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彼女の知らないいくつかのこと

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一日一本書き下ろし短編小説。
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#屈原

石をいだいて沈む

曰く遂古の初め、誰か之を伝え道える。彼はまだ仄暗い汨羅江(べきらこう)の辺で呟いてみるけれど、その声は茫漠とした川霧のなか寄る辺なく漂うばかり。彼の高い教養や理念など、今のこの国では必要とされないのだ。まして詩心など、いかに美しい言葉を並べたとて、誰の胸にも届かない。ならばこれ以上、こんな辺境の地で生きながらえることにいったい何の意味があるだろう。思えば若かりし頃、戦乱の祖国を思い、祖国を憂い、仲

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