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幼い夢に

誰が送れようか おまえを
その無垢の身を 花のこころを
向こうの岸へ 霧の彼方へ
白い造花に飾られた町へ
どの葦舟で送りえようか

たとえ 約束のように  虹の橋が
またいざないのように向う岸から
おまえの胸にかかつたからとて
結ばれた岸 とは誰が言おう
招かれたのはおまえと誰が言おう

舟を柩とともづなを解き
色とりどりの矢車の花に
おまえの生きたむくろを埋めて
静かにお眠り と 安らかにおやすみ と
誰がさりげなくささやきえようか

おかえり 胸の芥子けしの花を捨てて
そよ風にもたれないで 身を投げないで
おかえり 夜明けの琴の鳴る町へ
僕たちの腕へ 僕たちの胸へ
弱さを束ねたしんじつの砦へ

     詩誌『駱駝』25号(1953年5月)
      (注)ともづな=艫綱・船をつなぎとめる綱

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