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研究紹介【ケトン体とは vol.1】

僕の元々の専門は「腎臓内科」ドクターですが,普段は臨床だけでなく研究も行っており,今は7割くらいを研究に捧げています.腎臓は「体の塩分や水分,電解質(ナトリウムやカリウムなどのミネラル)のバランスを整えたり,体の中にできたゴミや毒素を尿として捨てたりする,体全体のバランスを取るのに重要な臓器」です.

腎臓がこのようなバラエティに富んだ機能を発揮するためには,ATP(アデノシン三リン酸)というエネルギーの供給源が大量に必要となります.ざっくり言うと,車のガソリンみたいなイメージですかね.動物のみならず植物やバクテリアも含めた全ての生物が生きていくためには,このATPが不可欠となります.

全生物は,このATPという小さな分子をADP(アデノシン二リン酸)とリン酸に加水分解(反応物に水が反応して分解を起こす現象)することで生まれるエネルギーによって活動しています.この図のようにリン酸を外すことでエネルギーが生まれます.ATPはいわゆるエネルギーと交換できるお金のようなもので,よく「エネルギー通貨」と呼ばれます.

エネルギー通貨であるATPのバランスが崩れることで,いろいろな腎臓の病気が引き起こされることが最近の研究で明らかにされつつあります.例えば過剰にATPから作られるエネルギーが要求される状況や,エネルギーの供給が追いついていない状況です.よく「需要と供給のバランスが崩れる」みたいな表現をします.

ATPという細胞における重要なエネルギーを作るための材料には,グルコース(ブドウ糖)・脂肪酸・ケトン体の3種類があると言われています.脂肪酸は血液中に漂う油みたいなもので,遊離脂肪酸とも言われています.

腎臓ではこのATPを生み出すエネルギーの源(みなもと)を脂肪酸に大きく依存していますが,糖尿病や動脈硬化などの障害を受けた腎臓では,この脂肪酸の利用がスムーズにいかないことが,つまり,脂肪酸を細胞に取り込んでATPを作り出せないことが,さらなる障害を引き起こすと言われています.車で例えると,遠くまで行かないといけないのにガソリンが足りていない状態といったところでしょうか.

そこで,私の研究では,ブドウ糖・脂肪酸以外のもう一つのATPエネルギー源である「ケトン体」が障害を受けた病的な腎臓において有効なエネルギー源となり,新しい治療のターゲットになるのではないかと仮説を立て検証を進めてきました.

次回以降は,「ケトン体に関しての基本的な内容」から,「ケトン体がATPエネルギー源となることで臓器を守る働きを持つ」可能性などについて述べていきたいと思います.

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