に囲まれたから環濠集落を築いたんだろう。そして、藤原不比等から見たら僕たちは「え?なに?俺の土地で俺の政敵を呼び出して何してんの?」って感じかもしれないから、春日大社にご挨拶しておかないとね。」

「ええっ?アナタそんな理由で、疲れ切ってるのにお参りに来たの?」

「そうだよ?ご挨拶もしないで帰ったら怒られちゃうじゃん」

春日大社のご神木

作曲家は大まじめです。歩くのも運動も嫌いな究極のインドア派、しかも世界遺産の境内は全面禁煙で苦しいニコチン中毒者が、ふうふう大汗かきながら、奥のお社まで丁寧にご挨拶して回ったのでした。

タマ氏「奈良の地で撮影させてもらってありがとうございます」
マネージャー「この作品を無事に発表できますように」

■後日談

作曲家がいろはうたの最後の仕上げに掛かっていた2023年8月1日、首都圏一円を激しい雷雨が襲いました。そしてなんと、タマ家に落雷したのです。
普通の木造二階建てに? 高いマンションが隣にあるっていうのに?!

パソコンの電源は落としていたのですが、機器のコンセントまで抜いたかというとそうでもなく…被害甚大…

光回線、光テレビチューナー、古いテレビ2台、玄関チャイム、屋根のテレビアンテナ電波ブースター、洗濯機が逝ってしまいました。

幸い制作メイン機のMac自体は無事でしたが、外付けHDDが起動しない!
しかも、まさにいろはうたの曲データが入っているHDDが…

最悪、1週間前のバックアップからやり直す覚悟をしつつ、HDD外装ケースを取り寄せて換装したところ起動しました。よかった~

人的被害はなく、火災も起きず、大事なデータも消えずに済んで、命拾いしたのですが、光回線の復旧工事に1週間かかったのは地味に痛手でした。

そこで思い出したのが藤原不比等の春日大社です。
藤原氏の守護神・タケミカヅチノミコトは、春日大社には武甕槌命とありましたが、建御雷之男神ともお呼びします。そう…雷を落とす荒魂なのです。
良い神様なんですよ?雷は雨を降らせ稲を実らせるから「稲妻」なのです。

もちろん、落雷はただの偶然です。偶然にすぎません。
でも「ちゃんと挨拶には来たから、まぁこの位で勘弁してやるわw」
…だったかもしれないよね?!

このタイミングで100万分の1の落雷確率が巡り来るとは、ものすごいシンクロニシティを体験しました。私には、この映像詩は奈良の神々のパワーを頂いて、本当に言霊が宿ったのだ…と思えてならないのです。

勘違いでもいいんです。私達はそういう物語を生きています。

苔の厚みは歴史の厚み

制作日記、読んでくださってありがとうございます!

●作曲家自身による、VX-βの技術解説や調整Tipsなどを別noteで発信予定。 ただいま執筆中。タマ事務所アカウントでの告知をお待ちください。

●交響的いろはうた楽曲データは8/24発売開始!

●合唱のみバージョンも公開の方向で現在作業中。
 Youtubeチャンネル登録してお待ちください。

●質問、感想、取材申込、いちゃもん、デートのお誘いはこちらから。
制作と取材の依頼以外はお返事できませんが、すべて拝見させて頂きます。

●作曲家タマ氏のディープなファンの方に、おまけをご用意しました。
 頂いた投げ銭は、食らった雷被害の復旧に充てたいと思います(涙)

 作曲家が動画制作チームに示したコンセプト資料(11p、6300文字) PDF

コンセプト資料目次

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