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サンフランシスコに存在したラブホじゃない本当のブティックホテル

ホテルにはさまざまなカテゴリーがあり、目的によって使い分けますよね。私は国内外どちらにおいても、ホテルは出張で宿泊することが8割以上です。部屋で仕事をしたり、夜は部屋飲みすることも多いです。

いつもいわゆるチェーンホテルは、国内外いずれにおいても極力避けるようにしています。ヒルトンでもハイアットでも東横インでも、どこも確かに一定以上の、そのチェーンで標準化されたクオリティーが保証されるのですけど、そこから良くも悪くも外れがないので、全然面白くはないのです。つまらないんです。

例外としては、最近だと国内ではカンデオホテルズとドーミーインなどにはよく宿泊します。もちろん理由は風呂とサウナです。ただし、これらでも古いホテルをリノベーションした物件も多く、その場合はハズレも多いので事前に必ず確認しています。

これまでにどれくらいの数のホテルに何泊してきたのかは想像さえできませんが、海外渡航だけでも200回を優に超えているので、それなりなんだと思います。そんな私のホテル歴の中でも、「ブティックホテル」として最高峰だと思うホテルが、かつてサンフランシスコに存在していました。かつてというのは、残念なことに2006年秋にホテルとしては廃業し、現在では高級アパートメントになっています。

ウイキペディアによるとブティックホテルとは

「客室数が10~100室程度と比較的、規模が小さいながらも、独創性が溢れる独特なデザインやサービス等を売りにしているテーマ性のあるホテルのこと。」

Wikipedia

とあります。決して料金がすごく高いわけではないし、格式ある本当の高級、一流ホテルとは別ものです。日本ではブティックホテルと言うと、いわゆるラブホテルのことを指す場合が多いように思います。今日したいのはラブホの話ではありません。

さて、本物のブティックホテルは「Nob Hill Lambourne」、または「The Lambourne」といいます。読み方はランボーンです。

私が最初に魅了されたのは音楽です。部屋に入ると音楽が流れています。それはBOSEのラジオからで、地元のFM局KKSF 103.7がセットされているのです。KKSFとはSMOOTH JAZZ専門局で、日本でJ-WAVEが開局するときにかなり参考にしたラジオステーションです。CMはあまり入ることなく、心地よい音楽がずっと流れています。いわゆる日本で言う有線放送みたいに楽曲だけが延々と続くのではなく、生放送でときどき天気予報や交通情報も流れます。もちろんCMも入ります。そのナレーションも心地よい声のDJばかりです。

YouTubeに当時のCMも含めたエアチェック素材が少しだけ公開されています。ぜひ心地よい音楽を聞きながらこの記事を読んでください、私が伝えたいことがよくわかるのではないかと思います。

部屋のラジオは103.7Mhz

残念なことに、このKKSFも2009年4月に停波してしまいました。14年も経ったいまでも、ネット上には閉局を惜しむ声が散見できます。


ホテルの場所はサンフランシスコの中心部、丘の上の高級住宅街であるノブヒルで、パインストリート725番地です。建物は1907年の建築で3階建てです。といってもヒストリカルな建造物という感じではなく、程よく現代風にリノベーションされていました。

ここからの写真は、私が2004年の1月11日に撮影したことになっています。全部で3度泊まったような気がしていて、これは2回めではないかと思います。写真がないと雰囲気が伝わらないと思いますが、写真があってもあまり伝わらない限界を感じています。インテリアもファシリティーも、特筆すべきものはないんです。でも現場で感じる静寂感がとてもよく、それは大都市のど真ん中だからこそ感じられることだと思います。

シンプルなベッド リネンは最高にいいものを使っています
要するにビジネスホテルですからターンダウンサービスはありません
デスクは広く、イスも仕事をする前提のもの。リゾートホテルとは違います
ミニキッチンとレンジがあります。いまで言うところのリモートワークに耐えられる設計です
長期滞在できるように衣服などの収納スペースも十分です
見えにくいけどバスタブもあります

