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No,169.うつ病の話「うつ病(抑うつ)を軽減する心理的要因とは?」

はじめに

2020年にOECD(経済協力開発機構)が行った、メンタルヘルス(心の健康)に関する国際調査によると、日本国内のうつ病・うつ状態にある人の割合は17.3%で、前年に比べて2.2倍に増えたという。(出典:ダイアモンド・オンライン)

うつ病は、抑うつ気分や興味・喜びの喪失と、併発する身体的症状(食欲や睡眠の障害,易疲労性など)、認知的症状(無価値観や罪責感,思考力・集中力の減退や決断困難など)からなる症候群であり、重症例では自殺念慮や自殺企図も認められる。(American Psychiatric Association,2000)

日本では、100人に約6人が生涯のうちにうつ病を経験しているという調査結果がある。また、女性の方が男性よりも1.6倍くらい多いことが知られている。女性は、ライフステージに応じて、妊娠や出産、更年期と関連の深いうつ状態やうつ病などに注意が必要となる。(出典:厚生労働省「知ることからはじめようみんなのメンタルヘルス」)

うつ病は、決して「心が弱いから!」といった体育会系の軽いノリで言ってほしくはない問題である。

どんな強固な心の持ち主でもうつ病になり得るということや、それにより自殺といった悲しいことがあることを直視してください。

同時にYouTube動画のリンクも貼っておきます。


うつ病とは

「憂うつである」「気分が落ち込んでいる」などと表現される症状を抑うつ気分といいます。抑うつ状態とは抑うつ気分が強い状態です。うつ状態という用語のほうが日常生活でよく用いられますが、精神医学では抑うつ状態という用語を用いることが多いようです。このようなうつ状態がある程度以上、重症である時、うつ病と呼んでいます。(出典:厚生労働省「知ることからはじめようみんなのメンタルヘルス」)

つまり、誰でも「気分が優れないな~」とか「やる気が出ないわ」といった時はありますよね?そのような状態を専門的には抑うつ状態といっています。

この抑うつ状態が2週間以上続くと一般的に言われているうつ病と診断される(DSM-Ⅴ、米国精神医学会)。

まとめると、「気分が優れないな~」とか「やる気が出ないわ」といった気分が抑うつ状態で、抑うつ状態が2週間続くとうつ状態ってことです。

この状態が続けば、かなり辛い日々を過ごすことは想像できるだろう。

抑うつ状態緩和に寄与する心理的傾向について

上記のように、うつ病に至る経緯には抑うつ状態のときにいかに緩和していくのかがポイントとなる。

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筆者作成

抑うつ緩和に寄与する心理的要因を仮説とともに考察してみる。

仮説

気分が落ち込んでも「気持ちに左右されずにやり抜く力」や「自分の気持ちは自分で何とかする」または「周りの環境なので納得する」といった心理状態が抑うつに対処(コーピング)できるだろう。

そこで以下の心理尺度を用いて仮説を立ててみた

① 「気持ちに左右されずにやり抜く力」GRITという心理的要因。GRITの高い兵士はグリーンベレーの厳しい特殊訓練を完遂しやすいことや、グリットの高い販売員は仕事をやめにくいことが示されている(Eskreis-Winkler et al., 2014)。抑うつ状態が続くと訓練や仕事を続けることは困難だろう。

② 「自分の気持ちは自分で何とかする」Internal Control(内的統制)という心理的要因。Internal Controlは自分自身の行動とその結果は自ら統制できると考える自己解決型タイプで、抑うつ状態を他者に頼らず何とか解決していくだろう。

③「周りの環境なので納得する」 External Control(外的統制)という心理的要因。External Controlは自分自身の行動とその結果は、外部の力や影響によって決まると考える他者依存型タイプで、こういった状態になったのは周りが悪いと思った方が楽になるだろう。

方法

◉参加者

Googleフォームでアンケートを作成したのちネット調査(n=30)。

◉材料

① 島・鹿野・北村・浅井(1985)がうつ病の疫学研究用に開発された20項目からなる自己評価尺度(the Center for Epidemiologic studies Depression Scale:CES-D Scale)を邦訳したものを用いた。「この1週間のあなたのからだや心の状態についてうかがいます。以下の項目はこの1週間のあなたのからだや心の状態についてうかがいます。まず下の20の文章を読んでください」と教示し「普段は何でもないことが煩わしい」などの20項目を4件法(1=全くないかあったとしても1日も続かない、2=1日~2日、3=3日~4日、4=5日以上)の4件法で実施した。

② 全12項目からなるGRIT尺度(竹橋ら,2019)を用いた。「1: 全く当てはまらない–5: 非常に当てはまる」の5件法で実施した。

③ 全18項目からなるLOC尺度(鎌原ら,1982)を用いた。「1:そう思わない–4:そう思う」の4件法で実施した。

◉分析方法

抑うつを従属変数とし、GRIT(やり抜く力)、Internal Control(内的統制)、External Control(外的統制)3項目を独立変数として回帰分析をおこなった。(内容:強制投入法・多重共線性)

結果

GRIT(やり抜く力)(β=.-25,p<.ns)  
Internal Control(内的統制)(β=.-37, <.10)
 External Control(外的統制) (β=.06,p<.ns)

「自分の気持ちは自分で何とかする」Internal Control(内的統制)が抑うつ状態を緩和すると判断予測した.この分析では30%を説明できることを示している(表1)。

表1 

キャプチャ
筆者作成

さいごに

日常的に経験する気分の落ち込み段階(抑うつ状態)で、いかに対処するのかが重要だろう。この段階で改善できれば、抑うつ状態を回避でき、自殺などの最悪な事態にならないと思う。

この記事や分析から、少しでも抑うつ➡うつ病➡「仕事や日常生活、他人とのコミュニケーションが明らかに困難」になったり、最悪な事態が減ればいいと心から願っている一人です。

ここでの結果はサンプル数の少なさから、かなり恣意的な結果になるけど、用いている心理尺度は研究で多く使われているものです。

最後まで読んでいただきありがとうございます。

一人で闘う(悩む)必要はまったくありません




引用文献

American Psychiatric Association.( 2000). Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders, 4th edition, Text Revision. Washington, DC: American
Psychiatric Publishing, Inc.

Duckworth, A. L., Peterson, C., Matthews, M. D., & Kelly, D.R. (2007). Grit: Perseverance and passion for long-term goals. Journal of Personality and Social Psychology, 92, 1087–1101.

鎌原雅彦・樋口一辰 ・清水直治(1982b)「Locus of Control尺度の作成と信 頼性、妥当性の検討」『教育心理学研究』30,302-307.

Rotter, J.B.( 1966) Generalized expectancies for internal versus external locus of control of reinforcement. Psychological Monographs, 80, 1-28.

島悟・鹿野達男・北村俊則・浅井昌弘.(1985)「 新しい抑うつ性自己評価尺度について」『 精神医学』27(6), 717-723.

竹橋洋毅・樋 口収・尾崎由佳・渡 辺 匠・豊沢純子(2019)「日本語版グリット尺度の作成および信頼性・妥当性の検討」『心理学研究』89, 580–590.


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