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【Review】HEY M!KEE THE ALBUM 2/M!KEE - 地で行くあの日の“たられば”

音楽配信サービスが普及する以前の2010年代初頭。USのHIP HOPシーンを牽引したフリーミックステープ・ムーブメントの勢いは日本へも波及し、AKLOやSALUなど多くのラッパーが頭角を現した。当時mikE maTida(マイクマチダ)名義で活動していた大分県出身のラッパーのM!KEEもその最前線で活躍した一人だ。

M!KEE&ワンコ

その後もAmebreakやSEEDA&DJ ISSOのCONCRETE GREENシリーズで脚光を浴びてきたM!KEEが、今現在の渇望やパーソナルな姿を曝け出したのが12月6日にリリースしたニューアルバムHEY M!KEE THE ALBUM 2だ。ビートからミックス、マスタリングまですべてをM!KEE自身で完結させたセルフプロデュース作品で、繁華街でM!KEEが宇宙一のワンコ(#2「TOKYOバナナ」より)を抱くロトスコープ風アートワークはTechichiが担当。サウンドとリリック、そしてビジュアルからもM!KEEの現在地を示す会心の一作である。

幕開けを飾るのは突き上げるようなトラップサウンドに乗せ2010年代初頭からの記憶を辿る#1「WEEZY VIBES」。ミックステープ・ムーブメントで決起し注目を集めるも思い描いた場所にいない現在から過去への自戒、そしてラップに対する一途な愛と執念が柔軟かつ躍動感あるフローで吐露される。その時代のJ-HIP HOPシーンを追っていた人間の胸に迫る、熱くもユーモラスなストーリーテリングが実に巧みな掴みである。

以降も卑近な語りとユーモアは作品全体に一貫するが、それをキャッチーなフックに昇華したキラーチューンが続く#2「TOKYOバナナ」。小ふざけたタイトルと思いきや、まだ故郷には帰らないという意志を標榜する覚悟の一曲だ。小気味良い伸縮自在なラップの中でも本楽曲での「俺は俺をやることに真面目だ」をはじめとする印象的なラインが確実に耳に残るのは、東京で一途に研鑽してきた実力を示す何よりの左証だろう。

そんな地力と印象的なフレーズをたっぷり堪能できるのが#7「K2MAKU¥EN」。神秘的な鳴りのイントロから一発目に出るフレーズが「夜中にマクドナルド」というのが実に可笑しい。そこから手近な出来事を題材に気持ちの良い押韻を重ね、リズムに慣れてきた頃にグニュグニュと乗り方を変えた末の「ペンパイナップルアッポーペン」のハマり方は極上。LowなノリのTimpo da flippaとの親和性も絶妙で、バースの落とし方もM!KEEに負けず劣らず巧い。

客演とのコンビネーションはSOISを招いた#8「T.C.D.G.B.2」でも発揮。デカダン的なビート上で世知辛い現実が語られていくSOISによる半径3mのリリックに思わず共鳴する。痛切なバースに華を添えるM!KEEのフックも印象的。※以下リンクはパート1にあたる「T.C.D.G.B」。

リリック面で最も毒を感じるのが、L-VOKALSTILL LAUGHIN'』収録の「NO YUP」(ビートはM!KEE)をリメイクした#11「NO YUP ~M!KEEの場合~」だ。M!KEEの好き/嫌いなものを交互に綴る内容で、偏見的なものも含めその切れ味に思わず笑いが込み上げる。「ガガ出た徹子の部屋」なんてワード、普通は出てこない。生活に直結するトピックとして政治も射程に入れるのは若手にはない魅力。

その点は退廃的なビートの#14「日常」でより具象的に語られる。日々の生活に影を落とす嫌な話題が並べ立てられていく。気鬱なテーマだがM!KEEのパーソナルかつ独創的なワードチョイスのおかげで重くなりすぎない巧さがある。「悪いヒトほどなぜかギャグセンが高い」に首がもげるほど頷く。二段重ねのフックにもセンスが光る。

終盤に差し掛かりビートは情緒的に変遷する。L-VOKALを客演に迎えた#15「すばらしい」はゆったりとした歌フロウで暗闇の中の光明を見出そうとする一曲。諦めそうな時に支えになった犬のことなど、ヘヴィながらも人情味あるリリックに共感と親しみを覚える。フロウ巧者のL-VOKALは現代的なコンシャスラップを流石の風格で披露する。

掉尾を飾る#16「あとがきFreestyle」はセンチメンタルなビートで過去と今を連ねる「WEEZY VIBES」と呼応する楽曲。音楽家としての初期衝動から、薬物絡みの苦い思い出、犬への愛、HIP HOPへの消えることのない熱が恩人SEEDAの引用などを交えながら紡がれていく。パーソナルな部分を曝け出し、苦悩や負の感情も多く見られた本作だが、それもすべて「いつか全てが終わる日までは ビートをメイクしてラップします」と歌うこの着地点に繋がっている。決して過去や自分を美化しない真の言葉だからこそ輝くリリック。最後まで聴き終わる頃には作品やラップスタイルのみならず、M!KEEという人間そのものが好きになっているに違いない。

『HEY M!KEE THE ALBUM 2』ジャケット

▶︎作品概要
1. WEEZY VIBES
2. TOKYOバナナ
3. A.I.T.I.-4
4. HOW
5. UNTOLD
6. K2MAKU¥EN feat. Timpo da flippa
7. Honaloochie Dream
8. T.C.D.G.B.2 feat. SOIS
9. ALI de KRGRS 
10. ムーンショット
11. NO YUP ~M!KEEの場合~
12. 麻子
13. XOXAXAY
14. 日常
15. すばらしい feat. L-VOKAL
16. あとがきFreestyle

▶︎M!KEE:TunecoreTwitter

▶︎音楽ライター・アボかど氏による『HEY M!KEE THE ALBUM 2』レビュー

最後まで読んで頂きありがとうございます。