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青いバラ問題

自然界になぜ青いバラが存在しないか?

 青いバラと聞くと、多くの人がその美しい姿を想像すると思います。しかし、花屋を訪れて実際に青いバラを見たことのある人は少ないはずです。バラを掛け合わせて様々な色を作り出すブリーダーは、青いバラは作成することのできないものだと考えていました。現在知られている青いバラのほとんどは、白い花に青い染料を吸わせることで作られています。つまり市販されている青いバラのほぼ全ては、白いバラなのです。ここで疑問が浮かんできます。

なぜ、青いバラは自然界に存在しないのでしょうか。また、青い色の生物が少ないのは何故なのでしょうか。この疑問に対する答えが自然科学の分野で探られてきました。

今回は、青いバラが存在しない理由についての2つの仮説を紹介します。

一つ目の仮説は、自然界で青色は、作成するのが非常に難しいか、または不可能であるというものです。生き物の色は2つの方法で作り出されています。その1つが色素です。こちらはイメージしやすく、もっている色素によって色が変わります。たとえばカロチノイドという色素をもっていれば、その生き物は赤色になります。生き物の色を作り出すプロセスの二つ目は、構造色です。構造色は、それ自体に色はついていませんが、微細な構造に反射した光が色になります。最もイメージしやすい例はCDでしょう。CDのような体の色をもっている生き物として、タマムシが挙げられますが、まさにタマムシの体の色は構造色によって作り出されています。

バラに話を戻しましょう。バラを含む多くの植物は、1つ目に紹介した色素で発色しています。青色は、ブルーベリーがアントシアニンという色素で青色の果実を作り出していますが、青色の色素を植物が生成することは難しく、先ほどあげたブルーベリーは例外的な存在です。言い換えれば、ブルーベリーは進化の過程で青色の色素を合成する機構を獲得した異端児であるといえます。その一方で、バラは進化の過程でアントシアニンを合成する機構を獲得しておらず、青色になることはできないのです。ブリーダーがいくらバラを掛け合わせても青色が生まれなかったのはこのためだったのです。

しかし驚くことに、2004年にサントリーが世界で最初に遺伝子操作を行い、青いバラが作られました。薔薇の遺伝子を操作することで、青色の色素を合成させられるようになったのです。こういった例はあるものの、2022年現在においても、自然の条件で青色のバラ科植物は見つかっていません。

1つ目の仮説は、青色の色素を植物が生成することは難しく、バラが青色の色素を合成できないというものでした。もう一つの仮説は、青という色はバラにとって利点が少ないため、バラは青色を身につけてこなかった、つまり青色になるように進化してこなかったというものです。

まず、花が色を付ける理由は、花粉や種子を運ぶ昆虫や鳥などに自身を見つけてもらうためです。そのため植物の果実や花は、目立つ色である必要があります。しかし生き物によって見える色は異なり、たとえば人は赤、青、緑が見えますが、犬の仲間は青色と黄色しか見えません。

ここで、2020年に発表された面白い研究を紹介します。10000種以上の植物について花の色を調べたところ、白色が最も多く、次いで黄色、ピンク色と続きました。そして青色は非常に少数でした。そして白色の花は夜行性の蛾に好まれ、黄色はハナアブ、赤色はハチドリなどの鳥類、青はミツバチに好まれることが示唆されました。ミツバチなどのハチは進化の歴史でそこまでバラを好んでおらず、バラにとっては青色になるメリットがほとんどなく、むしろ青色よりも別の色になった方が他の昆虫におどずれてもらう機会が増え、その結果として多くの子孫を次の世代に残せるでしょう。そういった理由から、青色のバラが存在していないのではないかと考えられています。

今回紹介した仮説はある程度、青いバラが自然界で存在しない理由を説明できるといわれています。しかし、まだ誰も思い付いていない仮説こそが、青色のバラが存在しない理由を説明するかもしれません。皆さんも青いバラが存在しない理由を考えてみてはいかがでしょうか。

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以下、引用文献

Silvia Vignolinia, et. al, “Pointillist structural color in Pollia fruit” Proc. Natl. Acad. Sci. USA, vol. 109 no. 39 (2012)

『青いバラ』への挑戦・サントリーグローバルイノベーションセンター

Kattge, Jens, et al. "TRY plant trait database–enhanced coverage and open access." Global change biology 26.1 (2020): 119-188.
Lunau K., Maier E. J. (1995). Innate colour preferences of flower visitors. J. Comp. Physiol. A 177

Goyret J., Pfaff M., Raguso R., Kelber A. (2008). Why do Manduca sexta feed from white flowers?

Lunau K., Papiorek S., Eltz T., Sazima M. (2011). Avoidance of achromatic colours by bees provides a private niche for hummingbirds. J. Exp. Biol. 
 
*花の色の機能的利点として色素は、紫外線から花や種を守ってる働きがあります。
*バラなどの赤色は交配によって人工で作られているため、自然界では青色より稀です。
*最新の研究で花の色の違いの進化プロセスは送粉者の好みだけでなく、複雑であることが下記の論文でまとめられています。
Trunschke, Judith, et al. "Flower color evolution and the evidence of pollinator-mediated selection." Frontiers in plant science 12 (2021).


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