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イモムシは体を曲げるてうんちに似せる?

チョウやガの幼虫はイモムシと呼ばれ、生き物好きや小さい子どもたちに人気です。

そして近年、イモムシにフォーカスした企画展やハンドブック図鑑などが出版されており、多様な体色や形のイモムシは一般の人に興味を持たれてきました。そして生き物の研究者もおなじように、赤や黄色などの奇抜な体色や木の葉に非常によく似た体色に魅了され、その模様や色彩の持つ意味を調べてきました。

イモムシの隠蔽色
今回は多様なイモムシの色のなかでも、木の幹や地面などによく似た体色をすることで、捕食者から見つからないという、『隠蔽色』のイモムシを紹介します。

実は皆さんが思い浮かべている地味な色の隠蔽色と呼ばれる体の色には、研究者が詳しくみていくと2つの種類に分けることが出来ます。

1つ目は、捕食者に見つからないような体の色をしたイモムシです。このイモムシはみなさんが隠蔽色に持つイメージ通りで、いかに地面や樹の幹などの背景に同化し、見つからないようにするかというものです。

2つ目は、仮に捕食者の目にとまったとしても、餌だと認識されないような体の色のイモムシです。このイモムシは葉や枝、花などに体色を似せることで、鳥などの捕食者に見つかっても餌だと認識されないというもので、仮装(マスカレード)と言われています。

しかし、研究の方法というのは難しいで、捕食者が実際にイモムシを発見できなかったのではなく、イモムシを発見したが餌だとは思わなかった、ということは、どのように証明すればよいのでしょうか。

この難問に対して、グラスゴー大学のSkelhornらの研究グループは、画期的な実験をおこないます。

彼らの2010年にscienceに掲載された論文では、枝に似たイモムシをニワトリに与える実験をおこないました。彼らの実験で画期的だったは、片方のニワトリのグループには、イモムシを餌として与える前に本物の枝を提示し、もう片方のグループには枝に紫色の紐を巻き付けたものを提示してからイモムシを餌として与え、ニワトリがどのようにイモムシを扱うか捕食するまでの時間を調べた点です。

本物の枝を見た鳥は木の枝のイメージを頭のなかでもつので、そのあとで枝に似たイモムシを見ると、食べるのを躊躇するはずです。
一方で、紫の紐を巻きつけた枝を提示された鳥は、木の枝のイメージが頭のなかにないことから、枝に似たイモムシを見るとすぐに食べてしまうと考えられます。

このような素晴らしい実験デザインで、研究グループは枝に似たイモムシを見た鳥たちの混乱度合いをデータとして取得したのです。

その結果、枝をそのまま見せられたニワトリは躊躇したためにイモムシを攻撃するまでに時間をかけており、紫の紐を巻きつけた枝を見せられたニワトリよりも慎重にイモムシを扱うことがわかりました。

この結果は、環境に仮装(マスカレード)する体色の機能を証明する研究として、行動学の教科書にも取り上げられています。
 
姿勢をかえる
イモムシたちの仮装(マスカレード)は、植物の色や構造だけにとどまりません。次の例は、鳥の糞です。

鳥の糞は黒と白の組合せで色が出来ており、イモムシの中ではアゲハチョウの幼虫やジャコウアゲハの幼虫が糞に非常に似た色をしています。この体の色は、鳥などの捕食者から発見されても餌だと思われないようにする機能があると考えられています。

加えて、イモムシたちは鳥の糞に似た体の色だけなく、さらなる工夫をして自身を鳥の糞に似せていることがわかりました。

2015年にAnimal Behaviorに掲載された論文では、野外に白黒のイモムシと緑色のイモムシの模型を設置し、鳥たちにどの程度攻撃されるかの割合を調べることで、糞に似せることの利点が確かめられました。

この研究のポイントは色だけでなく、模型を2種類用意したことです。その2種類とは、まっすぐな形の模型とクの字に曲げた模型の2種です。

鳥の糞はなんとなくイメージにある通り、細長く真っ直ぐなのではなく、クの字に丸まっています。その丸まり具合を再現することで、さらにカモフラージュの正確さは高まると考えられます。

実際に野外で行った実験では、クの字に曲がったイモムシの模型が最も攻撃されにくいことがわかりました。そして、糞に擬態したイモムシは、野外でも体を曲げて生活している様子が見られたことから、カモフラージュの効果を高めるためにイモムシたちはからだの色に加えて、姿勢までも調整していることが明らかになったのです。

ある生物学者は、イモムシのことを、自然界のホットドックと表現しました。それほどまでに、イモムシは様々な生き物の餌として食べられているのです。一見弱々しいイモムシたちのしたたかに生きる工夫に注目し、その生態のもつ意味を詳しく調べてみると、更なる面白い発見が得られるかもしれません。


以下、引用文献
Skelhorn, J., Rowland, H. M., Speed, M. P., & Ruxton, G. D. (2010). Masquerade: camouflage without crypsis. Science, 327(5961), 51-51.

Suzuki, Toshitaka N., and Reika Sakurai. "Bent posture improves the protective value of bird dropping masquerading by caterpillars." Animal Behaviour 105 (2015): 79-84.

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