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ダイバーを増やして、次世代に豊かな海を残したい。 海洋調査会社が語るISOPの魅力【私とISOP③】

皆さんは、ダイビングに馴染みはありますか? 

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そう、海に潜って泳ぎ回る魚を眺めたり、海底散歩を楽しんだりするあのダイビングです。全国47都道府県にはおよそ1345ものダイビングショップがあると言われていて、たくさんの人々が海に親しむきっかけを作っています。

実は、ダイビングの役割は「観光」だけではないといいます。そう思い直すきっかけをくれたのが今回取材したフクダ海洋企画の福田介人さん。福田さんは、潜水を専門とする海洋調査会社「フクダ海洋企画」の二代目で、研究者と一緒に海に潜り続ける「海洋調査ダイバー」として活動しています。

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福田介人(ふくだ かいと)
有限会社フクダ海洋企画の二代目。フクダ海洋企画は、父である福田民治によって、1980年7月に潜水調査専門の会社として設立された。調査用途の客観的なデータ収集、水中写真撮影を通じて、研究者から信頼あるダイバーとしての地位を確立。絶えず海が変化していく中で、潜水を通して研究者や漁業者との対話を行い、地域に根付いた活動、調査に取り組んでいる。

この記事は磯焼け対策事業『ISOP』の立ち上げメンバーそれぞれの立場からISOPを語る企画『私とISOP』の第3弾。第1弾、第2弾に続く今回は、ダイバーとして直接海の中を見ている福田さんが、なぜ磯焼け対策「ISOP」に本気で取り組むのか、その思いをお伺いしていきます。

インタビューするなかで何度も話に出てきたのが「資源管理」という言葉。福田さんは、ダイビングを活かした海の資源管理を行なっていきたいと語ります。それは一体、どのような取り組みなのか?ISOPとどう関係しているのか。お話を伺いました。

潜水調査を専門とするダイバー

ーーダイビングというと、レジャーで綺麗な海に潜るイメージが浮かびます。

福田さん:そのイメージが一般的ですよね。ただダイバーにも色々なタイプがあって、僕の所属する『フクダ海洋企画』は、「潜水調査」を専門としているんですよ。

ーー「潜水調査」専門のダイバー?それって普段はどんなことをしているのでしょうか。

福田さん:ダイビングの技術を生かして、海の研究をお手伝いするのが主な仕事です。例えば、震災後の海藻の生育状況を調べる研究では、研究者と一緒に海に潜り、特定海域のモニタリング(※)を行いました。

※モニタリング:事業が自然環境にどんな影響を与えるのかを定期的に観察し、調査する手法

今は、沖縄県にある喜界島サンゴ礁科学研究所と共同でサンゴの研究をしていて、サンゴ礁の調査や水中写真撮影を行っています。調査以外にもダイバーを指導・育成することも仕事の一つなんですよ。

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福田さんが撮影した水中写真。10月、鹿児島県喜界島にて

ーーとても綺麗ですね。ISOPでも、海洋調査ダイバーとして活動されているのでしょうか。

福田さん:そうですね。ISOPでは、ダイバーとして月に2回ほど海に潜り、モニタリングやウニ駆除、海中造林を行っています。

ーーその「モニタリング」では、具体的にどのようなことをしているんですか?

福田さん:調査では1m×1mのコドラートという枠を設置し、その枠内にどんな種類の海藻がいるのか、その面積の割合、それらを食い荒らしてしまう⽣物の個体数などを記録していくんです。モニタリングを定期的に実施していくことで、その海域でどんな変化があったのかを明らかにすることができます。

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コドラートを使用して、モニタリング調査をしている様子。

ーーモニタリングがなければ、対策をしてもどんな効果があったのか分からないわけですね。では、「海中造林」とはどんな作業でしょうか。

福田さん:海中造林とは、海の中に一時的に新しい藻場を作る仕事です。育成途中の海藻がついている筏を海中に設置します。そこから落下した海藻が海底のブロックへ引っ掛かったり、⻑く成⻑したものはそのまま海底へ垂れ下がったりすることで、ウニやアワビの餌となるんです。

海中造林

海中造林のイメージ図。上記のような形の筏を海中に設置する。

ーー海で行う植林みたいですね。ダイバーが調査し、その調査に基づいた業務を海で行う。ISOPを効果的に続けていく上で、ダイバーは欠かせませんね。

ISOPはダイバーを用いた資源管理の第一歩

ーー調査をしていくなかで海の状態をよく観察されていると思います。ISOPの取り組みで、海藻をどんどん増やしていくことはできそうですか?