ここからはネットに残っていたホテルの写真を何点か載せておきます。時代を感じる解像度ですが私自身の備忘録としても。

エントランスロビー 左がレセプション
ラウンジスペースでは夕方にはワインがフリーで、朝は朝食をここで
当時のホテルの外観

下に載せた昨年撮影されたストリートビューでは、街路樹がかなり大きく育っているのがよくわかります。

このあたりのPine St.はかなりの急傾斜です



「ノブヒル・ランボーンは、スピリチュアル、シンプル、そして静寂を求める旅行者に向けて、健全でホリスティックな環境を提供することを目的とした施設です。」と当時のホテルの説明には書かれていました。まさにその通りの空間でした。欧米でこの手を謳うホテルは、必ずヨガとか言い出したり、館内にインチキ仏像が置いてあって香を焚いちゃうのが常なのですが、ここはそういうことは一切ありません。偽善的なロハスなんて一言も言っていません。都会的な安らぎのあるべき姿とはきっとこうなんだろう、と感じられる居室でした。

客層もいかにもカンパニーエクスペンスと顔に書いてあるエグゼクティブ達ではなく、すべて一人で決めているような感じの人達。特に黒人のエグゼクティブが多かったように思います。

軽い朝食もサーブされていたので、朝は他のゲストと合うことも多かったのですが、ほぼ全員がおひとり様です。そしてみんな必要以上に見知らぬ同志が会話をしない、そのあたりは結構日本的だったりします。カームな空気が流れていました。

私がこのホテルを知ったのは、立教大学観光学科の稲垣教授と仕事をさせていただいたときに、サンフランシスコに行くなら絶対オススメと教えてもらったホテルの一つです。1995年頃の話だと思います。稲垣さんに教えてもらったホテルは、国内外に他にもたくさんありますが、どれも本当に外れがありませんでした。研究者としてホテルを専門に研究している人は日本では当時は彼くらいでしたから。すでに退官されておられるようです。

ノブヒル・ランボーンは小規模高級ビジネスホテルという説明があっていると思います。スモールラグジュアリーホテルという言い方もあるようです。日本ではこのカテゴリーのビジネスホテルは今む昔も存在していないように思います。前述のカンデオホテルズやドーミーインはチェーン展開しているからです。あくまでも独立系の一軒宿でなければなりません。また飲食やバンケットもない方が落ち着いていていいと思うからです。

また部屋にはメッセージとともにサプリメントが用意されていました。これも私には非常に新鮮で、心地よさを演出してくれていたように思います。またアメニティーはAVEDAを使っていました。当時AVEDAはまだ日本に入っていなかったので、現地のショップでシャンプーやソープを買って帰ったのをよく覚えています。

ビタミンサプリメントがベッドサイドに置かれていました
アメニティーはAVEDA

こういうホテルは日本にないものかとずっと探していますが、多分無いと思います。高級過ぎたり、旅館だったり、規模が大きすぎたりというものばかりです。ここは1泊15,000円くらいからでした。当時のサンフランシスコのダウンタウンでは中の上くらいの価格帯ではないかと思います。上の中のNIKKOが28,000円くらいからだったはずです。

日本でブティックホテルに近いものをあえてあげるとすれば、山の上ホテル(インテリアがダサくて飲食とバンケットがある時点でブティックホテルではなくプチグランドホテル)、堂島ホテル(の2代目はかなり良かったけど倒産。現在は建て替えられてマリオット系のすごくつまらないホテルになっている)、神楽坂アグネスホテル(なかなか良かったけどこれも21年閉館で何故だか東京理科大学が所有)、あとはUDSさんのホテルの一部(でもコンセプトも規模もちょっと違う)くらいですかね。結局日本だと歴史ある、というかいい宿泊施設は旅館になっちゃうからなんでしょうか。でも旅館とブティックホテルは全く別物なのです。

ノブヒル・ランボーンのような本物のブティックホテルは共立リゾートやカンデオホテルズにはできないと思いますし、やる必要もないのでしょう。東急ホテルズかプリンスホテルが本気を出すならできるかなあと思います。星野リゾートはビジネス的な旨味がないでしょうから手を出さない気がします。

インターネットは面白くて、現在の高級アパートメントの図面が出てきました。ロビーの右側がかつての朝食やハッピーアワーのためのラウンジです。各部屋の区画はホテルの時と変わっていません。この記事で紹介している写真は203か303だと思います。

1F
2F
3F

Nob Hill Lambourne
725 Pine Street
San Francisco, California 94108

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