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No,102.ケーキを切れない非行少年たちは本人の問題じゃない
※この記事は3分で読めます
「非行少年(子供)の心に扉があるとすれば、その取手は内側しかついていない」
その一文を読んで、イソップ童話の「北風と太陽」を思い出した。
「ケーキを切れない非行少年たち」について、つらつらと書いてみる。
本の紹介
「ケーキを切れない非行少年たち」は、30万部を突破するベストセラー。著者は精神科医の宮口先生です。
児童精神科医である筆者の宮口浩治さんは、多くの非行少年たちと出会う中で、「反省以前の子ども」が沢山いるという事実に気づく。少年院には、認知力が弱く、「ケーキを等分に切る」ことすら出来ない非行少年が大勢いたが、問題の根深さは普通の学校でも同じなのだ。人口の十数%いるとされる「境界知能」の人々に焦点を当て、困っている彼らを学校・社会生活で困らないように導く超実践的なメソッドを公開する(引用:新潮社)。
IQ(知能指数)についての記述が多く、心理学的に思うところがありました。
IQ(知能指数)とは
「あいつはIQが高い、IQが低い」とか、IQという言葉は耳にすることがあると思います。
ひとえにIQ と言っても、IQは「言語IQ」と「動作IQ」が合わさった数値です(少しややこしいですが)。
◉「言語IQ」は後天的に得られるものでことで、これまでの生育環境や学習環境、社会階層などに影響を受けやすいと言われている(下位検査は以下の要素で構成されています(知識・類似・単語・理解・など計算や語彙力、読解力)。
「読み・書き・そろばん」の能力で、学校の勉強で身につく能力のことです。
◉「動作IQ」は生まれつきの能力に影響されるこ とが大きく、後天的な学習活動や教育環境の影響を受けにくいといわれています(絵画完成・絵画配列・積木模様・記号探し・符号・行列推理・組み合わせ)。
走ったら速い(アナロジーで言えば)とか、絵をかいたらうまいといった、持って生まれたものが影響される能力のことです。
この「言語IQ」と「動作IQ」が合わさったものを一般的にIQと言われる。
「言語IQ」+「動作IQ」=IQ(知能指数)
IQと少年犯罪
植松(2015)は、言語IQ(後天的)が動作IQ(先天的)より高ければ犯罪と影響が見られないが、逆に言語IQ(後天的)が動作 IQ(先天的)より低い場合は影響がみられるという。
◉ 言語性 IQ< 動作性 IQ =影響あり
◉ 言語性IQ> 動作性 IQ =影響なし
つまり、学習(勉強)で得られる言語IQ(後天的)が動作IQ(先天的)より低い場合は、犯罪との関係があり、逆の場合は関係がない。
理由の一つとして、学習などで得られる言語能力が低いことから、うまくコミュニケーションがとれないので、学校生活で失敗や疎外感を感じやすくなることが考えられる。結果的に反社会的行動につながる可能性があると推測される。
動作IQは持って生まれた要因が高いので伸ばすのは難しいと言われているが、言語IQは学習や環境と関係があるため伸びる可能性は高い。
学習(勉強)が大事なことがわかるだろう。
IQと学習遅延
Hinshaw(1992)はIQと学校の成績(学力)との関係を調べた結果、実際に少年院に入所する際に行う学力テストでは5年以上の学力遅延がみられる場合が多いと示唆しているIQ平均値85程度では1年程度の遅れ)。
Joanne J.Paetsch(1997)は、学業成績が落第や停学に結びつき、結果的に非行仲間との結合を促進すると述べている。また先行レビューをもとに検証した結果、将来の反社会的行動の予知因子はIQ値ではなく、GPA(成績評価の平均点)であった。
自尊心
小学校から中学校までの自尊心の変化についての研究では、自尊心を高めた子どもは 勉強がよくわかるようになったと思い 、イライラ感 ・身体倦怠感などを感じなくなり、空虚感を感じることも少なくなっていた。反対に、自尊心を低めていた子どもは、中学校に進学して以降、小学校のときよりも勉強もわからなくなったと思い、イライラ感・身体倦怠感などをより強く感じるようになり、空虚感も強まり、将来への希望も弱くなっていた(都筑、2005)。
どんな子供でも、学年が上がるにつれて自尊心(自分はダメな人間だと思ってしまうなど)が低下する傾向があると言われる(都筑、2005)。
しかし非行から犯罪に走る子供たちは、言語IQの低さや学校の成績(学力テストでは5年以上の学力遅延)によって、著しく自尊心(自分はダメな人間だと思ってしまうなど)が低くなるのではないだろうか。
Donnellen et al( 2005 )は 11~14歳を対象に縦断的(数年間)研究を実施した。結果は「総合的自尊感情」と「将来の非行」と負の因果関係があり、低い自尊感情は非行症状に影響を与えるといえる。つまり、自分を大切にしないダメな人間だと思う子供ほど、将来非行に走る可能性が高いと述べている。
勉強についていけないことで「自分はダメな人間」だと思ってしまい、自分を大切に思わなくなる(自尊心の低下)ことで非行に走り、結果的に犯罪に手を染めるのであれば、それはとても辛いことです。
さいごに
宮口(2019)は、著書の中で少年院の子たちが変わるための重要なことは
◉ 自己への気づきがあること
「子どもの心に扉があるとすれば、その取手は内側しかついていない」自らがその扉を開けるように気づきの体験。
そして様々な体験や教育を受ける中で、
◉ 自己評価が向上すること
が重要だと言っている。
大人が怒ったり(虐待)、ほったらかし(ネグレクト)ていたら、子供たちは『内側しかない取手に手をやって扉は開けてくれない』ことを心に刻もう・・・
そんな子供たちは、大人が見ていないときに気付いて欲しくて様子を伺うように、そっと扉を開けて様子を見ているだろう・・・
気付いてあげて下さい(´°̥̥̥̥̥̥̥̥ω°̥̥̥̥̥̥̥̥`)
最後まで読んでいただきありがとうございます。
引用文献
都築学(2005)「小学校から中学校にかけての子どもの「自己」の形成」『心理科学』 25巻、第2号、pp1-10
松浦直己・橋本俊顕(2007)「発達特性と、不適切養育の棺互作用に関する検討一女子少年院在謀者と一般高校生との比較調査より一」『鳴門教育大学構報教育ジャーナル』第4号、pp29-40
松浦直己(2015)『非行・犯罪心理学―学際的視座からの犯罪理解―』 明石書店
宮口幸治(2019)『ケーキの切れない非行少年たち』 新潮社
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