福田さん:そう簡単な話でもなくて。天然の海藻を増やすということはとても難しいんです。震災以前のレベルにまで回復させることは不可能とも言われていて、いまはまだ「磯焼けの食い止め方を模索している」という段階ですね。

ーー不可能!? それでも、海藻を増やすプロジェクトであるISOPに積極的に協力されるのはなぜでしょうか。

福田さん:それはISOPの取り組みが、将来私たちが目指すべき「ダイバーを用いた資源管理」に繋がると考えているからです。ISOPでは、漁師をダイバーとして育成しています。漁師がダイバーになることには、次のようなメリットがあるんです。

①漁師自ら海に潜ることで、資源管理に対する意識が芽生える
②潜水漁によってウニを獲ることで、漁師が資源管理しながら経済的メリットを享受できる

まず1つ目。漁師も感覚として海藻が減っていることは分かっていたんです。だけど、どのくらい深刻な状況なのかまでは分かっていませんでした。これをダイバーが潜り、水中写真を撮影して見せることで、「このままではまずい、どうにかしないと」という意識を漁師に芽生えさせることができます。さらに漁師自らがダイバーとなって潜ることができれば、より正確に海の資源の状況を把握することができる。

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ーーなるほど。漁師の方々に、「資源管理」についてより強く意識してもらうためでもあるんですね。

福田さん:そして2つ目。磯焼けがおきている今は、ウニが多く、海藻が少ないという状況です。年々ウニを獲る漁師が少なくなっている影響もあって、このままではウニが増え、海藻は減っていくばかり。若い漁師ダイバーが育って、ウニを獲るようになれば、資源管理をしながら漁師の収入アップも見込めるようになります。

ーー海を守ることが、漁師たちが活動を続けていくための金銭的な支えにもなるんですね。

福田さん:ただ、いまの海でウニを獲っても、売ることは難しいです。ウニの餌となる海藻が少ないため、身入りが悪いものもあるからです。漁師ダイバーが潜って、ウニを駆除・移植することで、海藻とウニのバランスを調整し、売り物になるような立派なウニまで育てていきたいですね。

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あまり身入りのよくないウニ。これでは売り物にはならない。

大切なのは、海の資源管理と漁師たちの経済活動を両立させていくこと。時間はかかりますが、ウニを有効活用することで、漁師が経済的なメリットも受けられる未来が訪れると考えています。

漁師、研究者、ダイバーがつながる。

ーーお話からは、福田さんが漁師のために行動していることが感じられます。ご自身はダイバーであるにも関わらず、どうしてそこまで漁師のためを思えるのでしょうか。

福田さん:それは、ダイバーだった父の影響が大きいですね。父は研究者と一緒に海に潜り、研究成果を漁協や漁業者に還元することで、栽培漁業(※)の生産性の向上に努めました。

※栽培漁業:卵から稚魚になるまでの一番弱い期間を人間が手をかして守り育て、ある程度のサイズになったら、その魚介類が成長するのに適した海に放流し、自然の海で成長したものを漁獲すること

海に関する研究ってたくさん世にあるんですが、実際にそれが漁師たちの生活に還元されているかというとそうでもなくって。せっかく、研究を通して漁師の生活が豊かになるかもしれないのに、もったいないと思うんです。

ダイバーは、研究者とも漁師とも関わる仕事なので、いまの海がどうなっているか、そのためにどんなことが必要になのかをはっきりさせることができます。

ダイバーを繋ぎ役とすることで、「研究者の結果を漁師に還元し、漁師は研究に協力する」というサイクルをつくり、研究者、漁師、ダイバーのみんなが上手に海と付き合え続けたらいいなと思っています。

漁師、研究者、ダイバーの関係がいいところって、資源管理もできている地域が多いんです。漁師のために行動することが、みんなが海とともに生きることにつながるんですよね。

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ーー今後、ダイバーは海とどのように関わっていくのでしょうか。

福田さん:海水温、潮の流れ。海はどんどん変化しています。次、何が起こるかわからないからこそ、少しでも海を知ることが大切になってきます。

ダイバーが関わることで、海の様子や生態系、そこに住む魚や海藻の状態を正確に把握することが可能になります。不確実な海とともに生きる上で、ダイバーはどんどん必要になってくるのではないでしょうか。

しかし、ダイバーができることもごくわずかです。ダイバーを用いた資源管理は決して広範囲で行うことはできませんが、局所的にダイバーを用いた資源管理を実施することで、少しでもいい形で次世代に海を残せていったらいいなと思います。

まとめ

ISOPは、単なる海藻を増やすプロジェクトではなく、ダイバーを用いた資源管理の第一歩でもありました。ダイバーたちは海の中の現状を漁師や研究者たちに正しく伝え、漁師自らもダイバーとなることで、漁師の経済的な活動と海の資源管理を両立させることが可能になっていきます。

海を把握できるダイバーを増やすことが、次世代に豊かな海を残すことにつながります。

人が海とともに生きていくためには、まずは自分の目でちゃんと海を見て知ることが一番大切なのかもしれません。海に潜り続けるダイバーがそれを教えてくれました。

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ダイバー育成中の福田さん

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